第十三話 破滅への連景

 六つの光があった。

 だが今は、ふたつ消えてしまった。

 残っている光は、四つ。


「やられたのは枯種だ。そして、天に選ばれた哀れな何者かも、同時期に死んだ」


 なぜか楽しげに、少女は……少女を模した悪魔は言う。

 玉座のような肘掛椅子に深々と座り、魔王はその言葉を無表情に聞いていた。魔王の頬には赤黒の紋様が走り、瞳はどす黒い血液のように濁っている。

 

「勇者は順調らしいぞ。さて、どうする魔王陛下よ」


 にやにやと、悪魔は言う。

 無価値のディアは、魔王に尋ねる。


「……」


 封印が弱まるということは、

 外側から侵入できるとともに、

 内側から外へ干渉できることでもある。


 巨大な採光窓から差し込む光は、魔王の足元に影を映している。

 その影が、ふと、地面から剥がれた。


 ◇


 人が多い。

 にこやかに歩むヒナの傍ら、周囲の視線に若干の居心地の悪さを覚えながら私は歩いていた。じろじろと、人間達は私たちを見る。なぜだろうか。正体がばれて……いるわけではないだろうけれど。あんまり、見られるのは好きじゃない。


「────」


 眼前の人群れの中に、その者達を見つけた。


 高校生ほどの女の子、腰には長剣を提げている。

 真っ黒な瞳の、お葬式のような服装の子。

 真っ白な、どこまでも真っ白な女性。

 直感、する。

 彼女達は──

 

 何事もなければ、買い物は平和に終わるはずだった。

 

 だが、もう手遅れだ。

 

「ごきげんよう────」


 深海のように暗く冷たいヒナの声。

 私は、双刀を両の手に握りしめた。


 ◇ 


「────ぁ」


 ひときわ強く、その存在を感じる。

 異常な速度で動いて、何処かへと向かっている。

 場所は、この近く。

 大草原に一番近い町。

 ナギョなんとかとかいう町。

 その気配は、魔王の影に類似する。

 だが、その大きさは、存在の圧は、遥かに違う。

 それは正に────魔王、その者。


「ああ、ついに……」


 ジールは、胸の高鳴りを覚えつつ、その場所を目指した。


 死だ。

 死が、待っている。

 終わりが、私を待っている。

 ようやく、ようやくの、再びの、もう一度の。


 ◇


 破滅は決定している。

 それについては理解している。

 自らが魔王の幹部である限り、勇者による滅びは運命だ。

 しかし、


「ごきげんよう──勇者御一行様」


 叛天の十三篇は、訪れる破滅を受け入れるつもりは毛頭なかった。

 

 第三篇と、第四篇。

 それらの命を葬り、訪れた破滅ゆうしゃを消す。

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