第19話 帝王と学園長
「うーっす。学園長、俺だ。入ってもいいか? 入るぞ」
「えっ!? ちょっ、ま! 待ちたまえ!」
「入りマース」
「ちょぉぉぉ!?」
学園長室のドアに手をかけ、一応声をかけてから開けると……。
無駄に美形な金髪の男が、ヒラヒラのスカートを穿いた状態でこちらにケツを向けていた。
「……邪魔したな」
「パパー。おててどけてよー。みえないよー」
「いいか、フレイヤ。世の中にはな、君みたいな小さな女の子がまだ見ちゃいけないものがあるんだ」
「えー?」
パタンとドアを閉め、咄嗟に視界を覆った事に対するフレイヤからの文句に対応する。
あー、なんだ。
あえてフォローするなら、学園長は別に変態ってわけじゃねえんだ。いや、どこをどう見ても変態だったがよ。そうじゃねえんだ。
あいつ、自由に性別を変えられるんだよ。たまたま女に変わろうとした瞬間に、俺が入ってきちまったんだろう。不幸な事故だ。
「ちょ、ちょっと待っててくれ! すぐに終わるから! というかいきなり入ってくる事はないだろう!?」
「そうだな、悪かった」
ああ、本当に不幸な事故だ。
これで、完全にフレイヤは学園長を変態だと認識しただろう。そして、小さな子供に植え付けられたイメージは、なかなか消えない。哀れな。
そして、待つこと数分後。
「ま、待たせたね。もう大丈夫だ」
「……おう」
「おじゃましまーす」
再度ドアを開けると、そこには無駄に可愛い金髪の美少女が、無駄に座り心地の良さそうな椅子に座っていた。
対外的には男モード時の学園長が“副長”という事になっており、インタビューだったり取材だったりに応じている。
女モード時の学園長は、対外的には存在だけが知られている都市伝説のようなものだが、学園内の行事にはこっちの姿で現れるため、生徒にとっては男モード時より馴染みがある。
なんで使い分けているのか、そもそも性別を自由に切り替えられるとか意味不明すぎてよくわからんが、こいつはこういうやつなんだ。
どっちが本当の学園長なのかは、俺も知らん。興味もないし。
「……子連れ? えっ、まさか君の子なのかい? 如月くん」
「詳しい事は後で話すが、拾ったんだ。で、この子は色んな意味で放っておけなくてな。これからも基本的には学園に連れてくるつもりだ」
「パパはわたしのパパだよー!」
「そ、そうなのかい。ああ、僕はこのブレイブ養成学園第三の学園長を務めている。適当に、学園長とでも呼んでくれ。君の名前は何て言うのかな?」
「フレイヤだよー。ほんとうはヴァナディースっていうなまえなんだけど、フレイヤってよばれるほうがすきなの!」
「……なるほど、そうなのかい。よろしくね、フレイヤちゃん」
変なやつだがさすがに学園長というだけはあり、フレイヤの名前を聞いてある程度察してくれたらしい。
「しかし、ブレイブでもない人間を置いておくのはさすがに難しいな。一応、フォトン出力を調べてみるかい? 普通の人間だったらそれまでだけど」
「その時はその時で、わがままを押し通すだけさ。はかるだけはかってみようぜ」
「君のわがままはシャレにならないからやめてくれ……。断るに断れないんだよ……」
「そいつぁ難儀なこったなぁ」
「君のせいだからね!?」
きょとんとしているフレイヤを一旦放置し、学園長と話を進めていく。
これでフレイヤにブレイブとしての力があれば、強引に生徒としてねじ込む事も可能だ。そうすれば、常に俺たちの内の誰かが付いてやることも容易になる。
ま、力が無くてもどうにでもなるがな。
ちなみに、妙に俺と学園長が親しげなのは、実家の関係で昔から付き合いがあるからだ。
学園長は椅子から降りると、目の前の机の下をゴソゴソとあさり、腕時計のような形をした装置を取り出した。
これがブレイブの素質を調べる“フォトン出力計”であり、これで弾き出した数値が高ければ高いほど、フォトン出力が高い……つまりはブレイブとしての才能に恵まれている、という事になる。
ブレイブの象徴とも言える超兵装、グローリーを開発した俺のジジィ。つまりは如月平八により、全世界で一斉に“フォトン因子”……つまりはブレイブの力の源であるフォトンの種の拡散が行われ、無数の人々がそれを吸収。その子供たちの何割かがジジィの目論見通りフォトンを発現したっつーのが、ブレイブの始まりだ。
そんな経緯のせいもあり、ブレイブとしての力を秘めている人間の正式な数は、ジジィですらも把握できていない。
故に、フォトン因子が発芽した者を発見するフォトン出力計を用いて、“ブレイブになる事ができる人間”を探し出す必要があるわけだ。
当時は相当な混乱が起きたらしいが、そのおかげでグゥルを撃退できたという事もあり、今ではその件でジジィを責める者は誰もいない。少なくとも公にはな。
ジジィ曰く、“フォトン因子は健康に害をなすものではなく、むしろ発芽した者は常人よりも強靭で、健康な肉体を手に入れる事ができる”とのこと。
問題があるとすれば、胎児の段階でしか因子が発芽する事はないってぐらいか。
……何はともあれ。
「パパ、これは?」
「フォトン出力計っつってな。これでいい数字が出せないと、うちの学園には入れないんだ。だから、ちょっと調べてみような」
「うん! わかった!」
「よしよし、いい子だ」
「えへへー」
「……なんかすごい懐いてるね。まるで本当の親子みたいだ」
「だろ?」
目を輝かせてフォトン出力計を見つめるフレイヤの腕に、そっと巻き付けていく。そんでスイッチを押して、と。
「どうかな、どうかな?」
「ハッハッハッ、まぁもうちょい待てよ」
「むむー、はやくみたいー」
フォトン出力計の小さなディスプレイを睨むフレイヤを見て和みつつ、結果を待つ。
そして、ピピピッ! と、計測の完了を知らせる通知音が響いた。
「どれどれ……?」
「あ、僕も見たいな」
「わたしにもみせてー!」
「おう」
トテトテと無駄に可愛らしく駆け寄ってきた学園長を交え、三人で結果を見てみる。
すると……。
その数値は、驚くべきものだった。
「なんっじゃこりゃ!?」
「“五十三万fa”だって!? 如月くんを除けば、うちのAランク生徒たちの数倍以上あるじゃないか!」
「ねーねー、これっていいの? わるいの?」
フレイヤのフォトン出力は、優奈や西条を含めた、Aランクの生徒たちを遥かに凌ぐ高い数値を叩きだしていたんだ。
基本的にはフォトン出力は高ければ高い程ブレイブとしての強さに直結する。技術でカバーする事も可能ではあるが、それにも限度ってモンがあるしな。
フォトン出力が高い=能力が強い、という認識で、ほぼ間違いない。
西条のように、フォトン出力の高さに反して能力が地味、というケースもあるにはあるが。
「ねーねー、ヘンタイさん」
「ぼ、僕のことかな? なんだい?」
「ママとパパはどうなのー? これ」
「ママは誰かな?」
「レイナだ。レイナ・パーシヴァル」
「ああ、彼女か……。そうだなぁ、たしか、八十五万ぐらいだったかな? 元々外国の養成学園でトップだっただけはあるな、と思ったものだよ」
「高いな」
「じゃあ、ママはやっぱりすごいんだ! ねーねー、パパは? パパはー?」
「如月くん、だよね」
「当たり前だこの野郎。俺以外にこの子のパパはいねえ」
「……言っていいものか、どうなのか」
フォトン出力だけで言えば、レイナは優奈や西条よりも圧倒的に上だな。まあ、フォトン出力は成長に応じて急激に増大したりもするから、必ずしもレイナの方が強い、とは言いきれねえんだが。
「おしえてくださいっ!」
「うっ……わ、わかったよ」
「うちの子は可愛いだろ」
「あー、そうだね。親バカだね」
フレイヤの得意技、上目遣いでウルウル攻撃には誰も敵うまい。ジジィですら陥落する気がするぜ。
まぁ、俺のフォトン出力は特殊だからなぁ。躊躇するのもわからなくはない。
「……如月くん、つまり君のパパはね。フォトン出力が高すぎて、計測不能なんだよ。はかったらこのフォトン出力計が壊れちゃうんだよねえ……」
「……えっ?」
「実演してみせたいところだが、破片が飛び散って危ねぇからな。要するにパパは最強だって事だけ覚えときゃいい」
「僕は色んなブレイブを見てきたが、如月くんみたいな子は初めてのケースだよ。どこまで行ってしまうのか、興味が尽きないね」
“フォトン出力計が壊れて計測できない”という事に衝撃を受けたのか、フレイヤは可愛らしく口を開けたまま止まっている。
尚、この話は世界的に有名だ。“ニッポンのタツト・キサラギは出力計をぶっ壊す程のモンスターなんだってよ”と、外国のブレイブ養成機関で話題になったりもしたらしい。
そして。
「すごい! パパすごい! すっごい! これをこわしちゃうの!? ほんとに!?」
「ああ。ぶっ壊れた出力計の破片が、学園長のデコに刺さって大騒ぎになってなぁ……」
「あれは痛かったよ……」
「すごーい! ヘンタイさん、わたしのパパはさいきょーなんだね!」
「ヘンタイさん……。う、うん。実際、如月くんに勝てる人間なんて存在しないんじゃないかな。それどころか、まともに戦える相手すら居るかどうか」
それからもしばらく、フレイヤのすごい連呼は続いた。
より一層俺を尊敬したようで、パパとしては大満足である。かつてぶっ壊れた出力計は、無駄にはならなかったぜ。よかったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます