第23話 首飾

 カラオケ店に着いて、部屋に案内された。

 二人だからか、小さめの部屋だった。そして、ソファーに隣同士で座った。余裕はあったけれど、彼女は俺のすぐ横、身体が触れ合いそうなほどの場所に。


「拓斗くん、なんか、変な感じだね」


 彼女はそう言って、俺にひっついてきた。

 薄暗い室内。密着した距離。

 そのせいで俺はドキドキして、緊張してきた。

 俺はそんな緊張をなんとか抑え込み、バッグの中から小さな箱を取り出した。そして、それを視線を合わせることなく、彼女に手渡した。


「メーちゃん、誕生日、おめでとう。その、気に入るかどうかはわからないけど、プレゼント」


「ありがとう!その、開けてもいい?」


 彼女が喜びと期待に満ちた声で聞いてくる。もし、気に入ってもらえなかったらどうしよう、と不安だったけれど、俺は頷いた。

 すると、すぐに隣から包装紙を開ける音が聞こえ始めた。そして、とうとう箱を開ける音も。その瞬間、彼女の「あぁ……」という声。それは、どっち?嬉しい?落胆?

 不安になっていると、箱が目の前のテーブルの上に置かれた。そして、その箱の中身を彼女が取り出した。

 あ、気に入ってくれたのかな、と思った瞬間、それを俺に差し出してきた。


 え?気に入らなかった?返されるの?


 初めての自分で選んだプレゼント。だから、不安だった。気に入られないかもしれない、そう思っていた。でも、まさか、返されるなんて……。

 俺はショックで立ち直れそうになかった。けれど、


「拓斗くん、その、着けて?」


 と、彼女の声が聞こえた。彼女の方を向くと、嬉しそうに頬を染め、はにかみながら上目遣いで俺を見つめていた。

 俺は安心し、頷いて彼女から俺の贈ったプレゼント、小さなハートのシンプルなネックレスを受け取った。

 彼女は長い髪が邪魔にならないようにか、手で後ろで束ね、俺の方を向き瞳を閉じた。

 俺はゆっくりと彼女にネックレスを着け、そして、彼女の唇に吸い寄せられるように近付き、キスをした。

 ゆっくりと離れると、彼女がいきなり抱きついてきた。ぎゅぅっと、小さな身体で俺を離さないように力強く。

 突然の事に驚きつつも、俺も彼女を抱き締めると、少し震えていることに気付いた。


「メーちゃん?」


 身体を離して顔を覗き込もうとすると、彼女はさらに力を込め、俺にしがみついてきた。そして、


「今は、ダメ……」


 震えた声でそう言った。

 俺はどうしたらいいのか分からず、彼女をただ、抱き締めるだけだった。

 どれだけの間そうしていたのか分からないけれど、しばらくすると彼女は落ち着いたようだった。


「メーちゃん、大丈夫?」


「うん、大丈夫。その、ね、嬉しくて……」


 そう言って顔を上げた彼女は目は赤く、少し腫らしていた。


「だって、拓斗くんとこうして一緒にいられるだけでも十分なのに……。それに、このネックレスも、すっごい、可愛くて……。うぅ……、ちゃんと笑って、ありがとう、って言いたいのに……」


 話している途中から彼女の瞳からは綺麗な滴がいくつもこぼれ落ちてきていた。

 俺はそれをそっと親指で拭った。彼女は照れ臭そうにしながら、彼女は俺の肩に頭を預けてきた。


「拓斗くん、本当にありがとう……」


 そして、彼女はそう言って胸元のネックレスを見つめていた。俺は、彼女の肩を抱いて、


「誕生日、おめでとう」


 と、何度目かの言葉を彼女に囁いた。

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