第二話 ヒナ

 バスケットに盛られたパンの山と、清潔な白色のスープ皿に満たされている、とろみのついた白色のスープ。ほかほかと湯気が立ち昇り、ミルクのような香り。美味しそう。


「質素なもので、申し訳ありません」


 微かに視線を落とすヒナへ、


「ううん、そんなことない。とても美味しそう……食べていいかな?」


 本心だ。美味しそうだし、早く食べたい。


「もちろん。どうぞお召し上がりを」


 花のような笑みを咲かせ、ヒナは笑った。

 綺麗な、完成された貴族の微笑。その黄金の瞳がまた、優雅さに拍車をかけている。

その笑みを見ていると、なぜだか泣きそうなほどに、胸の奥に切なさが込み上げてきた。


 ◇


「すみません、ヨミ。シャワーも浴槽も、此処にはありません」


 食後、椅子に腰かけて窓の外の宵闇を、なにを思うでもなく眺めていると、ヒナはそう言ってきた。


「その代わりと言ってはなんですが、近くに湖がありますの。澄んでいて、とても綺麗な」


 ヒナの言葉に、あまり関心が湧かなかった。お風呂に対するこだわりを、私は持ち合わせていないらしい。


「その、行きませんこと?」


 微かに頬を赤らめ、ヒナは視線を伏せつつ言った。


「いいわね、行きましょう」


 笑みを浮かべて、私は言う。正直なところ、身体の汚れなどはどうでもいい。ただ、ヒナの要望は、できる限り呑むつもりでいただけだ。


「はい。ふふ、それでは参りましょうか」


 心の底から嬉しそうに、ヒナは笑った。

 ……また、だ。

 その笑顔が、また、私の心をかき乱す。

 ぞわぞわと身体中が高揚する。

 ざわつくこの感情に、私はどのような解釈を付ければいいのだろう。

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