第20話 帝王対新生徒会(仮)
「あん? 俺と戦いたいだぁ?」
「そうだよ! タツトってば、受けてやるとか、帝王の座で待つ、とか言ってるくせに、全然戦ってくれないじゃん!」
「もう新しい生徒会が発足する時期も近いし、ここらで一区切りつけなきゃ気が済まないわ!」
「リベンジ希望」
「僕も、是非お願いしたいです。如月さん……いえ、先輩」
「達人様、フレイヤ様。お茶です」
「みおちゃんありがと!」
もうじき選挙結果が公表されて、新しい生徒会長が決まるなぁ、とか呑気に考えていたが……言われてみりゃあ確かに。誰とも戦ってねえな。っつーか最近はランク戦自体ほとんどやってねえ気がする。
それにしても、だ。
雁首揃えて教室に押し寄せて来るんじゃねえよ。地味に黒ヶ崎まで居やがるしよ。
ああ、フレイヤと美央の顔合わせはもう済んでる。
美央の奴、特に驚くわけでもなく、「達人様とレイナ様の御子とあれば、私にとっては第二の仕えるべき主、という事になりますね。よろしくお願い致します、フレイヤ様」なんて、堅苦しい挨拶をしていたよ。なんか、ちょっとつまんねえよな。
「アタシが先に戦うの!」
「レイナさん、あなたはまだAランクになっていないじゃない! ここは私に譲るのが筋ってものよ!」
「リベンジ希望」
「あ、僕は最後で構いませんよ。レイナ、あんまりわがままを言うものじゃない。ここは先輩を立てるのが筋ってものだよ。柊先輩の言う通りね」
「ユキツグっ! あなたどっちの味方!?」
「お口に合いましたか? フレイヤ様」
「ちょっと、にがい……」
こいつら……。
っつーか美央! お前はほんっとにマイペースだな!? 逆に尊敬するわ!
はっ……! まさか、フレイヤに対するポイント稼ぎ……?
それと、西条。
てめーは「リベンジ希望」しか言えねえのか。
「だーっ! ごちゃごちゃうるっせえなお前ら!! そこまで言うなら、まとめて相手をしてやらぁ! かかってこいゴラァ!」
「達人様、試合は競技場でお願いします」
「……はい」
ま、ちょうどいいか。
グゥルも何かと暗躍しているようだし、近いうちにドデカイヤマが来ないとも限らねえ。ここらで肩慣らしをしておかねえとな。
「……まとめて、相手?」
「言ってくれるじゃない……」
「ムカつく」
「如月先輩。少しでも多くのものを、学ばせて頂きます」
「フレイヤ様。そんなわけですので放送室へ行きましょう。いつもの実況を誘っておきませんと、盛り上がりに欠けます」
「はーい」
レイナの〈
優奈の〈
西条の〈
どれもよく知っている。いや、レイナに関してはまだ未知数な部分も多いが、特に問題はねえだろう。
イレギュラー要素があるとすれば、
こいつらが束になってかかってきたところで、この俺に敗北は有り得ねえ。
「ハッハッハッ! 見せてやるよ。この俺が、“無敗の帝王”と呼ばれる理由をな」
「……よぉし」
「レイナさん、西条さん。協力してボコボコにしてやりましょう」
「ん。あのムカつく余裕をひっぺがす」
「……僕もいるんですけど……」
オールスターに囲まれて埋没している黒ヶ崎が若干哀れだが、まぁそんな事はいい。
これで多少は楽しい戦いができれば嬉しいんだがなぁ。
そんなこんなで、俺達は揃って競技場へと移動を開始。
尚、美央はいつの間にかフレイヤを連れて消えていた。まあ、あいつになら任せても大丈夫だろう。これで万が一フレイヤに何かあるようなら、そもそも美央は俺の専属になんてなれていないだろうからな。
完全な実力主義である我が如月家において、次期当主である俺の専属メイドという名誉あるポジションを勝ち取る事は、他のブレイブ養成学園でAランク一位の椅子に座るよりよほど難しい。
◆
『レディースエーンドジェントルメーン! 前触れもなく突然始まったこの変則マッチ! あの“帝王”が、なんと! 同時に四人ものブレイブを相手にするというのです! 一対一が基本である中で、これほど不利な戦いは無いですね!』
放送室から響く牧原の実況を聞き、目を丸くする観客たちの姿が見える。
四対一、なんていう試合は前代未聞だからな。中には俺を心配する奴もいるようだ。
「俺を誰だと思ってやがる? 最強の学生ブレイブ、如月達人だぞ。たかが四人を相手にしたぐらいで負けるかよ」
『おー……。やはり“帝王”はいつも通り、その傲慢とも言える態度を変えるつもりはないようです! 個人的には、彼が地に倒れる姿を見てみたい!』
「なんだとおいコラ」
牧原のあんまりな言いように、会場に笑いが響く。公正に、じゃなかったのか? オメーは俺に何の恨みがあるってんだ。普段の解説がそんなに不服なのかよ?
さて。
何やら円陣を組んで叫んでいるレイナたちを見ると、まるで黒ヶ崎がハーレムの主みたいだな。いや、実際には美少女たちの好戦的すぎるオーラに飲み込まれているようだが。
「タツト、殺すつもりで行くからね!」
「おう」
「宣言通り、ここであなたに勝つわ!」
「四対一だけどな」
「いざ、リベンジ」
「だからてめーはそれしか言えねえのか」
「胸をお借りします、如月先輩」
「唯一殊勝な態度なのがお前ってどうなんだよ、黒ヶ崎」
なんか、その、なんだ。
レイナさん、優奈さん。ついでに西条。
……君たちちょっと顔が怖いよ? まるで、餌を目前にした腹ペコの猛獣みたいだ。もうちょっと女の子らしくした方がいいんじゃねえかなと、俺は思うわけですよ。
四対一でも問題ねえって言う俺の言葉が、そんなに気に食わなかったのかね。
『早くもバチバチと火花を散らす両者! そして、決戦のゴングが、今……鳴ったぁ!』
「「フォルティスッ!!」」
「まぁ気楽に行こうぜ。フォルティス」
血反吐を吐くんじゃねえかって言うぐらいの勢いで叫ぶレイナたちとは逆に、至って冷静に呟く俺。
戦いってのは、熱くなった方が負けだ。この時点で既に、俺の勝ちは決まっている。
『両者グローリーを顕現! フィールドは、広さが売りの“遺跡C”! パーシヴァル選手の能力を有効に活かせるのではないでしょうか? 解説の恋堂さん、どうですか?』
『どうも、皆様。達人様の専属メイドを務めております、恋堂 美央でございます。今回のフィールドは、あえてレイナ様チームが最大限の力を発揮できるようにセッティングさせて頂きました』
『おお、そうなんですね! しかし、恋堂さんは如月選手のサポートはしなくてもいいんですか?』
『達人様の戦闘を補助する必要はありません。絶対に勝ちますから。今回は、レイナ様たちに身の程を知って頂こうかと思い、あえてあちらに有利にしたのです』
『な、なるほど』
『パパはさいきょーだからまけないの! でも、ママもがんばってー!』
『なんだか今すごく気になる言葉が飛び出しましたが……というかこの子誰ですか!?』
『達人様とレイナ様の御子です』
『……えーーーーっ!? えっ、えぇっ!? ね、年齢合わなくないですか!?』
『あっ、動きがあるようですよ』
『ちょぉっ!? 恋堂さーん!』
フレイヤのかわいらしい応援が響くと同時に、レイナが大きく動き出した。
本来この“遺跡C”というフィールドは、たくさんの生徒が参加する行事専用のもので、今回のように試合に使われる事は無い。が、まぁ普通じゃつまらんしな。
とにかく。
普段のフィールドの数倍以上、このフィールドは広い。それはつまり、レイナが能力をバリバリに活用できると言う事だ。
「来ーい! 我が艦隊よっ!!」
「ほう。全力だとこうなるのか」
とりあえず玉座を作り、座って待っているわけだが、フィールドの四隅に馬鹿でかい戦艦が丸ごと現れ、俺に砲口を向けてきた。
同時に撃ったら味方も巻き込むよな、これ。
「月光斬閃華」
「迅雷ッ!!」
「撃てーーーーッ!!」
西条、優奈、レイナの三人が、タイミングを合わせて攻撃してきた。
なんでこういう時は息ピッタリなん?
ん?
「……黒ヶ崎がいねえな」
玉座の肘置きを指で叩いて三人の攻撃を防いだが、いつの間にか黒ヶ崎の姿が消えている。あまりにも影が薄いんで忘れてたぜ。
お。
「……くっ!?」
「おーおー、よくここまで来れたなぁ」
後方に気配が感じられたから近衛騎士を召喚して防いでおいたが、案の定黒ヶ崎が不意打ちを仕掛けてきた。
移動がすげぇはえぇな。となると、能力もいくらか絞り込めてくるってもんだ。
『おーっ!? これは見事な連携です! いったい何がどうなったんでしょう、恋堂さん?』
『レイナ様、優奈さん、西条さんの三人で派手に攻撃して達人様の目を引き、その隙に黒ヶ崎さんが接近。不意をついて一撃浴びせようとしたのでしょう。が、達人様にその手の小細工は通用しません』
『なるほどー。しかし、何ともレベルの高い戦いですね! あれをあっさり防ぐ如月選手は、まぁ、うん……という感じですが……』
なんだろう。
なんか俺、牧原に嫌われるような事をしたか? 明らかに俺がノーダメージと見てがっかりしてるよね? ちょっと傷付くよ?
「って、うぉっ!?」
「撃てぃ!」
実況の辛辣さに脱力していると、突然目と鼻の先に大砲が現れた。
レイナの奴、インチキくさいぞ!?
砲撃が来る前に大砲に重力をかけて押し潰し、ついでに斥力を発生させて残骸を吹き飛ばしておく。それと、壁をスタンバらせておいた方が良さそうだな。
「ぬーっ!! タツト、ずるい!」
「アレでまだ座ったままって……」
「インチキにも程がある」
「あ、危ないじゃないかレイナ! 僕まで吹き飛ばすつもり!?」
「あ、ユキツグもいたんだっけ。ごめんごめん」
「ちょっ……」
事もあろうに余所見をしやがった黒ヶ崎のバカを弾き飛ばし、空中に大量の槍を生み出す。そしてそれを一斉に降らせ、レイナたちを攻撃してみる。
「“換装”ッ!! モード、〈
「槍の雨が……!」
「二人とも、はやくアタシのそばに!!」
「避難」
「僕は自力で捌けって事か……! おっと!」
以前東堂を吹っ飛ばした、なんかメカメカしい戦姫に変身するやつだな。
うーん、美しい。
と見とれていると、あれだけあった槍の雨が、赤い閃光が走った瞬間に全て消えていた。
レイナのアレは、ちょっと注意が必要かもしれねえな。
「綺麗だぜ、レイナ」
「あ、ありがと……って! い、今は戦闘中なんだから!」
「んだよ、ツレねえなぁ」
さて。
東堂の時も、赤い閃光が走った瞬間に、無数の東堂たちがあっさり全滅したんだよな。その後まもなく勝負がついちまったから、あの〈
どういう仕組みの、どういう能力だ?
とりあえず重力で様子見か。
「ぐぅっ……!?」
「これ、ほんとずるい……!」
「身体が、重い……!」
じぃーっと観察してみるが、地面に少しめり込んでいる優奈と西条に対し、レイナは一応立って動けている。
身体能力が向上しているのは確実か。
『如月選手、容赦なし!! 普段あれだけベタベタしているパーシヴァル選手相手でも、痛めつけることに躊躇など無いようです! まさに外道!』
「テメーは俺に何の恨みがあんだよ!? 公正に、じゃなかったのかコラァ!」
『外道な達人様も素敵です』
『パパは、げどーなの? ねえねえ、げどーってなに?』
『外道というのは──』
「おだまりなさいっ! フレイヤ! その牧原っつー女の言う事は聞くな!」
やめて! うちの娘に変な知識を植え付けるのだけはやめて! 俺がフレイヤに嫌われちまったらどうするんだよ!? じゅ、重力は解除しておくか?
「てぇい!」
「うおっ、マジかー」
牧原が余計な事を言うんじゃないかとハラハラしていると、レイナからのものと思われる攻撃が飛んできた。
ありゃあ、砲弾か?
「……タツトって、本当に人間?」
「なんだよ急に」
「なんだよ、じゃないよ!? なんで普通に避けられるの!? 座っている状態から、目で見てどうこうできるようなスピードじゃないはずなんだけど!」
「目で見てどうこうできるスピードだっただろ。なめんな」
赤い閃光が走った瞬間に、咄嗟に玉座ごと移動し回避した。ただそれだけの話だ。
極端な話、玉座に座ったまま空中を飛び回る事だってできる。
──次の瞬間。
「ほう……」
「あと、少しで届きそうなのに……!」
黒ヶ崎が、またいつの間にか接近してきていた。
こいつ、影が薄くて云々、とかのレベルじゃねえな。もしや、これが黒ヶ崎の能力なのか?
またも近衛騎士に止められていたが、もしも黒ヶ崎が俺の近衛騎士を難なく斬り伏せられるまでに腕を上げたら。
その時は、俺の玉座に傷をつけるぐらいはできるかもしれねえな。
……ふーむ。
『パパー、おなかすいたー』
「OK。今終わらせる」
フレイヤの悲痛な声が聞こえた。
お遊びはここまでだ。
娘にたらふく食わせてやらなきゃいけねえからな。
「タツトの目が、変わった……」
「フレイヤちゃんの一言で本気になるってどうなのよ」
「なんか、すごい屈辱」
「今の今まで、本気じゃなかったのか……」
肘置きをととととんと叩きまくり、フィールド一帯を攻撃範囲に収めるほどに巨大な“拳”を創り出す。
「「……で、でかーーーっ!?」」
『よ、容赦ない……ですね……』
『フレイヤ様。今お菓子を用意致します』
『ほんと!? わーい、ありがとうみおちゃん!』
早く、早く。
とっととケリをつけて食わせてやらないと、なんだか俺よりも美央に懐きそうだ。フレイヤが。マイエンジェルが。
「くたばれオラァ!! 〈豪拳〉ッ!」
“拳”を振り抜き、死なない程度の威力に抑えて攻撃。
「「きゃああああっ!!」」
──レイナたちの悲鳴が、フィールド中に響き渡る。
『え、えげつない……』
『おいしーい! みおちゃんだいすきー!』
『光栄です。私も大好きですよ、フレイヤ様』
あっ、間に合わなかった。
フレイヤが、美央に餌付けされた……。
クッソ、試合前にたらふく食わせてやればよかったぜ……。
『しょ、勝者……如月選手……あの、無事なのでしょうか? ぷちっと潰されたような……』
「大丈夫だ。大した怪我はしてねえはずだぜ。病院に運ぶまでもねえさ」
さっきの〈豪拳〉は、見た目は派手だが相当に手加減しておいたからな。
あの程度でどうにかなる程、あいつらは柔じゃねえだろ。
黒ヶ崎? 知らね。たぶん大丈夫なんじゃねえの? 少なくとも死んではいねえはずだから問題ねえ。
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