第16話 部屋

 飲み物を持って部屋に戻ると、彼女が俺のベッドに横になっていた。そして、犬の尻尾みたいに足をパタパタさせていた。

 その姿は可愛かったけれども、俺の方に足を向けているせいでスカートの奥が見えてしまいそうで……。

 と言うか、それ以前に、この状況は何……?


「え?メーちゃん?」


 疑問が頭に浮かんだ瞬間、俺はそう口に出していた。

 彼女は驚いた様子で振り返り、


「ち、違うの、これは、その……」


 必死に言い訳をしようとし、それでもいい言葉が出てこないようで口をパクパクさせていた。


「ごめんなさい……」


 そして、諦めたのか、謝るとシュンとして、俺の枕を抱き抱えた状態でベッドの上にペタンといわゆる、女の子座りで座った。

 その姿が可愛すぎて、俺は彼女を見ないようにして飲み物を机に置いた。


「あの、ね、さっきのこととか思い出したら恥ずかしくなって、その、そんなつもりじゃなかったんだけど、ベッドに横になったら、拓斗くんの匂いがして、それで……うぅ」


 少し落ち着いたのか、後ろから彼女が弁明をしてきた。

 って、匂い!?そんなに俺って臭い!?


「あ、違うの。その、わたし、拓斗くんの匂い、好き、だよ?それで、その、何だか、落ち着いちゃって……。でも、拓斗くんは嫌、だったよね……?」


 不安そうな彼女の声。「そんなことないよ」と言いながら振り返ると、彼女の目には少し、涙が溜まっていた。

 俺はゆっくりと彼女に近づくと、優しく彼女を抱き締めた。


「本当に……?」


「うん。もし、俺がメーちゃんのベッドでおんなじことしてたらどう?嫌?」


「それは……恥ずかしいけど、嫌じゃ、ない」


 彼女はようやく安心したのか、腕を俺の背中に回してきた。

 あぁ、顔見なくても分かる。きっと、いつもみたいに幸せそうに笑ってるんだろうな。


「ねぇ、わたしが拓斗くんの彼女でもいいのかな?」


 けれど、突然の彼女の言葉は意味が一瞬分からなかった。そして、理解した瞬間、別れ話をされる?そう思った。


「何で……?」


「だって、拓斗くん、優しいし、わたしよりずっずっと素敵だし……。わたしは今日なんてダメダメで、ずっと一緒にいるときっと、幻滅させちゃうよ?」


「幻滅なんてしない。メーちゃんは可愛いし、優しいし、実は芯も強くて、しっかりしてるし。その、俺にはもったいないってそう思ってる」


「本当に……?」


 顔を上げた彼女はすごい不安そうで、壊れてしまいそうなほどだった。

 俺は彼女を安心させたくて、でも、どう言うのがいいのか分からなかった。そして、その無言の時間が彼女をより不安にさせていることにも気づいてしまった。

 だから、俺はゆっくりと彼女に顔を近づけ、その唇へと初めて触れた。

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