第11話
終
ベリトスの町に戻ってきた私の生活は、以前と同じように慌ただしい。
帝都シエネで過ごした短い日々はもうかなり遠く、まるで夢の中で起こったことなのではないかと思ってしまうぐらいだ。別の時間の流れにあるように感じるほどに、和あたしの生活はすっかり日常に戻った。
だけど、以前と違うこともある。ひとつは、癒しの力をより患者の皆さんのために出せるようになったこと。そして、医療の発展のために、仲間が増えて一緒に頑張れること。
「おばばさま、行ってきます」
「ああ、いっておいで」
私は今日も、診療所に向かって駈けだす。
以前よりもヒーラーとしての誇りも大きくなった、そして、医師見習いとしての誇りも----ずっと、命を護る仕事をしていきたいと、以前よりも強く思うようになった。あの帝都シエネでの経験は、私を確実に強くしてくれ、成長させてくれたと思っている。
今日も出勤すると、やはりアーキル先生は寝起きだった。そして、今、医療からくり師として、シュタイン博士が診療所に居候している。アーキル先生と一緒に起きてくるものだから、ねぼすけがふたりもいて大変だ。
「アーキル先生、シュタイン博士! ちゃんと起きて下さい。だからふたりとも、町で似たもの夫婦って言われるんですよ!」
私が町に蔓延る噂を伝えると、ふたりはいつもムキになって怒る。最近は、本当にそれが事実なのではないかと思ってしまうのは内緒だ。
今は、アーキル先生、シュタイン先生、私の三人で、診療所を切り盛りしている。より沢山の人々の助けになりたい。私たち、全員の願いだ。
月のように癒すことが出来ればと、私は、今日も、医療に全力を尽くす。このベリトスの町で沢山の人々を助けるのが私の一番の使命だから。
今日も診療が終わり、私は空を見上げた。
「ソーレさんも頑張っているのかな」
空には太陽があると、ソーレさんがどうしているのかと、考えることがある。きっと、今も、帝国のために命を尽くしているだろう。
私もまたこの町で命を尽くして頑張ってゆく。
私が月でソーレさんが太陽だから、きっと磁石が引かれるように思い出すのかもしれない。強い光に目を眇めて、前を見ると、目の前に、ソーレさんがいた。
「また、お前たちに助けてもらいたいことがある」
私は月の民のヒーラー、太陽に導かれて輝く----
私は蒼い月の夜に生まれた----
アスール・ルーノ おかゆ @tinkman
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