3月、告白

第2話 告白

 明日からは春休み。宿題もなく、周りは皆、浮かれていた。けれども、俺は一人、沈んだ気分でいた。

 明日からは蔵州さんに会えなくなる。そればかりか、新学期になって、クラスが別になってしまったら、部活も委員会も別だから、会うことがなくなってしまうかもしれない。今でさえ、そんなに仲がいい訳ではないのに、そうなったら俺の想いは届かないんじゃないか……?

 そんなことを考えているだけでどんどん気が滅入ってくる。

 そんな気持ちのまま、自転車置き場に行くと、綺麗な黒髪が見えた。絹のような美しく、長い黒髪。その持ち主は小柄で、赤い眼鏡のフレームがわずかに見えていた。

 間違いない。蔵州さんだ。

 俺は勇気を出して話しかけた。

「蔵州さんも今帰り?」

「あ、紺野くん。うん、その、紺野くんは一人?」

「うん、そうだよ」

 それで、会話は終わってしまう。これだけじゃダメだ。そう思うのに、何も俺は言えないでいた。

「それじゃ、また、四月に、ね」

 それだけ言い残して、蔵州さんは自転車に乗って帰ろうとした。

「待って!」

 俺が突然大きな声で言ったから、蔵州さんは驚いたようにその場に立ち止まった。

「えっと、その……」

 けれども、俺はまた何も言えなくなってしまう。蔵州さんはどこか不安そうに俺を見ている。そして、気付けば俺は……


「好きです。付き合ってください」


 想いを伝えていた。

 蔵州さんは驚いたような表情をした後、スカートを握りしめ、下を向いてしまった。表情はまったく見えない。でも、下を向く直前、驚きから変わった表情は……


 涙を堪えているようだった。


 もし、本当にそうだったら、握りしめている両手は涙を我慢している?

 なぜ……?俺に告白されたのがそんなに嫌だった……?

 何で、告白なんかしてしまったのだろう……。

 そう、後悔していると、蔵州さんが顔を上げた。


 そして、その両目には涙が浮かんでいた。


 俺は死刑宣告を待つかのようにただ、蔵州さんの言葉を待った。


「本当に……?紺野くんも、わたしのこと……」


「……うん」


『紺野くんも』の意味は分からないけれど、俺が頷くと、蔵州さんはとうとう涙を流して泣き始めてしまった。


「嬉、しい……。わたし、ずっと紺野、くんのこと、す、好き、だったから……。夢、みたい……」


 一瞬、蔵州さんが何を言っているのかが分からなかった。けれども、蔵州さんの表情は確かに泣いてはいるけれども、いつも以上の笑顔だった。

 雲の隙間から一筋の光が蔵州さんを照らし出し、その姿はまるで天使だった。

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