第一話
*『アダバナノスミカ』
本編
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──昔一人の男がいた。彼は忌々し存在として近隣の村々から畏れられ、虐げられた。
生まれついた村を追い出された彼は何を思ったのかその辺りでは有名な霊山であった
優しさを知らなかった彼は龍神の優しさに困惑しながらも、次第に受け入れ共に楽しく暮らしていた。──人間どもが恐怖して山を焼き払うまでは。
彼が龍神の為に甘く熟した栗や木の実を取り入っており目を離していた
彼が隣の龍ヶ峰から帰ってくると其処には無惨に焼け焦げた山と切り刻まれた龍神の骸があった。
『どうして、こんな事に……龍神様、眼を…眼を開けて下さい……龍神様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
彼は龍神の骸を抱えて泣いた。幾日も幾日も飽きる事無くただただ泣いた。昼が過ぎて夜が明ける。また日が登り夜が耽る。それを幾度繰り返しただろうか。
ふと彼は涙を流すのを止めて龍神の骸の側に落ちていたモノに目を向けた。それは龍神の血で汚れ錆びれかけた
農具には『
パキン……ッ
彼は自分の中で何かが、いや枷が外れた気がした。
彼は龍神の骸を抱き寄せると龍神に聴かせるように優しく微笑み呟いた。
『…………待っててね龍神様。今から龍神様の仇を取りに行って来るよ、大丈夫……悲しく無いよ……辛く無いよ……皆連れてきてあげる。
そう言うと彼は龍神の骸を山の頂上に埋め、龍神が大切にしていた霊刀を握りしめて山から降り
彼を見捨てた村々は見捨てた彼によって潰された。いつしか彼は龍神の仇討ちを忘れ、ただただ人を襲い龍神に骸を捧げる化け物『鬼』となってしまった。
今でも冥加龍山で立ち入る人間を殺しに殺し回って骸を龍神に捧げているそうだ──。
──これはその地域に伝わる、昔咄。元々『鬼』の素質を持っていた彼は人々の行いにより完全に鬼化してしまった。そういう咄だった。
「…………本当に、
誰に言うでも無く、本を閉じた俺はそう虚空に向かって呟いた。
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