第13話 帝王たる所以


 優奈のそれと似ているが、しかしアレとは違い真っ黒な刀身を持つグローリーを構える達姫。

 普通なら俺も構えて応じるところなんだろうが、俺はそんな普通の事はしねえ。


「さて、どれだけできるか、見せてもらおうじゃねえか」


 俺の大剣型グローリーが持つ能力、〈造物主ワールドエンペラー〉を使い、荘厳な玉座を生み出し、そこに座る。

 片足を膝に置き、その上に右肘を乗せ、頬杖をついて偉そうな態度で敵を睨む。ちなみに、俺の身長と同じぐらい大きいグローリー本体は、刀身を玉座の横に突き刺して放置だ。まず振ることは無いし。

 これが俺の基本的な構えだ。いや、構えと言うほどのものではねえが。未だかつて、同じブレイブで俺にこの構えを解かせた相手は、存在しない。


『出ました! 達人様特有のこの構え! 堂々たるその姿は、まさに我々の、そしてあらゆる者達の上に立つ“帝王”に相応しい! 御兄妹の方々ですらこの構えを崩せた事はなく、達人様の圧倒的な実力を示す、まさに王者の貫禄というものが溢れ出ています!』


 実況役のメイドが興奮気味に叫び、観客席の使用人たちも盛り上がっている。

 ふと目に付いたが、レイナはさすがに口を開けて呆けていた。「それで戦うつもりなの?」とでも言いたいんだろう。


 そして、この構えを見た達姫は……。


「今日こそ、その余裕を引っぺがしてやりますわっ!」

「やってみな。できるもんならな」


 人差し指を俺に突きつけ、自信満々な顔でそう言ってきた。学園第一に身を置いて、少しは得るものがあったって事かね?


 続いて、グローリーを地面に突き刺し、能力で床を凍らせ、俺に攻撃。だがそんなモンは俺には通じねえ。


 左手の人差し指で玉座をこつんと叩き、迫り来る冷気を霧散させる。

 お返しに、人差し指と中指で叩き、“帝王を守る二人の近衛騎士”を生み出した。そして、そいつらに達姫を攻撃させるってわけだ。


 まだまだ余裕があるし、本でも読むか。


「……やはり、そう来ますわよね」

「官脳小説はいいぞ。日々の疲れを忘れさせてくれる」

「仮にも戦闘中なのにエロ……官脳小説を読むのは如何なものかと思いますわよっ!」

「エロ本じゃねえっ! ったく、どいつもこいつも……」


 達姫が必死に近衛騎士を捌いている様子をチラ見しながら、先日買ったばかりの芸術作品を嗜む。これほどの贅沢が他にあろうか。


 さて、達姫のグローリーの能力は、〈熱支配ヒートプリンセス〉という、熱を自在に操るものだ。と言っても、先程見せたように、熱をマイナス方向に持っていくことで、目標を凍らせる事もできるし、文字通りに熱くする事も出来る。炎を出したりもできるし、結構多芸な奴だったりする。


「お邪魔ですわよ!」

「ん」


 近衛騎士の片方が隙を突かれ、凍らされる様子が見えた。すかさず本を懐にしまって玉座の肘置きを人差し指で叩き、その氷を溶かしてやる。ああ、これは構えを解いた内には入らないぞ?


「~~~っ!! もうっ! お兄様はズルイですわ! キリがないじゃありませんの!」

「昔っからそうだったろ」


 これがずっと続いていたんじゃ、せっかく大勢居る観客たちが退屈してしまうだろう。特に、レイナという特上のお客様を喜ばせるには、もっと派手にいかなきゃな。


 ととんっと人差し指を二回、軽く叩き、空中に巨大な槍を複数生み出す。近衛騎士は俺の護衛のために下がらせ、指を強く叩いた。


「くっ……!」


 フィールドが、そして競技場が大きく揺れる。俺の槍が、達姫目掛けて飛び、地面に突き刺さったためだ。

 気配は……後ろか。


「はあぁっ!」

「あめぇよ」


 斥力を発生させ、俺を仕留めるために接近してきていた達姫を吹き飛ばす。

 わざわざ目で見なくても、俺の気配察知能力は必ず敵を捉える。不意打ちなんざ不可能なのさ。


 大きく吹き飛ばされた達姫が、ならば数で勝負だと言わんばかりに、炎の剣を無数に生み出し、その全てを投げてきた。

 まあ、諦めろ。何か面白い能力に目覚めでもしていたら、なんて思っていたがな。前と大して変わらねえんじゃ、一生かかっても俺には傷一つ付けられねえよ。


 ふぅ、と一息吐き、パチンと指を鳴らす。

 達姫が放った炎の剣は、一つ残らず消滅した。


「くぅ~~……っ! ずるいですわ! ずるいですわっ! こんなの、どうやっても勝てっこないじゃありませんの!」

「分かりきった事を抜かすな。あんまり腑抜けてっと、ジジイに追放されるぞお前」

「わ、分かっていますわ」


 如月家では実力が全てであり、長く本邸に居られた者であろうと、ふとした拍子に別邸に追放される、なんてのはよくある話だ。実際、俺の一つ下の弟はそういう経緯で、今は別邸に居るし。


『あ、圧倒的! 圧倒的すぎます! 学園では女王として敬われ、時に恐れられる達姫様ですら、達人様にはまるで敵わない! やはり、達人様こそが我々のご主人様に最も相応しい御方でしょう!』


 実況が白熱し、メイドたちの黄色い声が俺に届く。

 お前らがそんな事してっから、俺も良い気になって抱いたりしちゃうんだろうがぁ! あー、いや、自重自重……。レイナに怒られちまうからな……。


「……お兄様には、まるで届きませんわね。さすが、わたくし自慢の兄ですわ」

「お前も、精進しろよ。せめて俺を驚かせるぐらいの事はしてみせろ。如月家の人間ならな」

「承知しております」


 俺はまだ玉座から一歩たりとも動いてはいないし、全くの無傷だ。

 ったく、妹にお灸の一つでも据えてやるかねえ。


 新たに近衛騎士を四人生み出し、それらを使って達姫を俺の視線に入る位置に誘導。


「……あっ、お、お兄様? か、かかか、勘弁してくださいっ!」

「ダーメ。痛い思いをするぐらい、覚悟しておけよ。これは試合なんだぜ?」


 人差し指を怯える達姫に向け、能力を発動。

 彼女の身体に重力をかけ、死なない程度に痛めつける。達姫の身体が地面にめり込み、ミシミシと音を立てた。


「い、痛い痛い骨が折れるー!! お、お兄ちゃん許してっ!!」

「おいおい、如月家のモンが簡単に弱音を吐いちゃいけねえよなぁ? お仕置きだ、達姫ぃ」


 他人が相手ならば、ここで本当に骨を折るまで止めないが、妹だしな。そこまではしない。が、多少痛いぐらいは我慢しろ。

 ちなみに、腕の先と根本とで違う方向に重力をかけるだけで、簡単に腕を使い物にならなくさせる事ができる。

 ブレイブと言えど、人間ってのはどうしてこうも脆いのかねえ。嘆かわしいぜ。


「うぅっ、痛いぃ……!」

「降参するか?」

「こ、降参するっ! お兄ちゃんには全然敵わないよっ! だから止めてーー! い、痛いからぁ!!」

「……まぁ、妹を痛めつけて喜ぶ程、俺は特殊な性癖を持ち合わせちゃいねえからな。さすがに良心が痛んできたし、止めてやるよ」


 これは本音だ。

 とうとうお嬢様口調などどっかに行って、ガチ泣きしながら懇願してくる妹を見ても、何とも思わないような畜生ではねえからな、俺は。じゃあそもそも痛めつけるなよって話だけどな。


 あーあ。

 いつになったら俺はこの玉座から腰を上げられるんだか。

 ジジイとババアは後が面倒くさいから除外するとして、俺をワクワクさせてくれるような強者はいないものか。

 プロなんてのも、ただ有名ってだけで、俺にはてんで敵わねえんだから話にならねえしな。


 グゥルどもなら、ちっとは歯応えがあるのかねえ……。



『早くも決着っ!! 達姫様が救護班に運ばれていかれたのが心配ですが……。達人様はやはりお強い! まさに無敵の絶対強者! これ程の御方にお仕えできる事を、私は誇りに思います!』


 相変わらず元気な実況が叫び、メイドたちが黄色い声を上げ、執事たちが野太い声で絶叫している。

 普段が何かと気疲れするだろうから、こういう時ぐらいは馬鹿みたいに騒いでストレス発散をするのがいいからな。俺だって、多少はそのためにこうして試合をしている意図はある。無論、それだけじゃあないが。



 レイナは……。

 目と口をあんぐりと開けたまま、固まっていた。


 後で話を聞いてみると、「タツトが無敵すぎて驚いた。こんなのに勝てる人間がいるわけないじゃん! って思ったよ……」との事だった。

 万能すぎる俺の能力についても色々と聞かれたが、適当にはぐらかしてある。こういうのは自分で考えて答えを見つけなきゃ、面白くねえからな。


 尚、痛めつけすぎたのか、ちょっと達姫と気まずくなった事も明かしておこう。まぁ、少し経てば元に戻るけどな。

 アイツも結構負けず嫌いだし、手も足も出せずにいたぶられてショックだったんだろうさ。いつもの事だ。


 その後は、美和ちゃんと戯れたり、専属メイドたちの様子を見に行ったりしている内に時間が経っていた。もちろん、レイナとは常に行動を共にしている。


 さて。

 学園に戻ったら、優奈を新たな生徒会長に据えて、改革を始めるために動かないとな。これから忙しくなりそうだ。

 ああ、黒ヶ崎の様子も気になる。レイナはもうCランクに上がった事でクラスを移ったし、黒ヶ崎の奴に会いにいかなきゃな。

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