第33話 拒否
「え?海?」
「うん。その、夏っぽいことしたいなぁ、って思って……。ダメ、かな?」
甘えるように上目使いで見つめてくる彼女。その姿が可愛くて、思わず俺は頷いてしまいそうになる。けれど、海……。ってことは、そう、だよな……。
「……でも、その、海って遠くない?」
俺もはっきりとは覚えているわけではないけれど、親に連れていってもらった時は車で結構な時間、かかった気がする。それを電車で行くとなると……。それに、まだ調べてないけれど、駅から遠かったら……?
やっぱり、海はなしの方が……。
「そうかも。でも、ほら、朝から出れば、お昼くらいには着かない、かな?」
「……ちょっと待って。今、調べるね」
俺はスマホで海水浴場を調べた。駅からは近いことが分かったけれど、その駅まではやっぱり、結構時間が必要みたいだ。
俺はその画面を彼女に見せながら説明をした。
「これ見て。最寄り駅はここで、それで、電車だと、えぇと、ちょっと待ってね。…………そう、これだから、2時間はかかるみたいだよ?」
「ん~、やっぱり遠いね。でも、わたしは、その、拓斗くんと一緒ならそれくらい大丈夫、だよ?」
その言葉と共に向けられる笑顔。それだけで俺は「それじゃ、行こうか」だなんて答えてしまいそうになる。けれど、
「でも、ほら、その……えっと……」
断ろうとして、でも、その後の言葉が出てこない。
「……ねぇ、拓斗くんは、その、わたしと海、行きたくないの……?」
俺が頑なに断ろうとしているのが伝わったのか、彼女は少し、寂しそうに聞いてきた。
違う。行きたくないわけじゃない。けれど、海だけは、どうしても……。
「ごめん!その、メーちゃんと行きたくない、ってわけじゃないんだけど、いや、むしろ、俺も出来ることなら行きたいよ。でも、その……」
「何?」
「その、あぁ……がっかり、しない?」
「え?えぇと、どういうこと?」
不安そうにしていた彼女は急に驚きの表情に変わった。
俺は深呼吸をしてある一つの事を伝えようと決意した。
学校での体育は男女別。と言うか、それ以前にプールの授業がないから、彼女は今から言うことを知らない。
「その、俺、実は全く泳げないんだ」
「その、大丈夫、だよ。だって、その、わたしも泳げないから……」
「え?そう、なの?」
「……うん。その、ね、さっきも言ったけど、夏っぽいことしたいなぁ、って思って、それで、海とか、どうかなぁ、って思ったんだ。ダメ?」
「その、泳げないのに海って、えぇと、その……」
「やっぱり、イヤ、かな?泳げなくても、砂浜で遊んだり、とか色々あると思うんだけど……」
俺が否定的な事を言う度、彼女の表情が曇っていった。本当に俺と夏っぽいこととして、海に行きたいだけなのに。それなのに、俺がちょっとしたことで否定ばかりをするから……。
俺は、彼女にこんな表情をさせたかったわけじゃなかったのにな。
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