それは、始まりの焔


 時は澄という国がまだ存在しない時代―――。

 当時の王の命により、無差別な人狩りが行われていた。




【それは、始まりの焔】




 ———村が燃えている。


 闇夜に轟々と燃え盛る炎。家々が激しく燃えては崩れ落ち、至る所から黒煙が上がっていた。羊や馬は怯え、鳴き声をあげながら逃げ出して行く。

 辺りは女達の恐怖に引きつる悲痛な叫び。果敢に立ちむかい切り捨てられた男達の断末魔の叫びが響き渡り。焼けこげる臭いの中に混ざる血臭が立ち込めている。

 そんな地獄絵図を崖の上から見下ろしているのは、その村から命からがら逃げ果せた二人の兄妹だ。


「父上、母上ぇええええ!」

「―――っ天花てんか!出るな!!」

「放して盤慈はんじ!!」

「天花!!」


 少女の金色の瞳には激しい憎悪、嘆き、悲しみ―――そして怒りが渦巻いている。瞳の色は違えど、彼女を必死に抱きとめる青年にも。


「…許さない…!絶対に、許さない!昏君、殺してやる…!」


 それは少女の誓いだった。



 この時は誰も知らない。

 彼女が後に、澄という国を興す一人となることを。

 そしてさらに数奇な運命を辿り、迦羅という大国の覇者となることも。


 誰もまだ、知る由はない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る