第20話 誤解

 けれども、俺は途中で止めてしまった。

 もし、キスをしたら、彼女に風邪がうつってしまうのでは?そんな考えが頭をよぎった瞬間、できなくなってしまった。

 彼女はキスをしてくれる、そう思って待っていたのだろう。それなのに、いつまで経ってもしないことを不思議に思ったのか、彼女は瞳を開け、俺に問いかけた。


「して、くれないの?」


 不安そうに俺を見つめる瞳。すぐ側にある小さな可愛らしい唇。

 俺は一言謝って、キスをしたくなってくる。けれど、彼女には元気でいてもらいたい。だから、


「ごめん。その、今日は帰って……」


 と、身体を少し離し、言ってしまった。

 その瞬間、彼女はひどく傷ついた表情をした。その瞳は微かに濡れて……。

 それを見て、俺は言い方を間違えたことに気づいた。これじゃ、彼女を拒絶したみたいに……。


「その、そういう意「拓斗くんは、わたしのこと、嫌いになっちゃったの……?」


 俺が言い直そうとすると、彼女が俺の言葉を遮るようにそう言った。


「違う!俺はメーちゃんのこと、好きだから!嫌いになんてなるわけないよ」


「じゃぁ、何で、そんなこと言うの……?帰って、って……。わたし、拓斗くんの側にいたい。ずっと、一緒に、いたい、のにっ……」


 彼女はとうとう泣き始め、俺の胸を何度も、何度も叩き続けた。

 強く叩かれているわけではない。だから、痛くないはずなのに、それなのに、俺の胸はひどく痛んだ。それも、胸の奥の方が。

 この痛みの原因は分かっている。俺だ。俺が彼女を傷つけたから。それで、彼女を泣かせてしまったから。そんなつもりはなかったのに……。

 俺は彼女の涙を拭うと、優しく話しかけた。


「その、帰ってって言ったのは、メーちゃんに風邪をうつしたくないから。メーちゃんには元気でいてほしいから」


「わたしは拓斗くんになら風邪をうつされたっていいもん!拓斗くんと一緒にいたい!」


「でも、メーちゃんに風邪をうつしたら、メーちゃんも学校休むことになるんだよ?そうしたら、また会えないんだよ?」


「休まないもん!辛くても学校、休まないもん!」


「そんなの、ダメだよ。もしそんなことされたら俺が心配で倒れちゃう」


「だったら、一緒に保健室に行く!病院にだって……。だから、一緒にいさせてよ……」


 彼女は俺にしっかりと抱きつき、声を上げて泣き始めてしまった。

 何で、分かってくれないの?俺はただ、彼女が心配なだけなのに……。


「メーちゃん……。お願い。俺はメーちゃんに辛い思いをさせたくないから……」


「今、辛いもん!分かってる。拓斗くんが、心配して、くれてること!でも、いきなり、帰って、って……。そんなの、辛い、よ……。嫌われっ、ちゃったって……」


 それ以上はもう、言葉になっていなかった。

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