第30話 過去
「わたしたちが初めて会ったのって、たぶん、ここ、だよね?」
え?高校の、入学式、だよね?
そんな思いは口から出ることはなかった。
けれど、俺は彼女にここであった記憶はない。いや、そもそも、この夏祭りに来るのも相当久しぶりな気がする。
「小学校の一年生の頃、だったかな?わたしは毎年お母さんに連れられてここに来てたんだ。あの日も今日と同じ柄の浴衣を着て」
小学校一年生……?たしか、その時はまだ俺も親に連れられて来ていた気がする。それで、その時……
「あ!」
記憶が繋がったとき、思わず声が出てしまった。
彼女が不思議そうに俺を見ている。
「思い出した。確かにここで泣いてる女の子がいた」
「うん、それ、わたしだと思う。その時、わたしね、お母さんとはぐれちゃって、どうしたらいいのか分からなくて、寂しくて、ただ泣くことしかでなかったんだと思う」
「そう、だったんだ」
「うん。それで、そんなわたしに拓斗くんが近づいてきて、『せっかくの祭りなのに泣いてたんじゃつまんないだろ』って言って、わたしを無理矢理引っ張って見て回ったよね」
「うん……。その、ごめん。楽しい祭りなのに、泣いてる子がいるのが嫌で、その……。本当、ごめん!小さかったとは言え、自分勝手だったよね」
「ううん。いいの。それでたぶん、わたしも救われたから。だって、あのままだったらずっと、ここで一人で泣いてただけだから。だから、拓斗くんと一緒に回れたのはわたしにとってはいい思い出、だよ?」
「そう言ってくれると、嬉しいよ」
「それで、その、色々回った後にお母さんと会えた時のこと、覚えてる?」
「たしか、一人でどこに行ってたの、って怒られたんだっけ?」
「うん。そしたら、拓斗くんが『こいつはなんも悪くないよ!俺が勝手に連れ回してたんだから』って庇ってくれて。わたし、それがすっごい嬉しかった。だから、たぶん、その時にわたしは拓斗くんのことを好きになったんだと思う」
「でも、それが俺だって、どうして分かったの?俺は、その、メーちゃんがその子だって言われるまで気づかなかったのに……」
「最初は、分かんなかったよ。でもね、何となく、そうなんじゃないかなぁって、そんな気はしてた。だから、この前花火したときにこういう浴衣が似合いそう、って言ってくれたから、やっぱりそうだったのかな、ってそう思って……。だから、今日、この場所で、答え合わせをしたかったの」
そうだったんだ。あの頃から俺を……。俺にとっても大切な思い出だったはずなのに、今まですっかり忘れていた。それを彼女はずっと……。
それに、駅からここに来るときに感じた既視感。あれはこの事だったんだ。
目の前の彼女と記憶の中の儚い女の子が重なる。
俺は彼女を見ていられなくなって、顔を背けてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます