遠くない未来
水浅葱の空に、子供達の笑い合う声が響き渡る。
「ねえおかーさんっ。これ、あげる!」
一人の少女が白詰草で編んだ冠を、河川敷で座って休んでいる母親の元に運ぶ。
「桜花、ありがとう」
すると桜花と呼ばれた少女の背後から、自分も負けじと四つ葉を探し出した少年が駆け寄ってくる。
「よつば、みつけたっ」
桜花と呼ばれた少女を押し退けるのは、彼女の弟である飛蓮である。彼は勢いよく母親の胸に飛び込み、満面の笑顔を向けた。
「二人ともありがとう」
勢いよく飛び込んできた息子を抱き留め、女は楽しそうに笑い返した。
「もう飛蓮、お母さんのお腹、びっくりしちゃうでしょっ」
「だって、よつば、みつけたんだもん。ねがいごとがかなうんだよ?おねえちゃん、そんなこともしらないの?」
「そんなことくらい知ってるわ!」
どこにいてもすぐに始まる姉弟喧嘩に、よくも飽きないものだなあと女は苦笑しながら二人を優しく見つめていた。
初夏の穏やかな風が頬を撫でていくのが気持ちいい。空を見上げれば、雲一つない晴天。
彼女は二人の子供を抱えたまま河川にごろりと横になった。
「あっ、お母さん!急に動いちゃだめなんだよ!」
「…桜花、あんたお父さんみたいに口うるさくなってきたよね」
「だって、危ない事しないように見張ってなさいって、お父さんが」
いつになっても過保護な旦那に、女は口元を引きつらせて胸中で呟く。
(…あいつめ。子供にまで私を見張らせるつもりか)
まあ彼らしいなあと、温かく柔らかな存在を抱きしめながら、ぼんやりと空を眺める。
「ねえねえ、おかあさん」
「ん?」
「おかあさんのおねがいごとってなあに?」
息子の飛蓮が、琥珀色の瞳を女に向けて問うてくる。
桜花も気になっているようで、黒曜の目を瞬きさせて女の答えを待っている。
彼女はうーんと考える素振りを見せた。
「そうだねえ…」
願い、など願えば山ほどあるが。
女は琥珀色の目を煌かせて微笑を浮かべると、二人をぎゅっと抱き寄せた。
「―――あんた達が元気に育ってくれますように、かな。あんた達は?」
すると桜花と飛蓮は目を見合わせ、二人口を揃えて言う。
「新しい赤ちゃん、元気で生まれますように!」
「おにいちゃんになれますように!」
二人の小さな手が、女の膨らんだ腹部を優しく撫でる。
女は琥珀色の両目を愛おしそうに細め、二人の旋毛に口づけを落とした。
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