第16話 女騎士対ご令嬢
昨日、学園の生徒ならば誰もがインストールしているアプリ、〈VINE〉を通じて、優奈に、西条と対戦する事になった旨を報告したんだが……。すげぇ怒られた。
「まったく、勝手に私のランク戦を組むとか何を考えているの!?」
「いいじゃねえかよ。なぁレイナ?」
「そうだよー。どの道、これでユウナが勝てれば当選間違いなしで話が一気に進むんだよ? 勝てばいいのさ、勝てば」
「それはわかってるけど! 勝手に組んだって事が問題なの!」
日付を跨いで尚、優奈さんはご立腹でした。こいつ、結構根に持つタイプだな……。
どの道、ランク戦は定期的に学園側によって組まれる分もあるんだし、大して変わらねえじゃねえか。どうせ放っておいてもその内に西条とは戦うんだから。
「まぁそれはさておき。対策を考えようじゃねえか」
「突然すぎて対策もクソも無いと思うんだけど」
「言葉遣いが乱暴になってるよ、ユウナ……。えっと、ナツキだっけ? その人は、どんなグローリーを持っていて、どんな戦い方をするの?」
昨日怒って帰ったと思われた西条だったが、どうやら学園長にランク戦の申請を出してから帰宅したようだ。それも、「負けた方は生徒会長選挙の立候補を取り下げる」という条件まで付けて。
そんな大切な試合だが、なんと。
行われるのは今日の放課後だ。
そこで急遽昼休みを利用してレイナも呼び、Aランクの教室にて作戦会議中、というのが今の状況である。
美央は一応西条の偵察に行かせているが、正直特に得られる情報は無いだろうな。
「西条の持つグローリーは、至ってシンプルなものさ。“斬る”事に特化した、西条の卓越した剣術があって初めて機能するモノ。つまり──」
「強いのは西条さんのグローリーじゃない。西条さん本人よ。正直、達人くん以外の相手になら、グローリー無しでも勝てるんじゃないかな、あの人」
「へぇ……。でも、シンプルな能力って逆に厄介だよね。崩しにくいから」
「そう、問題はそこなのよ。達人くんのデタラメな能力とは相性が最悪だけど、達人くん以外の相手なら大概一閃で終わり。だから彼女の戦闘時間はいっつも短いわ」
西条の〈
「……そういえば、ユウナの能力って、何なの? 前の鬼城戦でも結局使ってなかったよね?」
「そう言われてみりゃあ、そうだな」
「ああ、うん。私のグローリーが持つ能力は、〈
「トール……雷?」
「そ。でも、前戦った時は普通に斬られたわよ。西条さんに」
「へぇ、アタシも戦ってみたいなぁ」
「その内機会が来るだろ。さて、どうしたもんか。俺は今の優奈なら勝てると踏んでいるんだが」
「……そう?」
「ああ」
ぶっちゃけて言うと、特に変な対策なんかを立てずに真っ向勝負でいった方がいいと、俺は思っている。
普段の力を出せれば、勝てるはずだ。じゃなきゃこんな博打には出ねえ。
だが、それは優奈が自分自身の実力を信じる事ができればの話。
「俺に勝つんだろ? なら、西条に負けてるようじゃ無理だぜ」
「……そうね、そうだった。私は、あなたに勝つ。その前に足踏みなんてしていられないわ」
「アタシは、正直タツトには勝てる気がしないかなー……。妹さんとの試合を見たけど、強いなんてものじゃなかったもん。まぁ、だからって諦めるつもりはないけど! タツトとは戦いたいし、勝ちたい!」
「ククク、そうかい」
今はレイナがその気になっても仕方ねえんだが、優奈の方はもう心配はいるまい。作戦会議と言いつつ、ただダベってただけだが。
後は、勝つだけだ。
◆
「おっ待たせしましたーっ! 数々の前座を終え、遂にやってきた本日の目玉! あの、〈三年Aランク二位〉西条 那月選手対、〈三年Aランク四位〉柊 優奈選手! なんと! 今回は負けた方が生徒会長選挙の立候補を取り下げるという条件付きであります! まさに、まさに! 全生徒が注目する一戦と言っても過言ではないでしょう!」
いつも通り、牧原の小うるさい実況が会場に響く。その声に反応して、優奈ファンと西条ファンが、競うように雄叫びを上げていた。なかなかにカオスだな。
クックック、俺好みだぜ。
「尚! 今回の解説は、“無敗の帝王”こと、〈三年Aランク一位〉、如月 達人さんにお越しいただいております! 例のごとく、専属メイドである恋堂さんもご一緒です!」
「よーぅ、喜べテメェら。この俺のありがたい解説を、耳をかっぽじってよぉく聞きやがれ。そんで、ちったぁマシになりな」
「……えー、ほんっとにあなたはブレませんねー。なんでこんな人が女生徒に人気なんでしょう……」
「そりゃあ、俺がいい男だからさ。なぁ、美央?」
「はい。おっしゃる通りでございます。達人様は、世界一素敵な方です」
「ほら、コイツもこう言ってるだろ?」
「あー、ソウデスネ。あっ、すいません! ご両方、どうぞ始めてくださーい!」
なんか牧原が辛辣になってるのが気になるが、確かに全生徒が注目する一戦だろう。優奈は今まで西条に一度も勝てていないが、最近は勢いがある。「もしかして」があるかもしれない、と、皆が思っているはずだ。
『……如月達人。相変わらず、人のペースを崩すのが得意な男』
『達人くんはいつもあーでしょう? そんな程度で崩されるペースなら、あなたも大したことないわね』
『……わたしに一度も勝てたことがない女が言う事じゃないと思う』
『そうね。でも、今日は勝つ。絶対にね。私は、達人くんを倒すのよ。あなたなんかにいつまでも負けていられないわ』
『それはこちらも同じ。あの人を倒すのはわたしよ。あんたじゃ無理』
『言ってなさい』
お、おう?
なんだ? なんか、すっげぇ険悪じゃね? なんかちょっと怖くね?
「おお、まさに女の争い……! 如月さんという一人の男を巡って、バチバチと火花を散らしています! いやー、如月さんも罪な男ですねえ」
「ハッハッハッ、まったくだぜ。まぁ、俺なら片方なんてケチな事は言わず、両方とも俺のモンにするがな!」
『『誰があんたのッ!』』
「おー、ハモりましたねぇ」
「ククク……。あー、おもしれえ」
『『…………』』
あれだな。
あの二人、案外気が合うかもしれねえ。なんつーか、喧嘩するほど仲がいいって言うだろ? ま、この戦いで優奈が勝ったらの話だが。
そして、イライラしている様子の西条と優奈が、同時にグローリーを顕現させる。
『『フォルティスッ!!』』
刀型の西条と、美しい直剣型の優奈。
こうして見れば、グローリーまでどこか似てやがるな。
『……一瞬で終わらせる』
あ、ちなみにフィールドは何もない平原A。東堂とレイナが戦った時と全く同じだ。
初期位置から動いていない西条だが、グローリーを納刀したまま構え、先にいる優奈を鋭く睨んだ。
早速出しやがるか。
『月光斬華』
『くっ……!』
サッカーグラウンド以上に広いフィールドの端から、反対側の端に居る優奈まで届くという、デタラメなリーチを誇る斬撃。
“ 月光斬華”。
これまで、俺以外の生徒たちを一刀の元に切り伏せてきた、西条の得意技だ。
優奈も例外ではなく、今まではアレを避けきれずに敗北している。
しかし。
『!』
『……ふぅっ』
「おーーーっと!? な、なななんと!! 柊選手、西条選手必殺の“ 月光斬華”を避けたぁーーッ! これで、あの一撃を回避、または防ぎきった人間は、二人となりました!」
優奈はグローリーの能力を用い、自らを雷と化す事でスピードを爆発的に増大させ、大きく跳んで回避しきった。
これまでに無い、見事な進化だな。
「圧倒的な防御力で塵に返す俺とは違い、真っ向から立ち向かい、そして避けた。優奈らしい、堂々とした戦い方だな」
「今、いったい何が起きたのでしょうか? あっ、お茶ありがとうございます」
「簡単な話さ。優奈の能力は知ってるな?」
「はい、もちろん。雷を自在に操る、〈
「そうだ。今までは雷を操って攻撃、なんて事しかできなかったが、よほど鍛えたんだろうな。遂に自分の体を雷に変える事を可能にしやがったのさ」
「な、なるほど! それでは、今の柊さんは、まさに“雷速”という事に……?」
「だな。並の輩じゃ速すぎて何が起きたかわからねえだろうさ。お前さんみたいにな」
「……す、すごい……」
雷なんてのは、とんでもないスピードを誇る事でも有名だ。
その速さを得たとあれば、なかなか打ち破れるブレイブはいない……ように思える。
俺には効かねえがな。ハッハッハッ!
『……なるほど、言うだけはある』
『この力で……私は“帝王”を超えるッ!』
『無理よ。その程度じゃ、あの人には勝てない。彼は、そんな次元なんてとうに超えてる、超人……いや、神に近い男だから』
『……まずは、あなたを倒すわっ!』
『やって、みなさい!!』
西条の目が変わった。
予想以上に優奈が力をつけていると見て、本気になったようだな。
さあ、ここからが正念場だぜ、優奈。
『月光斬閃華ッ!!』
『乱れ打ちっ!? や、やってくれるわ!』
必殺の一撃のはずの月光斬華を、無数に放ちまくる西条。
アレは、普段ならば一撃で片が付くから一回しか使わないだけだ。別に乱射できないわけじゃない。
そのどれもが、当たれば終わりの必殺剣。俺が言うことじゃねえが、西条の奴はなかなかインチキじみていると思う。
「避ける、避ける、避けるっ!! 柊選手、西条選手の奥の手をことごとく回避していきます! な、なんという試合なのでしょう!? まるでプロのそれを見ているかのようです!!」
「言えてるな。少なくとも西条は既にプロ級の実力を持っているだろうさ」
「な、なるほど……! 聞きましたか、皆さん! あの如月さんのお墨付きですよ!? こんな試合、なかなか見れるもんじゃありません!!」
しかし、避けども避けども、斬撃は終わらない。
そりゃそうだ。
西条はただ単にすっげぇ速さで刀を振ってるだけ。その程度で体力が切れるような柔な女じゃねえ。
このままいくと、限界が来るのは間違いなく優奈の方だろう。
『はぁ……はぁ……っ! い、いつまで続くのよ、これ……!?』
『終わらない。いつまでも、永遠に。あんたが倒れない限りは、ね』
『こ、この! デタラメ女めっ!!』
ひとまず避けることはできているが、段々とバテてきているのがわかる。
おいおい頼むぜ? お前が西条に勝たなくちゃ始まらねえんだ。
そんな風に、俺がハラハラし始めた頃だった。
『!?』
『キリがないなら、突っ込むしか、ない……でしょぉぉ!!』
『そう、きたかっ!』
無数の斬撃を掻い潜り、西条本体へと突撃する優奈。
月光斬閃華をやめ、鋭い斬撃で応戦する西条。
いやー、熱い戦いだなぁオイ。
まるで漢と漢の……あ、いや。よそう。なんかよからぬ事が起きそうだ……。
『あぁぁぁあッ!!』
『…………!!』
「は、激しい!! なんて激しい鍔迫り合いなんでしょうか! 未だかつて、これほど血を滾らせる熱戦があったでしょうか!?」
「二人とも、素晴らしいぜ。俺と戦う日が楽しみで仕方ねえ」
「おぉっ!! あの、傲岸不遜な“帝王”に、ここまで言わせるとは! 御二方とも、本当に! 素晴らしいっ!!」
凄まじい形相でぶつかり合う二人。果たして、どちらが勝つのか……。
俺にも予想がつかねえ。
短い時間ではあったが、これほどに充実した試合を見たのは久しぶりだぜ。
まだ終わってねえけどな。
そして……。
『……残念だったね』
「あっ!? ひ、柊選手が……!」
激しい鍔迫り合いを制したのは、西条だった。
グローリーを払われ、体勢を大きく崩す優奈。
『…………かかったわね』
『何?』
西条の刀が、優奈のダイナマイトボディを切り裂く、まさにその瞬間。
優奈の身体が雷となり、素早く西条の背後に回った……!!
『なっ……しまっ──』
『いっ……けぇぇぇぇ!!』
剣を前に突き出し、雷撃を放つ優奈。
渾身の一撃は──。
『紅花月光華ッ!!』
『な……ッ!?』
西条が咄嗟に放った「正真正銘の奥の手」、全周囲攻撃である“ 紅花月光華”と衝突した。
「こ、これは……っ!?」
「…………勝者……」
立っていたのは──。
『……達人くん』
「……フッ」
『私は、あなたに……勝つッ!!』
そう力強く叫んだ。
「しょ、勝者──」
「柊 優奈ッ! 見事だったぜ!!」
「だから私のセリフとらないでーーっ!?」
地に倒れ伏す西条と、グローリーを杖にして、なんとか立っている優奈。
二人ともボロボロであり、ダメージはお互いに相当なものだろう。
強いて言うなら、気持ち、か?
まったく、勝負ってのはこれだからおもしれぇんだ。
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