3月、初デート

第3話 約束

 春休み初日、目が覚めるとスマホがメッセージの受信を知らせた。こんな朝から誰?と思って見ると、蔵州さんだった。


『おはよう』


 ただ一言。それだけで昨日の事を思い出す。

 俺、蔵州さんと付き合うことになったんだよな……。

 何だかまだ夢みたいな気分で返信を送った。


『おはよう』


 すると、すぐに返事が来た。


『あ、もしかして、起こしちゃった?ごめんね。』


『俺もちょうど起きたところだから、大丈夫だよ。』


『一緒だね。』


『うん。』


 返信をすると、すぐに蔵州さんから着信があった。


「もしもし」


『あ、紺野くん、その、おはよ』


「うん、おはよ」


『……』


「……」


 電話に出るけれど、なぜかそれだけでお互い、黙ってしまった。

 二人の間に沈黙が流れる。けれどその沈黙は嫌なものではなく、なぜか心地よかった。

 そして、その沈黙を破ったのは蔵州さんだった。


『その、ね、あの、紺野くんの声、聞きたいなぁって思って……。その、迷惑、だったかな……?』


 不安そうな声。けれど、俺はその言葉で愛しく思ったしまった。


「全然迷惑なんかじゃないよ。俺も、蔵州さんの声聞けて嬉しいし」


『よかったぁ……』


 俺が答えると安心したように蔵州さんは言った。きっと、電話の向こう側では頬を緩めているんだろうなぁ、というのが分かるほどに。

 そして、それを想像してしまったら、無性に会いたくなってきた。だから……


「会いたい……」


 無意識にそう言っていた。


「え?い、今から……?」


 明らかに戸惑っている声。俺は慌てて言葉を続けた。


「その、蔵州さんの声を聞いたら会いたくなっただけで、今からじゃなくてもいいから。その、近い内に、ってことで」


『あ、あの、今日でもいいよ。でも、その、準備とかしたいから、今すぐは無理だけど……』


「だったら、今日、会おう?いい?」


『うん』


「それじゃ、待ち合わせは……」


 そこまで言って気付いた。俺は蔵州さんがどの辺りに住んでるのか知らないことに。

 自転車で学校まで来てることは知ってるけど、それが家からなのか、駅からなのかは分からない。

 もし、会って、市内の方に行くなら、地下鉄に乗ることになる。俺は路線の端の駅だけど、蔵州さんは場所によっては戻ることになるかもしれない。

 だったら……。いや、そもそも会うだけでデートする、とは言ってないわけで……。


『紺野くん……?』


 そんなことを色々と考えて黙ってしまったら、蔵州さんが不安そうに俺の名を呼んだ。


「あ、ごめん。その、待ち合わせだけど、蔵州さんの家の近くの駅まで迎えに行こうと思うんだけど、駅どこ?」


 安心したように答えた駅は俺の最寄り駅でもあった。


「じゃぁ、駅で待ち合わせね」


『でも、紺野くんが来てくれなくても、わたしが紺野くんの方に行くよ?』


「俺もその駅が最寄りだから大丈夫。それで、時間はどうする?」


『えっと、今が7時だから……、10時くらいでもいい、かな?』


「うん、じゃぁ、10時に駅で」


『うん。その、これって……、デート、なんだよね……?』


「そうなる、のかな」


 さっきまで考えてはいたけど、言葉として聞くと何だか恥ずかしかった。


『楽しみにしてるね』


「うん」


 それからもうしばらく話をして、電話を切った。

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