第11話 帰宅

 映画が終わったばかりだから、人がまだ多かった。その事に気付いた俺は急に恥ずかしくなって彼女の手を取り、その場を逃げるように映画館を出た。

 そして、そのまま地下鉄に乗った。けれど、このまま帰ってしまうのは少し、寂しいような気がした。

 地下鉄は進み、あっという間に駅に着いてしまった

 改札口を抜け、駅を出ると、彼女が立ち止まった。


「まだ、明るいね……」


 彼女も寂しそうな感じだった。

 もっと、一緒にいたい、そう思っているのは俺だけではない、そう確かに感じた。

 だから、どちらからともなく自然と朝と同じベンチに腰掛けた。

 彼女は袋の中のクッションとパンフレットを大事そうに抱えながら、

「拓斗くんとの思い出、いっぱいになったね」

 と言った。俺は「うん」と返すと、


「拓斗くんは、キーホルダーだけでいいの? 」


 と俺の方を見て彼女は言った。

 俺は彼女と一緒にいられるだけでよかった。でも、彼女を見ていると、抱き締めたい、キスしてみたい、そんな欲求が出てきた。

 でも、彼女がそれを求めていなかったら、そんなことを考えてしまって、俺が口にしたのは別のものだった。


「じゃぁ、二人の写真、撮ってもいい?」


 彼女が頷いたので、俺はスマホを取り出した。そして、撮ろうとした瞬間、


「あ、拓斗くん、待って」


 と、彼女が急に言った。そして、「はい」と手を出してきた。その手は親指を下に伸ばし、残りの四本は曲げた形だった。俺も同じ形にして彼女の手に合わせた。

 そして、写真を撮ろうとすると、二人の間から手を前に出す形になり、うまくとれないことに気付いた。

 だから、彼女の肩に手を回し、密着する形で、手を前に出した。

 彼女は恥ずかしそうにしながらも、近付いてきてくれて、顔が触れ合いそうになってしまい……。緊張して、すぐに写真を撮ってしまった。

 少し、体を離して写真を二人で見ると、


「顔、赤いね……」


 彼女が言った。そして、その言葉の通り、二人の顔は真っ赤に染まっていた。

 そして、その二人の顔の下には二人の手で作られたハートがきれいに写っていた。

 俺はその写真を見ながら、彼女に正直に伝えた。


「その、メーちゃんの顔がすごい近くて、ドキドキしてたから」


「わたしも、ドキドキしてるよ。今日、ずっと……」


「俺も、朝会ったときから、ううん、約束したときから、ずっと……」


「まだ、帰りたくないな……」


 彼女が急に言ったその言葉。それは俺の気持ちでもあった。

 でも、この周辺にはゲームセンターとファーストフードくらいしかない。

 だから、恥ずかしさから逃げるように地下鉄に乗ってしまったことに後悔をした。乗らなければまだ行けるところはあったのに……。

 だから、二人でただ座って、色々な話をした。学校のこと、友達のこと、好きな音楽のこと、などなど。

 けれども、次第に会話は途切れがちになってしまった。話題がないわけではない。つまらないわけでもない。

 ただ、この時間が永遠ではないと知っているから。


「離れてても、一緒だから……」


 この言葉が今日の終わりになることは分かっていたけれど、俺はそれを口にした。彼女が「……うん」と頷くと、どちらからともなく立ち上がり、その場を後にした。




 夜、寝る前になって彼女から『おやすみ』の言葉と共に一枚の写真が届いた。クッションを抱えたパジャマ姿の彼女の写真が。

 俺はそれを保存すると、『おやすみ』と返し、眠りについた。きっと、いい夢が見れる、そんな気がした。

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