閑話 西へ
「勇者殿、こんなものがありました」
「村長の家の地下に……これはきっと年代物ですよ」
お酒です。私飲めません。
「クラウ、私はお酒が飲めません」
「またまた~、マシロったらそんな教科書の例文みたいな受け答えしてっ」
クラウさん、お酒が好きなのか、ちょっぴりテンション高いです。少し、その、
「ウザさが増していますよ、クラウ」
マシロさんがはっきり言ってしまいました。
「
うふふ、とクラウさんは笑います。
そういうものなのでしょうか。
「誰も飲めないのなら仕方ありません。置いていきましょう……一口だけ頂いて」
クラウさんはテーブルにお酒の瓶を置きます。飴色のガラスに、透明な液体がちゃぷちゃぷしています。白ワイン? お酒の種類はさっぱりです。
この家のコップを勝手に拝借して、クラウさんはとぽとぽと透明の液体を注ぎます。ちょっとすっぱい匂いが漂ってきました。
「寝すぎた古酒とは、どういう味なのか」
ぐいと、一息に飲み、「すっぱい」と悲しそうな顔をしました。その変化のあっという間さは、一瞬で天国から地獄へ落っこちたかのようです。
「……」
「そういうこともありますよ、クラウ」
今まで静観していたマシロさんが、そう慰めの言葉をかけます。
「これが、私への報いでしょうか」
どんよりと、クラウさんは言います。
「いいえ。あなたへの報いはもっと大きく、より残酷な
マシロさんがそう止めを刺し、ふふと笑いました。
◇
「さてさて次は何処へ行きますか」
クラウさんはそう言い、勇者殿、と私の方を向きます。
「聖剣を、ぱたんとしましょう」
え?
「此処は東です。北は止めておくとして、後は南と中央、それに西があります。正直なところ、私は何処へ行けばいいのか分かりません。だから、聖剣をぱたんとして、指し示した方向へ行きましょう」
いえ、クラウさんには未来が分かる台本があるんじゃ……。
「台本、でしょう?」
私の考えを読んだかのように、クラウさんは目を細めます。
「最終的に魔王を倒せるというだけで、その過程に関しては本を開くたびに変化するのです。だから、これが正解というルートを、私は決めかねているのです」
そのために、私の決定を得ようというみたい。
「さ、勇者殿、聖剣を、地に立ててください」
言われて、私は戸惑いながら、聖剣の先を地面に立てました。
マシロさんは、にこにことその様子を眺めているだけです。
パタンと倒すと、剣の向く先は、
「西、ですね。ではでは行きましょう勇者殿」
西に決まりました。
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