第31話 記憶

「あの頃から拓斗くんはわたしの王子様なんだよ」


 彼女は頭を俺の肩に乗せてきた。俺はそっと、彼女の肩を抱いた。

 そうしながらも俺は彼女に申し訳ない気持ちで一杯だった。だから、俺は本当のことを彼女に話し始めた。


「そんなんじゃ、ないよ。あの時、俺も親とはぐれてたんだ」


 彼女が動く気配がする。けれど、そっちを向くことができない。彼女がどんな表情で俺の言葉を聞いているのか、それを知るのが怖かった。


「親とはぐれて、どうしようもなくて、そんな時、たまたま一人でいる子を見つけたから、だから、ちょうどいいや、って……。ただ、それだけなんだよ」


「それでも、わたしは拓斗くんに救われたんだよ?」


「違うよ。救われたのは俺の方。メーちゃんがいなかったら、何もできずにいたと思うから」


「わたしだって、そうだよ。ここで泣いてるだけだったと思うし」


「じゃぁ……、二人とも、だね」


「……うん」


「あの日から、俺たちはお互いの事、好きになってたんだね」


「えっ?」


「俺、二学期が始まってから学校中を探してたんだ。メーちゃんがいないかな、って。あ、いや、その時はメーちゃんだって知らなかったけど」


「うん。小学校も中学校も別々だったもんね」


「うん。だから、当然いるはずもなくて、でも、そのときの俺には学校と家が世界の全てだったから、必死になってて……。でも、見つからなかったから、途中で諦めちゃった。ごめん」


「ううん、いいよ。だって、わたしなんて拓斗くんのこと、探さなかったんだよ?大切な、本当に大切な思い出として心にしまってただけなんだから」


「それでも、メーちゃんは俺を見つけてくれた。俺は、分からなかったのに」


「でも、それでも、拓斗くんがあの日、告白してくれなかったら、今、こうしていないよね?」


「なんか、不思議だね。お互い、小さい頃に出会って、好きになって……。それでも、離ればなれ出会うことはなくて。それで再会したら、また好きになった。これって、その、運命、みたいだね」


「うん。わたしたち、運命だったのかな」



 その後、俺たちは初めて会ったあの日と同じように手を繋いで、祭りを楽しんだ。

 本当に運命だとしたら、この先ずっと、死ぬまで一緒にいられるのかな?もし、そうなったら、最高だな。

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