夏休み、二人の思い出

終業式、突然の告白

第26話 最愛

 終業式が終わり、長い夏休みがやっと始まる。

 彼女との初めての夏休み。どこに行こうか、なんて話をたくさんした。その時に思いがけない出来事なんかもあったわけだけれども、あれは俺の中にだけ秘めておこう。

 たくさんの思い出ができるはずの最高の夏休み、それに胸を踊らせながら彼女と一緒に帰ろうと思って姿を探した。先に帰っちゃったのかな、と思って外を見ると、中庭に彼女を発見した。

 どうしてあんなところに?と疑問に思いながらも俺は彼女の元へと向かった。

 渡り廊下から中庭へと踏み出そうとした瞬間、


「好きです。付き合ってください」


 そんな、男の声が聞こえた。しかも、聞き覚えのある声で。

 俺は嫌な予感がして彼女がいた辺りを見た。そこにはやはり、彼女がいて、その正面には同じクラスの男子がいた。

 彼は、バスケ部のエースで、イケメンで、頭もよくて、女子に人気だった。

 どう考えても俺が勝てる相手じゃない。だから、俺は彼女が離れていってしまうんじゃないか、そんな不安に押し潰されそうだった。けれど、


「ごめんなさい」


 そんな彼女の小さな声が聞こえて、俺は安心してその場に座り込んでしまった。

 何を話しているのかは分からなかったけれど、少し何かを話したあと、彼は足早にその場を立ち去っていった。

 俺はなんとか立ち上がると、ちょうど彼女は俺に気づいた。


「え?た、拓斗、くん……?」


 彼女は慌てて俺の方に来て、「さっきの、見てた?」と不安そうに聞いてきた。


「うん……。でも、どうして断ったの?」


 俺が自分の自信のなさからそんな風に聞くと、彼女は文字通り頬を膨らませて怒り始めた。


「拓斗くん!それ、本気で言ってるの?わたしは、その、拓斗くんの彼女なんだよ?それなのに、他の人と付き合うなんてできないよ!わたしが好きなのは拓斗くんだけだもん」


 俺は何を弱気になっていたんだろう……。彼女は何度も言ってくれていた。俺の事が好きだって。とても幸せそうな表情で、心の底から言ってくれていたのに……。

 俺は頭を下げて言った。


「……ごめん」


「ダメ!許さない」


「どうしたら、許してくれる?」


「夏休み、いっぱいいっぱいデートしてくれたら許してあげる」


 顔を上げると、彼女はいたずらが成功したかのように笑っていた。俺もそれにつられてつい、笑ってしまった。


「うん、夏休み、いっぱいデートしようね」


 俺は答えながら気付いてしまった。夏休み、楽しみにしていたのは俺だけではないのだと。彼女も俺と過ごす夏休みを楽しみにしてくれているのだと。



 そして、二人で帰ったけれど、別れ際、彼女が突然聞いてきた。


「ねぇ、拓斗くんはわたし以外の子に告白されたらどうする?」


「もちろん、それが誰でも断るよ。俺にはメーちゃんがいるから」


「えへへ。よかった」


 彼女は夏休みを前に浮かれているようにも見えた。けれど、それだけじゃなかったのかもしれない。だって、彼女の声は少し、震えていたから。彼女も不安になったのかもしれない。俺が離れていってしまうことが。

 だから、もう一度彼女に俺の想いを伝えた。


「メーちゃん、大好きだよ」

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