第12話 帝王の妹


 ジジイの爆弾発言により、俺の性事情が暴かれ、怒り狂ったレイナに、実家にある俺の部屋で洗いざらい吐かされる事となってしまった。


「……何人、妊娠させたの」

「……ノーコメントで」

「タツトっ!」

「お前がそんな事知ってどうすんだっての! 大体、仕方ねえだろうが! うちの教育方針上、そうなる事は必然だったんだ!」

「開き直らないでっ!」


 ガキの頃から、ジジイを超えうる跡継ぎを育てるためにと、軍隊も真っ青なスパルタを受けてきた俺と、その兄妹たちだ。

 その中でも圧倒的な才能を見せていた俺は、早々に跡継ぎとして指名され、「そんな事も知らないのか」と他人に侮辱されるような事はあってはならないと、性教育もしっかりと受けている。

 その際に相手役になったのが美和ちゃんであり、その他数人の、元々俺を慕っていたメイドたちだ。全員見事に妊娠しており、中には既に出産した者も居る。ちなみに美央は違うんで悪しからず。


 そんな事を丁寧に説明していき、全身全霊の土下座を披露する事で、何とか許してもらえた。が、まだちょっと機嫌が悪そうだ。


「で、その子たちはどうなるの」

「メイドか? それともガキの方か?」

「メイドさんはそのまま働くんでしょ? 子供の方だよ」

「そりゃおめー、俺の子って言っても腹がメイドだからな。俺の正妻になる女の娘や息子に仕えるべく、従者としての教育を受けさせられるだけさ。生まれたらひとまず一つの施設にまとめられるがな」

「そ、そうなんだ……。なんだか、中世ヨーロッパの貴族みたいだね……」

「だな。俺もそう思う」


 血がどうたらとかいう問題で、先に生まれたとしても母親がメイドである以上、後に生まれるだろう正妻との子の方が立場は上になる。

 俺のクソ親父も愛人が複数居たようだし、そいつらとの間に子も居たが、その全員が如月一族としては認められず、今ではメイドや執事となっている。

 当然、俺はクソ親父の正妻の子であり、俺の兄妹たちもそうだ。ちなみに俺は次男。こう見えて長男ではなかったりする。


「つまり、ミワさんのお子さんが、将来生まれてくるアタシの子供の従者になるって事?」

「そうなるな。この仕組みを俺の代で変えてもいいが、それで跡継ぎの質が下がるんじゃ意味がねえ。不満を持つ奴もいねえし、従者の方がよっぽど優秀だっていう事にでもならなければ、ずっと続いていくだろう」

「……ふぅ、なんか、すごいね。ここだけ別世界みたいだよ」

「そうかもしれねえな。さて、辛気臭い話は終わりにしようぜ。そろそろ妹が来る頃だろうしな」

「ええと、この本邸に残る事を許された、アナタのただ一人の兄妹だっけ? って事は飛びきり優秀なんだね」

「そうだな。国立ブレイブ養成学園第一に通ってるんだが、そこのAランク一位にして生徒会長だ。あいつが俺以外の奴に負けてる姿は見た事がねえ。ジジイとババアは除くが」

「あのおじいさんとおばあさん、そんなに強いんだ……って、おじいさんの方も戦えるの?」

「ああ」


 何せグローリーの生みの親だからな。当然、誰よりもグローリーの扱い方ってモンを知っている。ババアは専用のビックリ兵器を使ってっけど。

 まあ、あの二人を相手にしても、俺が勝つがな。実際、過去に一度ブチ切れてジジイとババアを病院送りにした事がある。胸を張って言える事じゃあねえが。


「っと、噂をすれば、だな」

「え?」


 すっかり癖になってしまっているらしいが、気配を殺しながら妹が近付いてくるのがわかる。レイナは気付いていないようだが、やはりまだ妹の方が強いか?


 そして、無駄に豪華な扉が開く。


「お兄様、お帰りなさいませ。パーシヴァルさんは、初めましてですね。兄がお世話になっております。わたくし、如月 達姫たつきと申します。よしなに」

「あっ、どうもはじめまして。レイナ・パーシヴァルです。こちらこそ、お兄さんにはいつもお世話になってます」


 丈の短い巫女服と洋服が合体したような可愛らしい衣装に身を包んだ金髪の美少女が、如月家の者なら嫌でも仕込まれる完璧な座礼を披露している。

 コイツが俺のかわいい妹の、達姫だ。ちなみに胸は優奈並みにでかい。


「よぉ、達姫。元気だったか?」

「はい、お兄様。でも、養成学園第一は、お兄様のような絶対強者がいないので、少々退屈です」

「ハッハッハッ、そうか。まぁ、どの学園もそうだろうよ。なぁ、レイナ」

「あ、うん。タツトが強すぎるだけで、他はどれも似たようなものだと思う。少なくともアタシが調べた限りではね」


 妹の髪を見て、俺が染めている訳では無いと気付いたらしい。優奈の奴はグチグチ言ってくるが、生憎これは地毛だ。


「ところでお兄様、随分と可愛らしい方を連れて参られましたね。お相手が見つかりましたか?」

「ああ。何せイギリスの名門、パーシヴァル家のご息女だ。ちょっと訳ありだが、充分だろう」

「なるほど、やはりイギリスの……」

「……あっ、そっか。つまり、そういう事を気にしなきゃいけないから、今まで相手がいなかった、とか? じゃあ、ユウナは……」

「……ま、そうなるな。でもまぁ俺がお前を気に入ったのは事実。誤解するなよ」

「う、うん。わかってる」


 前にもちらっと言った気がするが、優奈は元々普通の家庭で生まれ育った、名門の血なんざ欠片も流れていない普通の人間だ。故に、ジジイに認められることは無いだろう。そもそも優奈だって俺の実家のやり方にゃ反発するだろうしな。

 優奈が俺に好意を抱いている事には気付いているが、叶わぬ恋だな。もしあいつが面と向かって告白してきたら、きちんと理由を説明して振るつもりだ。レイナもいるし。


「達姫。お前の方こそ相手は見つかったのかよ。いつまでも俺にへばりついてても良いことなんかねえぞ?」

「えっ」

「……いいえ。わたくしは、いつまでもお兄様を想っております。クソジジイ……失礼、お爺様にも文句は言わせませんわ」

「ちょっ」

「……頑固な奴だ」

「お兄様譲りですので」


 レイナが固まっているが、達姫はそりゃもう凄まじい程にブラコンだ。言い寄ってくる男がいても、何かと俺と比べ、プライドを粉砕した上で追っ払っちまう。

 ついでに言うと、ちらっと素が出たが、元々コイツはこんなにお淑やかではない。むしろ俺に似て、下品で乱暴な女だ。


「タツト!? まさか妹にまで手を出してないでしょうね!?」

「俺は猿か」

「メイドを孕ませておいて何を言うか!」

「猿でした」

「ああっ! この時だけはお兄様の妹であるわたくし自身が疎ましいっ! くそぅ、くそぅ! わたくしもお兄様と夜のダービー戦をしたいっ!!」

「ちょっ、タツキちゃん!? なんか見た目に反してすごい下品な言葉が飛び出したよ!?」

「仕込んだのは俺だ」

「アンタかぁっ!!」


 ガッデム! と嘆きながら、床を叩きつける達姫。

 こんな様を他人が見たら、マジで嫁の貰い手が無くなるな。

 あー、妹を引き取ってくれる漢はいないもんかねえ? あっ、そうだ。黒ヶ崎とかどうだ? あいつ、相手なんていねえだろう。


「落ち着け、達姫。可愛い顔が台無しだぞ」

「かわっ……!? ああっ、お兄様! やっぱりわたくしお兄様が大好きです!」

「ちょっ、タツキちゃん落ち着いて! タツトも、ここぞとばかりにノせないのっ!!」

「素直に褒めてるだけだろうがぁ」

「ニヤニヤすな!」


 あー、おもしれー。

 これだからこの愉快な妹はたまらねえ。見ていて飽きないぜ。

 だが、マジでどうにかしねえとなあ。兄として。

 こんなに可愛い妹が、いつまでも独身処女を貫くのは忍びない。


「……ま、それはさておき」

「あ、はい」

「切り替え早っ!? もうやだこの兄妹」


 何やらボヤいているレイナはさておき。

 達姫がどれほど腕を上げたか、確かめておかねえとな。いつグゥルが表に出てくるかもわからない以上、味方の実力は正確に把握しておきたい。


「達姫、いっちょ試合でもやるか? 俺を殺す気で来い」

「……何か、あったのですね」

「ここにいるレイナの実家が、グゥルに喰われて無くなった。それだけ言えばわかるな?」

「なるほど、そうでしたか。レイナお姉様、大変でしたのね……」

「お姉様……? アタシが? あ、いや。うん、タツトのおかげで立ち直ったから、大丈夫だよ」

「さすがはお兄様。そのお兄様とこうして実家に来られたのですから、近い将来にご結婚なされるのでしょう? ならばわたくしにとっては実のお姉様も同然ですわ」

「でも、たぶん同い年だよね?」

「そうなるな。レイナも達姫も二年生だし」

「お姉様はお姉様です」


 お姉様と呼ばれてすごく嬉しそうにしているレイナを撫でてから、試合のために、敷地内にある競技場へと向かう。


 さてさて、久しぶりに妹を揉んでやるとするか。

 あっ、卑猥な意味じゃなくてね? さすがの俺も、妹に手を出すほど畜生ではねえ。


 競技場をすぐに整備するよう使用人に伝え、そっと待つ。

 その内にどんどんと使用人連中が集まり、中には美和ちゃんをはじめとする俺が孕ませたメイドたちもいた。


 次期当主である俺の試合となると、競技場に備え付けてあるカメラで録画され、その動画が全使用人に出回る。それでも競技場の観客席は満員御礼という程の大人気だ。


「よぉぅ、達人や。今日は達姫と試合をするそうじゃないか」

「ババアか。なんだ、あんたも見ていくのかよ」

「はっはっはっ、当然だろう? 可愛い孫の晴れ舞台、見逃すわけがあるか!」

「そうかい。ま、満足できるといいがな」

「ふっ。じゃあ、特等席に行くかのー」


 時間が来るのを待っていると、ババアがやってきた。まぁジジイと違って暇だろうし、ちろっと顔を出しに来たんだろう。暇人め。


「タツトー。タツトの試合、アタシ見るの初めてっ! 楽しみー」

「ん、今度はレイナか」

「ん? 誰か来たの?」

「ああ。さっきまでババアが居た」

「そ、そうなんだ」


 ババアが消えて間もなく、今度はレイナがやってきた。

 両手にポップコーンとコーラを抱えており、エンジョイする気満々である。

 何気にこいつも如月家に馴染んできたな。肝が太いというか、さすがは名門出というか。


「タツキちゃんの能力って、どんなの?」

「事前に言っちまうとつまんねーだろう? 見てのお楽しみだ。俺の能力もな」

「んー、まぁそれもそっか。でも、Aランクの一位になるぐらいだから、やっぱり強いんだろうなぁ。いいなぁ、戦いたいなぁ」

「頼んでみればいいじゃねえか。たぶん快く引き受けてくれるぞ? あいつもお前のことを受け入れたみたいだしな。“お兄様に群がる寄生虫め! 死ね!”とか言って暴れだしたらどうしようとか思ってたんだが」

「さらっと怖いこと言わないでよ……。でも、確かに仲良くなれそうだし、アタシも安心したよ」


 しばらくレイナと会話を楽しんでいると、整備をしていた使用人から連絡があり、とうとう試合が始まる時間となった。


 エールを送ってくれたレイナとキスを交わし、堂々とした歩きで、フィールドへと足を踏み入れる。



「さて、どんなもんかね……」

「お兄様。殺す気で、参りますよ?」

「そうしろ。俺は誰にも殺せねえがな」

「重々承知しております。胸をお借りしますね」

「ああ」


 既にフィールドに立っていた達姫と軽く会話を交わし、ある程度距離を取ったところでアナウンスが響く。



『我らが次期当主、達人様と、その妹君、達姫様との試合が行われることとなりました! ご覧下さい、この大声援! 満員の客席! 黄色い声! これらは全て、達人様のために在ります!』


「ふふっ、わたくしは完全にアウェーですわね」

「そりゃそうだ。俺は次期当主で、お前はその補助役。役割が違いすぎる」

「それもありますが、偏にお兄様の人望が凄まじいという事が大きいでしょう」

「物好きな奴らだぜ」

「わたくしも、レイナお姉様も、あなたに魅了された人間ですわ」

「そうかい。ありがとよ」


 メイドたちの黄色い声と、執事たちの野太い声が響く中、試合が始まる。

 まぁ、楽しんでいけよ。


『それでは! はじめてくださいッ!!』


「行きます。フォルティス!」

「まぁ気楽に行こうぜ。フォルティス!」

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