第9話 帝王と姫と偽王子


「よぉーぅ、ちょっくら邪魔するぜぇ」


 “帝王”は“帝王”らしく、乱暴に放送室のドアを蹴破り、いかにもチンピラ然とした態度でドカドカと入る。

 後で優奈に文句を言われそうだが、これも演出の一貫だ。悪く思うなよ。って言っても無理だろうがな。


「わっ、わっ!? て、“帝王”……!? あっ、し、失礼しました! な、なんと、放送室にあの如月達人さんが乱入~! い、いったい何をするつもりなのか!?」

「……はっ、ちょっと見直したぜ。牧原、お前のプロ根性、なかなかじゃねえか」


 口をポカンと開けて呆けている東堂の横で、マイクが入ったままになっている事に気付いた放送部長の牧原……つまりあの小うるさい実況の主が、突然の出来事を“イベント”へと変えてしまった。

 実際、放送室の窓から見下ろすと目に映る観客席には、帰ろうとしていた生徒達が引き返してきている様子を見る事ができる。


「な、何の用かな? 如月くん……」

「いやいやいや、お前が知ってるかどうかは興味ねえが、二年のEランクに入ってきた転校生が、“いつも偉そうに解説してる生徒会長さんが本当に強いのか確かめたい”なんて言い出してよぉ。そんな可愛い後輩の頼みを、俺が叶えてやろうかってな」

「転校生……あ、ああ。そこの彼女だね?」


 ハッハッハッ、笑えるぜ。普段は余裕ぶったキザったらしい態度をしてるくせに、俺と直接対面すると途端に挙動不審になりやがる。

 そういうところが気に入らねえんだよなぁ。ヘタレが完璧な王子様ぶってんじゃねえよ。


「えっと、それはつまり……。東堂さんに対する挑戦状、だということで?」


 こちらの用件を察した牧原が、ヘタレモードに突入した東堂の代わりに問う。ありがてぇが、まだマイク入ってんだろ? まぁそれも演出っぽくていいか。


「ククッ、ほら、レイナ。ちゃんと自分の口で言えよ。俺が強制したなんて思われちゃかなわねえからな」

「うんっ! 東堂さん、だっけ? あれっ、ドードーさん? ま、なんでもいいけど。アナタ、いつも解説なんてしてるけど、この人にはてんで敵わないんでしょ? それに、この前のユ……ヒイラギ先輩の試合では、全然見当違いな事言ってたじゃん。だから、本当に強いのかなぁって、ギモンに思ってさ」


 あえて無礼千万な生意気キャラを演じるレイナの挑発に、まんまと乗っかる東堂。

 その証拠に、明らかに顔を歪ませてやがる。プライドが云々とかだろう。


「……ふぅ。Eランクである事に加え、転校生ともなれば仕方ないか。それじゃあ何かい? 僕とダービー戦でもすれば、認めてくれるのかな? おっと、さすがにそれは大人気ないよね。ごめんごめん」


 また余裕ぶった表情をはりつけているが、言葉には全く余裕がない。

 内心“無知なEランク風情が!”とでも思っている事だろう。実にわかりやすい野郎だ。

 そして、この東堂の発言は、必死の思いで頑張っているEランクの奴らを敵に回したことだろう。儲け儲け。

 何故かって、言葉の節々にEランクの生徒を見下している本音が漏れまくっているからだ。これでムッと来ない奴は相当鈍いと思う。


 ふとブレイブネットを確認すると、案の定掲示板は色々と盛り上がっていた。

 Eランクの奴らが多く利用するスレなんかは、東堂に対する批難で大炎上しているぐらいだ。


 そしてレイナはにんまりと笑い──。


「──いいよ。ダービー戦で確かめてあげる」

「……何だと?」

「聞こえなかった? ダービー戦で、アタシと今すぐ勝負しろって言ったのよ。もちろん、“帝王”には何も手出しはさせないわ。正真正銘、アタシとアンタとでの、タイマン勝負よ」

「……言ったね? 面白い、受けて立とう。だけど、ただの勝負じゃつまらないよね。そうだ、勝った方は負けた方に対してなんでも命令をできる、というのはどうだい? ああ、拒絶するようなら試合は無かったことにしよう。僕は、つまらない戦いはしない主義でね」


 勝手にべりべりと剥がれていく、東堂という偽王子の仮面。

 まぁてめーならこう来るよな。何せ、レイナは優奈に次ぐぐらいのイイカラダを持った女だ。手篭めにせずにはいられねえだろう。


「構わないわ。アタシが勝つから」

「ふっ、そうかい。それは楽しみだ。さて、では早速フィールドへ行こうか? ちょうど空いたことだしね」

「ええ、そうね」


 すっかり固まってしまった牧原を放置し、さっさと放送室を出ていく東堂。

 すれ違う一瞬で見えた奴の表情は、酷く醜く歪んでいた。


 対して、レイナの方は、達成感に満ち溢れた満面の笑みを浮かべ、俺にウインクを飛ばしてから去っていった。

 既に勝利を確信しているようだ。

 まぁ、勝つしかねえしな。


「おーい、牧原」

「……はっ!! し、失礼しました! な、なんと! あの東堂さんが、この学園の生徒会長であり、Aランク二位という高みにある、あの東堂憲和が! 二年Eランク、転校生の可憐な女生徒とダービー戦を行う事となりましたっ! さぁさぁ皆さん、これを見逃す手はありません! どうぞご着席してお待ちくださいっ!」

「あー、解説はこの俺、“無敗の帝王”こと、三年Aランク一位、如月達人がやってやる。ありがたく思いやがれ。あ、美央、お茶よこせ」

「畏まりました、達人様」


 優奈はレイナのサポートに回ることにしたらしく、先ほど放送室を後にしたばかりだ。ま、ぶっちゃけあいつがやる事なんざ特にねえと思うが。

 強いて言うなら、東堂の能力について教えるぐらいかね。


「あははー……如月さんはいつでもマイペースというか、我が道を行くというか……」

「気にすんな。ほら、美央が淹れてくれたお茶だ。飲めよ」

「あ、これはどうもご丁寧に……って、機材にかけないでくださいよ!?」

「わぁーってるって。そんな事しねえよ、勿体ねえ。せっかく東堂のクズ野郎が観衆の前で公開処刑されるんだからよ」

「クズ野郎て……。如月さんは、えーと……パーシヴァルさんが勝つと? あれ、パーシヴァル……?」

「まぁな。客席で見てるお前らも、よーく楽しんでいけよ。あのエセ王子の薄汚ぇ本性が暴かれる瞬間を。そして、あの野郎は大して強くないって事を確かめな」

「あの、解説の方には公正にお願いしたいのですが……」

「うだうだ言うなって。そのあんまり無い乳揉んじゃうぜ?」

「な、無いとか言うなぁっ!」

「ハッハッハッ」

「うぅ~……これ、校内中に放送されてるのにぃ……」

「あれ、そうなん?」

「達人様はいつも授業が終わったらすぐに下校なさいますので、馴染みが薄いのでは」

「ああ、なるほど」


 東堂とレイナが出てくるまで、牧原をいじり倒して場を盛り上げる。

 客の様子はブレイブネットを通して美央に逐一確認させ、如月家の関係者間でしか通じない暗号を通して俺に伝えてもらう。そんでウケが悪いネタはすぐにやめ、次に切り替えていくわけだ。

 すると、徐々にだが“帝王の解説なんて初めて聞いたけど、まだ試合始まってないのに面白いかもしれない”という意見が増え始めた。

 同時に、学園の奥底で燻っていた東堂への不満を、徐々に表へと押し上げる意味合いもある。露骨なまでのレイナ上げと、東堂を酷評しているのはそのためだ。


 俺のイメージ回復は順調だ。

 後は、レイナが東堂をボコればいいだけ。

 主役……任せたぜ?



「あっ、どうやら双方の準備が完了したようです!」

「さぁ、ショータイムの始まりだ! おら、さっさとゴングを鳴らせや!」

「わ、わかってますよぉ! 急かさないでくださいってば!」


 いつもの余裕ぶった笑みが消えた東堂。

 対照的に、自信に満ちた笑みを浮かべるレイナ。


 見てるかぁ、黒ヶ崎ぃ。それとついでに、Eランクの奴ら。

 てめーらの逆襲が、始まるぜ。


「今、戦いの始まりを告げるゴングが……鳴ったぜぇぇぇ!!」

「それ私のセリフーーーッ!!」


 牧原の悲痛な叫びと共に、VRによってフィールドが一変していく。

 今回は、障害物も何も無い平原だ。



「……格の違いを見せてやるよ、Eランク。……フォルティス!!」

「まぁまぁ、口では何とでも言えるよねー。フォルティスッ!!」


 東堂のグローリーは、いかにも奴らしい、まるで物語の勇者が振るうような幅広の、しかし派手な金色の長剣。


 レイナのグローリーは……なんだありゃ?



「……如月さんに乗っ取られかけましたが、ついに始まりました! 今回のフィールドは平原A! その名の通りに平坦な草原が広がるのみであり、純粋な実力が試されます! さて、東堂選手のグローリーは、もはや皆さんお馴染みだと思われますが、パーシヴァル選手のグローリーは……なんというか、変わっていますねえ……」

「変わってるなんてモンじゃねえ。武器ですら無いグローリーなんざ、プロでも使ってなかったぞ」

「おお、実際にプロと戦った経験のある如月さんの言葉だと、説得力が違いますね! それでは、あのグローリーの能力は何か、分かりますでしょうか?」

「見た目は完全に本だな。それも、やたら分厚い。アレでぶん殴るわけじゃあるめぇし、何だろうな。中に描いてあるモンを自由に呼び出せるとかか?」

「えっ……それはいくらなんでも突飛すぎるんじゃ……」

「ありえねえなんて事はありえねえ。観客どもも、よーく覚えとけ。ブレイブ同士の戦いでは、想像しうるあらゆる全てが実現してもおかしくはねえんだ」

「はー……なるほどー……」


 こうしてレイナの戦いを見るのは初めてだが、まさかあんな妙ちくりんな代物だとは思わなかったぜ。

 実況として見たことがあるはずの牧原はまぁ、Eランクの試合なんて覚えてるわけもねえだろうし、まるで初見であるかのような反応は当然か。


 それにしても、本か……。

 能力の想像がつきにくいとなると、東堂の野郎はなかなか面倒くさく思ってるだろうな。

 引いて様子を見るか、あえて突っ込むか。


 おっ。


「ああっと東堂選手、剣を大きく振りかぶり、一足跳びでパーシヴァル選手へと急接近!」

「はっ、Eランク程度に恐れる必要は無い、とか油断したんだろうさ」


 あんだけ意味不明なグローリーを相手にするとなると、迂闊に突っ込むのは愚策だろう。

 まぁ、東堂はレイナが元Aランクだと知らねえだろうから、油断するのも無理はねえが。

 外国で一度はAランクの一位にまで上り詰めたレイナが、一見苦手そうな接近戦に対して何の策も講じてねえわけがねえ。


「おい、フィールドに設置してあるマイクの感度を上げろ。会話が聞きたい」

「あ、は、はいっ!」


 そう牧原に命じ、東堂とレイナがどんなやり取りをしているのか、聞いてみる。


『これで終わりさ。何もさせないよ。どんな相手でも全力で叩き潰せって言うのが、僕の師匠の教えでね』

『そう。でも……油断大敵、だよ』

『ふん、負け惜しみ……なんだ!?』


 東堂のグローリーが、あと数センチでレイナの身体に届くというその瞬間。

 レイナの本型グローリーが眩い光を放ち、東堂の身体は大きく吹き飛ばされた。


「おおーっと!? い、いったい何が起きたのでしょうか!? 如月さん!」

「……なるほどな、そういう能力か。クククッ、こいつぁおもしれえ」

「ちょ、ちょっとぉ!? 一人で納得してないで教えてくださいよぉ!」

「だー、うっせーな。もうちょいしたら解説してやっから、待ってろ貧乳」

「ひ、貧乳じゃないもんっ!!」


 牧原とコントを繰り広げていると、フィールドの様子は一変していた。


『がはっ……な、なんだよこれ……』

『これがアタシのグローリーが持つ能力……〈無敵戦艦ドレッドノート〉。まぁ、わざわざご丁寧に教えてあげる必要無いよね?』

『……はっ、大層な名だね』

『イギリスでもよく言われたよ』


 バラバラと無限に捲れる、本型グローリー。

 フィールドの、いや、東堂の周囲には、夥しい数の“大砲”が浮かんでいた。

 正しくは、ほんの一部分だけ顕現した戦艦の群れが、東堂を囲んでいた、だな。

 どう見ても、限られた広さしかないこんなフィールドじゃなく、“外”で使った場合にこそ真の力を発揮する物だろう。


「せ、戦艦……!?」

「さっき東堂が吹き飛ばされたのは、レイナの正面にアレの一部が顕現したからだろう。グローリーの動力源でもある“フォトン”を体内に秘めるブレイブは、常人よりも遥かに身体能力が高いし、比較にならないレベルで丈夫でもあるから、ああして生きているわけだが……。ただの人間であればあっという間にミンチだな」

「な、なるほど」


 家族を奪われたレイナらしい、まさに“グゥルを殺すため”のグローリーだ。

 今こうして同じブレイブにその砲口が向いてるのは、まぁただのオマケみたいなモンだな。どう見てもありゃあ“対怪物用の兵器”だ。


『でもね、僕の能力と君の能力は相性がいい。いや、悪い、と言うべきかな? ま、とにかく見せてあげるよ』

『どうぞご勝手に。アタシは“帝王”以外に負ける気は無いから』

『……!』


 俺への対抗心からか、完全に顔を歪ませて悪人面となった東堂が、無数の砲撃を掻い潜りつつ、能力を行使する。

 いや、ありゃあレイナの奴わざと外してんな。ちょいちょいあらぬ方向に飛んでく弾がある。まぁ、東堂は華麗に避けてるつもりだろうが。


「何という試合でしょうか! パーシヴァル選手、あれでEランクだとはとても信じられません!」

「ハッハッハ、そうかい。俺ならあんなもん相手にもならねえがな」

「あなたは例外です。色々と」

「違いねえ」


 フィールドに現れたのは、無数の戦艦たちを更に上回る、圧倒的なまでの、東堂の群れ。

 これがあの野郎のグローリーが持つ能力、〈一人軍隊ワンマンアーミー〉だ。本来の意味合いとは大分違う気がするが。


 見た目だけじゃなく、力まで全く同じ“コピー東堂”が、フィールド中に蠢いている。

 この圧倒的なまでの“数”と、ブレイブ自体が持つ高い身体能力で、無理やり相手を押し潰す。


 戦艦の群れが、一つずつ破壊されていき、どんどんと数を減らしていく。


『へぇ』

『はははっ! どうだ! これがAランク! これが僕の力だ! 土下座して謝るなら、今なら許してあげるよ! たぶんねぇっ!!』


 どうやらレイナの戦艦たちは見た目に反して柔らかいらしい。

 特に、砲門の火薬を逆流させられてしまうと途端に自滅するようだ。

 その事に東堂が気付くと、あっという間に戦艦の群れは消え去り、無数の東堂たちがレイナを取り囲むという状況になっていた。


『まだ、やる気かい? これでわかっただろ。僕は、相応しい力を持って生徒会長という地位に居るんだ』

『……ははっ』


「パーシヴァル選手、なかなかに健闘しましたが……。東堂選手、やはり強いっ! Aランク二位は伊達ではない!」

「くっ、ククク……クハハ……」

「……如月、さん?」

「クハハハハ……」


『あはははは……』

『なんだ? 頭でもおかしくなったのかい? 今更取り返しはつかないよ?』



『「ハハハハハハッ!!」』


 あまりの可笑しさに、俺とレイナは同時に爆笑した。


 だって、そうだろ。

 いくら超人的な力を持つブレイブとは言え、たかが人間ごときがわらわらと群がった程度で落ちるようなモンが、“無敵戦艦ドレッドノート”なんつー大層な名前・・・・・を持っていられるか?



『“換装”。モード、〈無敵戦姫ジャガーノート〉』

『──は?』


 真っ赤な閃光がフィールド中を走り、たった一人・・・・・を残して、あれだけいた無数の東堂たちが消滅した。

 レイナの姿は、まるでSF映画に出てくるような、メカメカしい金属の鎧を身に纏った美しい戦姫へと変化している。



「なっ……」

「あーっ、腹がいてぇ。笑わせんなよ東堂。てめーは考えなかったのか? なんでレイナは、あっさりと戦艦たちが沈められていっても顔色一つ変えなかったのか。全く焦る様子すらなかったのか。普通、本当の切り札が効かなけりゃ、大なり小なり顔に出ちまうもんさ。所詮学生なんだからな。そう、今のてめーみたいによ」


 そう、レイナは初めから本気なんて出しちゃいなかった。

 あの無敵戦艦ドレッドノートだって、わざと東堂が壊せる程度に、手を抜いて顕現させたものだろう。じゃなきゃ無敵なんて名を持つモンがやられて、レイナが笑顔のままでいるわけがねえからな。


『ば、馬鹿な……僕の、僕の一人軍隊ワンマンアーミーが、一撃で……』

『あー、おっかし。笑わせないでよねー。あんなの、ただのお遊びじゃん。あーあ、本当に弱いなぁ、アンタ。早くタツトと戦いたいよぉ……』

『ま、待て! 待ってくれ!! わ、わかった、君の力はよくわかったから! そ、そうだ! 放送室で言った件は撤回するし、素直に認めるよ! 確かに、僕は君よりは全然弱いっ!』


 ブレイブネットにある様々なスレに、凄まじい速度で書き込まれていく。

 そのどれもが、東堂に対する失望と、新たに現れたレイナ・パーシヴァルという天才に期待するものだ。


 “彼女なら、帝王にすら勝てるかもしれない”と。


『何言ってんのー。負けたら何でも言う事聞くんでしょー? だから、都合が悪くなったら撤回とか、ムリムリ』

『そ、そんな……! 僕は、僕は……!』



 そして、また閃光が走り、東堂が情けない体勢で吹き飛んでいった。


「し、死んでない……ですよね……?」

「さぁ。どうでもいいんじゃね」


『あー、終わった終わった。皆さーん、アタシ、強い人と戦いたいの! だから、どんどんダービー戦仕掛けて、すぐにAランクまでいくから! そして、アナタたちもよく知る“帝王”に挑戦するっ! 応援よろしくーっ!!』


 グローリーを解除し、愛想よくそんな事を言い放つレイナ。

 曲がりなりにも強者として知られた東堂のザマを見て、嬉々として彼女の挑戦を受けるような奴は、まぁいないんじゃねえかな。

 俺を除けば、な。


「また宣戦布告されてますよ、如月さん」

「おもしれえじゃねえか。俺に勝てるもんなら勝ってみろってんだ。ま、この試合程度の力なら、俺相手なら秒殺だがな」

「おー……相変わらずですねえ……」

「事実だしぃ。さてさてお前ら、今日は楽しんでもらえたかな? 今後は東堂の野郎に代わってこの俺が解説をバンバンしていくんで、よろしく頼むぜ」

「えーっ!? また来るんですか!?」

「あぁん? ダメだっつーのか、コラ」

「い、いえ。ただ、公正に頼みます、ね?」

「任せろ。今回は特別だからな」


 さーて、これで東堂の人気は地に落ちただろう。東堂の取り巻きどもだって、すぐに奴から離れていくはずだ。

 観客席の、東堂のファンが集う一角が、まるでお通夜みたいになってるしな。ほら、今まさに、しらけた表情で気絶した東堂を睨んでやがる。


 あーあー、人間の心変わりってのは怖いねえ。クックックッ……。

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