6月、二人で初めての誕生日
第22話 待合
この地方も梅雨入りがこの前発表された。けれど、今日は快晴。
その事に安堵しながら俺は駅前で彼女を待っていた。
今日は彼女の誕生日。めでたい、素晴らしい日。だからきっと、神様も彼女の誕生日を祝うために晴れにしてくれたんだな、なんてそんなことを思ってみたり。
スマホを取り出し、時間を確認すると、約束の10分前。そろそろ彼女が来るかな、と思って周りを見渡した。すると、遠くの方から長い黒髪で、赤いアンダーリムの眼鏡、淡い青のワンピースを着た遠目でも分かる可愛い女性がこっちに歩いてくるのが見えた。彼女だ。
彼女も俺に気付いたのか、小走りで俺の元へとやって来た。
「拓斗くん、おはよ。その、今日も待たせちゃった……?」
最初のデートの時こそ二人して早く来ていたけれど、それ以降はそこまで早く来ることはなかった。けれど、俺は彼女を待たせるのが嫌で、30分前にはいつも着いている。そして、彼女は時間通り、5分前、10分前、と少しずつ来る時間が早くなっていた。
「ううん、あんまり待ってないよ。俺もさっき来たところだから」
けれど、俺はいつも彼女にはそう伝えていた。その度に彼女は安心したように笑ってくれた。
「えへへ、よかったぁ。じゃぁ、拓斗くん、行こ?」
彼女はそう言って、俺の手を取り、駅へと歩きだした。俺は彼女に引かれながら、まだ言ってなかった一言を彼女に伝えた。
「メーちゃん、誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう。覚えてくれてたんだね」
「うん、当たり前だよ。メーちゃんのことなら絶対に忘れないから」
「えへへ、ありがと」
俺はうなずき、今度は彼女の手を引いて駅の階段を降り始めた。その途中、彼女が疑問に思ったのか、俺に聞いてきた。
「その、今日は何でカラオケなの?」
「だって、せっかくの誕生日なんだから、二人きりになりたくて。でも、うちは母さんがいるし、他に思い付かなかったから。その、嫌だった?」
「ううん。わたしも拓斗くんと二人きりがいい。えへへ、二人きり……。拓斗くん、今日は今までで一番の誕生日、だよ?」
そう言って見上げてくる彼女の笑顔はとても眩しかった。まるで天使がこの場に舞い降りたかのように思えた。
俺はバッグに入れてきたあるものを思い浮かべた。彼女への誕生日プレゼント。彼女にぴったりだと思って買ってきた。けれど、まさに地上の天使の彼女にはもっといいものがあったんじゃないか、って思い始めた。
だから、それを渡す勇気が今はなくて、「それじゃ行こうか」とだけ言って、地下鉄へと向かっていった。
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