夏祭り、浴衣と思い出
第29話 浴衣
今日は前から約束していた、夏祭りの日。
いつものように駅で彼女を待っていた。周囲には浴衣の人たちがたくさんいて、自然と期待に胸が膨らんだ。どんな浴衣を着てくるんだろう、そんな想いからスマホで浴衣を検索してみる。
あ、この浴衣は似合いそう。こっちのは、ちょっと違うかな。そんなことを考えながら色んな画像を見ていると、
「拓斗くん」
そんな俺を呼ぶ彼女の声が聞こえた。振り返ると、少し不機嫌に見える彼女が立っていた。
「メーちゃん、どうしたの?」
「だって、拓斗くんが他の人を見てデレデレしてるから……」
「え?あの、これは違うよ?その、メーちゃんがどんな浴衣着てくるのかなぁ、って楽しみで、その、調べてただけで……」
俺がそう言い訳をすると、彼女は次第に嬉しそうな表情に変わっていった。そして、恥ずかしそうにしながらも、
「それじゃ、その、わたしの浴衣、どうかな?」
と聞いてきた。
彼女の姿を見る。いつも通りの赤い、アンダーリムの眼鏡。普段は下ろしている長い黒髪は結い上げられている。そして、前に話していた通り、浴衣を着ている。白地に何輪もの綺麗な花。そして、それは彼女にとても似合っていた。だから、俺は
「うん、すごい似合ってる」
そう正直に言った。
すると、彼女は嬉しそうに微笑み、「行こう」と、俺の手を取って歩き始めた。
嬉しそうに歩く彼女と並んで歩いていると、不思議な感覚に陥った。
浴衣姿の彼女は初めて見るはずなのに、今まで他に彼女なんていたことないのに、どういうわけか前にもこんなことがあったような気がする。浴衣姿の女の子と一緒に歩いていた記憶が……。
これも既視感、というやつなのかな、と思って俺は彼女との夏祭りデートを楽しむことにした。こんな下らないことで彼女との時間を無駄にしたくなかったから。
そうして二人で祭りの独特な雰囲気の中、様々な出店を回った。そして、少し離れたベンチに二人で腰かけたとき、彼女が突然、こんなことを言った。
「ねぇ、拓斗くんは覚えてる?」
……何のこと?
どう答えればいいのか分からず、俺は黙っていた。すると、彼女は語り始めた。
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