第十一話 曙光

 風は凪いでいる。

 ぴたりと静止した水に、静かにつかっていた。

 ひんやりとして気持ちいい。

 東の空が、俄かに明るくなり始めた。

 夜明けだ。

 曙の光が、草原を照らす。

 私が目覚めて、一度目の朝。

 まだそれくらいしか経っていない。


「ヨミ」


 ちょっと怒ったような声。

 見ると、曙光を背後に、まるで後光を背負うかのようにヒナが立っていた。逆光により表情はよく窺えないが、ちょっぴり怒っているっぽい。


「怪我は、ありませんでしたか?」


 ヒナは過保護だ。

 そして、心配性だ。

 孤独を恐れ、生じるかもしれない未来の可能性に怯えている。


「ううん。全然」


 だから私は、彼女の不安を取り除くことに努めよう。


「なら、良いのです」


 ほっとした表情になり、ヒナは服を脱ぎ始める。


「わたくしも入ります」

「うん」


 服を脱ぐヒナの姿をじっと見ていると、


「う、うう……」


 と頬を赤らめ、止まった。


「その、ヨミ。恥ずかしいので、凝視は……」


 ごめんなさい。


 ◇

 

 そうして、いくらかの月日が流れた。

 その間も、大草原に攻め入る人間を殺し続けた。

 いつからか、私達は双極と呼ばれ始めたらしい。

 人間がそう言っているのを何度も聞いた。


 戦闘は多いものの、至って平穏な日々。


 ある日、ヒナは言った。

 遠く、東の小さな神殿に、勇者が召喚された──と。


 ヒナは無表情ではあるものの、内心の焦燥は透けて見える。

 勇者とは即ち、終わりだ。

 魔王幹部が私達である以上、我不関焉われかんせずえんとはいけないだろう。

 やがて訪れる筈の破滅を、しばらく忘れていたその最後を、私は再び、意識し始めた。

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