第十四話 破滅の序

 直線状に放たれた光は、射線上の人間を全て殺した。

 

「ま、魔物だあああああああああああ!」


 誰かが叫ぶ。

 叫びに叫びが累乗され、混乱は瞬く間に伝播し、場は阿鼻叫喚の様となった。


「あ、うあっ……!」


 狙うべきは決まっている。

 最初のヒナの一射で、真っ白の女性は上半身を消し飛ばされた。下半身のみが倒れ伏し、どろりと流れる血やなにやらの傍に、少女がぺたんと座り込んでいる。

 その命を、刈り取ればいい。


「ごめんなさいね」


 未だ動けずにいる少女へ近寄り、短刀ナイフを振るう。

 あっけなく少女の首は斬られ、血が噴出した。

 視界一面を、血が覆う。

 

 そうして私は、どこかの大広間の中にいた。

 大仰な絵の描かれたふすまと障子に囲まれ、何十畳もの広さの畳敷きの大広間。


「ここは……?」


 周囲には誰も……ああ、いた。

 視界の下に、小さな女の子が、ぼんやりと私を見上げて座っている。

 その子以外は、私を除いて誰もいない。

 ヒナも、首を斬られた少女も、下半身のみの女性の死体も、真っ黒な瞳の少女も。


よみ……ここにいたのか」 


 呼びかける声。

 聞いた憶えのない声。

 聞いた憶えが起こりつつあるその声。

 振り返ると、男がいた。

 黒の長髪を頭の後ろで結んだ、一人の男。


「「お兄様」」


 私と、その小さな少女の言葉が重なる。

 口をついて出たその言葉に、私は困惑する。

 私に、兄などいたか?

 いなかった。いなかったはずだ。


「母上が呼んでいる」

「お母様が?」

「ああ。我ら烏有悠うゆゆ家の可愛らしい一人娘のお前に、お料理というものを覚えてもらいたいそうだ」

「料理……そう、分かったわ」

「なんだ、乗り気じゃないな」


 肩を竦めるその男に、私は言う。


「あなたは誰?」

「……? 何を言っている?」

「名乗りなさい」


 心底ワケが分からないといった風な顔の男は、そうして言った。


「私は、烏有悠うゆゆ九泉きゅうせん。その子の兄だよ。烏有悠うゆゆよみ。私のただひとりの妹のな」


 この小さな女の子もまた、ヨミという。

 ……ワケが、分からない。

 ウユユとかいう気の抜けた言葉も、聞き覚えがない。

 

 ここは、なんだ。

 こいつは、なんだ。

 私はどこにいる、戻らなければいけないのに。

 戻らなければ、ヒナが悲しむ……だから、戻らなければ。


「じゃあ、行くぞ、詠」

「うん」


 男が、私に背を向ける。

 詠はその後ろを、覚束ない足取りでついていった。

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