第28話 花火
二人で近くの公園へと移動をした。そこにはすでに子供たちの姿はなく、俺たち二人きりだった。
まだ、明るく、花火をするには時間が早かったから、そこでしばらく話をしていた。
そして、気付けば辺りは暗くなっていた。
「そろそろ、始めようか」
俺がそう言うと、彼女は頷いて花火の袋を開け始めた。
彼女が取り出した線香花火に俺が火を着けると、小さな火花がいくつも舞って、花を咲かせた。
「綺麗、だね」
彼女はそれを見ながらそう呟いた。けれど、俺は花火よりも彼女に眼を奪われた。
花火の無数の色に照らされる彼女の横顔。花火の光が眼鏡に反射して、まるで、彼女自信も光輝いているように見えた。
「拓斗、くん?」
俺が答えないことを不思議に思ったのか、彼女が俺の方を向いたとき、ちょうど花火が終わってしまった。
花火はあっという間に終わってしまう。けれど、彼女はその後も変わらずに素敵で……。
「メーちゃん、もう一本やる?」
「うん。でも、拓斗くんは?」
「俺は、花火よりメーちゃんを見ていたい」
「え……?」
「花火に照らされたメーちゃんがすっごい綺麗だったから」
俺が思っていたことをそのまま伝えると彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「そんなこと、ないもん」
彼女は小さく呟いて、それでも新しい花火を手にした。俺はそれに火を着け、また彼女を眺めた。
赤く染まった顔に映る色とりどりの花。
彼女の着ている真っ白のワンピースにもそれは映え、とても綺麗だった。
でも、もし、彼女が浴衣を着ていたら……?今と同じ、白い生地にたくさんの花。そんな浴衣を着た彼女が今のように花火をしていたら……。
「今日、花火したの失敗だったかな」
花火がポトン、と地面に落ちたとき、俺がそう呟くと彼女は不思議そうに俺をみつめ返してきた。
「どうして?」
「だって、浴衣姿のメーちゃんが花火してる方が絶対よかったから」
「た、拓斗くん、わたしばっかじゃなくて、花火もちゃんと見てよ……。その、嬉しいけど、恥ずかしいよ……」
おれは頷いて、自分の分と、彼女の分の花火を取り出した。そして、火を着け、二人でそれを眺めていた。
その後も会話はそんなになかったけれど、それでも二人の時間をゆっくりとした流れの中で楽しんだ。
そして、最後の一本が終わると、
「拓斗くん、夏祭りのとき、わたし、浴衣着てくるね?」
と、彼女は花火のように美しく、けれど、永遠の笑顔で言った。
「楽しみにしてるね」
「ねぇ、どんな浴衣が似合うと思う?」
「白地に、たくさんの花があるような感じのとか?」
俺がそう答えると、彼女は一瞬驚いたような表情をした。けれど、すぐに嬉しそうな顔をして、「やっぱり、そうだったんだ」と、本当に小さな声で呟いた。
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