第34話 嫉妬

「その、本当にごめん」


 俺が思いきり頭を下げると、彼女は諦めたように、寂しそうに目を伏せた。


「そっか。じゃぁ、海は諦めるね。うん、他の拓斗くんも楽しいこと、何かしよ?」


 無理に笑って、そう言ってくれる。でも、それが彼女の本心でないことは今の俺になら分かる。一年前、いや、付き合う前だったらまだ分からなかったかもしれない。

 でも、ずっと彼女を見ていたから、一緒にいたから、だから、それが本当の笑顔じゃないことは分かった。

 だから、俺はずっと隠していた本心を言うことにした。


「さっきのはそう言う意味じゃないんだ。その、海に行きたくない本当の理由、言うね」


「え?う、うん」


「その、海に行くってことはメーちゃんも水着になる、ってことだよね?」


「……うん。そうだね」


「それで、さ。その、俺、メーちゃんの水着姿を他の男に見られたくなくて、その、だから、海に行くの、嫌、って言うか……。本当にごめん!でも、その……」


「そっかぁ……。よかったぁ」


 彼女は安心したように長い息を吐いた。

 え?どういうこと?


「その、すごい嫌がってたから、わたしと海に行くのがそんなに嫌なのかな、って思っちゃったから。でも、そういう理由だったらいいかな、って」


「本当に、ごめんね」


 確かに嫌だったけれど、そんなに顔に出てたのかな?そのせいで彼女を不安にさせちゃったのかな……?


「……あの、やっぱり、行く?その、確かに俺は嫌だけど、でも、その……」


「ううん、いいよ。行きたかったけど、でも、その、本当はね、わたしも水着になるの、少し恥ずかしかったから。その、あの……うぅぅ……」


 急に顔を真っ赤にして口ごもってしまった彼女。どういうこと?


「……メーちゃん?」


「あ、あのね?この前、麗ちゃんと買い物に行ったんだけど、その、そこでね、新しい水着を、その、……ごめん。聞かなかったことにして!」


「え?その新しい水着「あーーーーー」


 ……俺の言葉を聞かないように彼女は耳を塞いで声を上げ続けた。そんなに、その新しい水着の事が嫌、なのかな?

 俺はそっと彼女の両手を取って、精一杯優しく微笑んだ。彼女は安心したように声を上げるのを止めて、手を下ろした。


「大丈夫。俺は何も聞いてないよ」


「う、うん。ありがとう……」


 彼女は俺の言葉で落ち着いたようだったけれども、それでもまだ顔は赤いままだった。


 ……でも、気になる。新しく買った水着。それを聴かなかったことにって、恥ずかしいって……もしかして、露出が多かったり、セクシーなやつだったり……?でも、メーちゃんがそんなの、買うかな?いや、麗ちゃんって、漆宮さん、だよな?だとしたら、あり得るかも……。だとしたら、やっぱり、海に行かないで正解だったな。だって、そんな水着姿を他の男に見られるなんて俺が耐えられないから。

 うん、この事は絶対に聞かないことにしよう。

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