第8話 座席

 映画館に着いて、発券機でチケットを買おうとすると、大きな問題に気付いた。

 映画が始まるまで後、二時間くらいある。


「メーちゃん、時間大分あるけど、どうする?」


「拓斗くんと、その、それだけ一緒にいられるんだよね……?」


 そんな言葉と共に上目遣いで見つめられたから、「うん」と返し、即座に選択した。

 座席はまだたくさん空きがある。どの席がいいのだろうか。彼女の見たい映画。なら、彼女の好きな席がいい。


「メーちゃんはどの席がいい?」


「えっと、その、わたしたちって、付き合ってるんだよね……?」


「うん」


 なぜ、そんなことを聞いてくるのか疑問だったけれど、その後彼女が指差した席を見て納得した。


 ペアシート。


 つまりは、カップルのためにあるような席。

 その席に座ることに気恥ずかしさを覚え、選択するのをためらっていると、


「そ、その、他の席でも、いいよ?」


 少し、残念そうな顔で彼女が言った。

 彼女には笑っていてほしい。だから、俺はそのペアシートを選択して購入した。

 彼女を見ると、笑顔に戻っていた。最高の笑顔。それを見れただけで俺は幸せになれた。

 購入したチケットを彼女に渡すと、とても大事に、愛しそうに、見つめていた。


「あ、そうだ。拓斗くん、パンフレット、買ってきてもいい?」


 そして、思い出したように彼女が言ったから、俺は頷き、二人で売店へと向かった。

 彼女が買っている間、後ろを見ると、今から見る映画の様々なグッズが売っていた。キーホルダー、ブックマーク、クリアファイル……。

 これらはいいのかな、と思っていると彼女が買い終わったパンフレットを大事そうに抱き締めていた。


「えへへ、これ、拓斗くんとの初デートの思い出に大事にするね」


 頬を赤らめ、幸せそうにそんなことを言うから、俺は何も言えなくなってしまった。

 彼女があまりにも可愛くて、愛しくて、見とれてしまって、時が止まったように感じてしまった。


「拓斗、くん……?」


 けれど、彼女の不安そうな声で我に返った。


「メーちゃんと付き合えて、今日こうしてここに来れて本当によかった」


「え?何で?」


「だって、今日のメーちゃん、超可愛いし、その、一緒にいるだけで幸せになれるから」


「そんなの、わたしだって同じ、だよ?」


 彼女は俺の胸に額をコツン、と当ててきた。俺は優しく頭を撫でた。彼女は嬉しそうに


「拓斗くん、大好き」


 と、小さく呟いた。


「俺も、メーちゃんのこと、好きだよ」


 俺がそう言うと、彼女は顔を上げた。

 その顔は真っ赤に染まっていたけれど、彼女の眼鏡に映った俺の顔も同じように赤く染まっていた。

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