第6話 帝王の大改革計画
優奈の完勝と祝勝会、そしてレイナの話。
昨日はまぁ色々とあったなーなんて考えながら、俺は今日も歩く。
そういやレイナは一年下だから、Aランクになっても同じ教室にはならねえんだよな。まあ、会いやすくなるのは確かだが。
「タツト、おはよっ!」
「おう、おは……ん? レイナ?」
「えへへ、ここで待ってたらタツトが来るって、ユウナから教わったの!」
「へぇ、アイツがね……」
また柊……いや、優奈が待ち構えているんだろうなと思っていたが、意外なことに居たのはレイナだった。
なんだか妙に懐かれちまったな。
まぁ悪い気はしねえどころか嬉しいというかありがとうございますなんだが。
「胸当たってるぞー」
「当ててんの! ねえ、タツト。アタシと戦ってみない?」
「……俺ぁ戦いとなりゃ容赦はしねえぞ? 下手すりゃ病院送りだ」
「それでもっ!」
「んー」
病院送りになっても、今の病院にゃすぐに怪我や病気を治す〈超再生カプセル〉があるから、すぐに戻ってこれるんだがな。極端な話、腕や足がちょんぎれても全く問題はねえ。治療費は高いが、ブレイブなら割引してくれるから学生でも普通に払えるし。
「プロ相手に完勝したっていう“帝王”の実力を、身を持って感じたいの」
「夜のお誘いなら大歓迎だがな」
「……タツトなら、いいけど?」
「軽すぎませんかねえ」
「ううん。それだけ、昨日アナタが言ってくれた事が嬉しかったの。キュンとしちゃった」
「そうかい」
うーむ。優奈とは違って積極的だな。さすがは外国人だ。
しかしまぁ……。
「お前がAランクまで上がってきたら考えてやるよ。何が悲しくて俺がEランクのお前をボコボコにしなきゃならねえんだ」
「……そっか、そうだね。わかった。すぐに上がるから、待っててね」
ニコッと微笑むレイナの頭を、ぽんと撫でてやった。
まるで犬か猫みたいに気持ちよさそうにするもんだから、愛でる甲斐がある。
うーむ、癒し癒し。
優奈よりいいかもな……。
なんか口調もちょっと可愛くなってるし。
いや、だが。
「……? どうしたの?」
「いや。やっぱり胸は優奈の方がデケェんだなって思ってよ」
「むー……。あの人のは反則すぎ。本当に日本人なの?」
「バリバリの日本人だ。しかも名門出なわけでもなし。ふつーの庶民さ、元はな。今はあの通り、この学園の顔になっちまった」
「うん。それは素直にすごいと思う」
それだけ言うと、ピッタリと俺にくっつきながら、自分の胸を揉みだすレイナ。
お外でそんな卑猥な事をするんじゃありません。また俺にあらぬ疑いがかけられちまうだろうが。
「外でナニしてんだオメーは」
「揉んだら大きくなるかなって」
「帰ってからにしろよ。俺が変な目で見られる」
「……今更でしょ?」
「違いねえ。ところで、黒ヶ崎はどうした?」
なんとなーく一緒に登下校してそうなイメージがあったんだが、俺を待っていたからか黒ヶ崎の姿は見えない。
「ユキツグなら、もう学園に行って自主練してるよ。アタシが来てからはいつもそうなの」
「ほう、なるほど。熱心だねえ」
「タツトはしないの?」
「どうだかな。何せ俺は最強だからよ」
「ふーん……」
実際は俺も放課後に自主練をしているが、最近はどうもサボりがちだな。
主に優奈のせいで。
いらん世話を焼くのはいいが、ちっとは考えて欲しいもんだぜ。
そんな感じで、今日はレイナと共に登校した。
銀髪巨乳美少女を連れて現れた俺を見て、他の生徒達がしきりにブレイブネットに何かを書き込んでいたが、これは早速噂になりやがるな。はっ、人気者は辛いぜ。
俺の場合、逆の方向に人気なんだがな。
「タツト、めっちゃ見られてる」
「俺と一緒に居りゃこうなる」
「さすが“帝王”だね」
「まぁな。ほら、Eランクはあっちだろう」
「ん。ダービー戦を仕掛けまくって、早くそっちに行くから。またね、タツト」
「おう、またな」
レイナは去り際に、頬にキスをしていった。ギャラリーが居ようが関係ないらしい。本当に積極的だ。
思わず襲いたくなっちまったぜ。
「……随分と仲良くなったわね、達人くん」
「げぇっ、優奈!?」
「何よ!? 私が居ちゃいけないの!? イケナイ事でもしてたの!?」
「ちょっ、黙れムッツリ! 公衆の面前で何を口走ってやがる!」
「誰がムッツリよ!!」
魅力的すぎるレイナにデレデレしていた俺だが、地の底から響くようなおぞましい声に、思わず仰け反った。
頬を膨らませた可愛らしい顔で、優奈が仁王立ちしていたからだ。
あれっ? なんか最近同じような事があった気がするぞ?
またも観衆たちがブレイブネットに書き込みをしている姿が見え、ふと確認してみると……。
【悲報】柊ちゃん、帝王と名前呼びで親しげになっていた
案の定こんなスレが立っていた。
「とりあえず教室行こうぜ、なっ? 見ろよ、ブレイブネットを。すっかり噂になってるぞ」
「……なっ、なななっ! だ、誰と誰が親しげよ! ちょ、ちょっと名前で呼びあってるだけじゃない!」
「わかった、わかったから。行こうぜ、お姫様」
「おっ……お姫様って……もうっ!」
優奈って、可愛いのにウブだよなぁ。男性経験とか絶対無いぞコイツ。
まあ、そこがまたいいんだろうが。
そんなこんなで、俺は顔を真っ赤にした優奈の手を取り、教室へと逃げ延びた。
しかし、こういうのもいいかもしれない。俺に対する恐怖感が、優奈やレイナを通して緩和されれば、改革もしやすくなるだろう。
◆
放課後、優奈と美央、そして早速ダービー戦を行い、上のランクの生徒に勝利したというレイナの三人を連れて、昨日のカフェに集まった。
「まずはおめでとう、レイナ。俺は見に行ってねえが、美央曰く瞬殺だったそうだな」
「ありがと、タツト。そりゃあ、相手はたかがDランクだし。アタシ本来のランクからすれば、格下もいいところだもん。早くタツトと戦いたいなあ」
「おめでとう、レイナさん。順調ね」
「おめでとうございます。まぁ、達人様には遠く及びませんが」
ふと思ったが、何故に優奈は年下のレイナに対してさん付けなのだろうか。
どうでもいいっちゃどうでもいいが、相変わらず妙にきっちりしてる女だ。
転校生とは言えEランクのレイナが上のランクの生徒を瞬殺した事により、少しずつだが彼女も注目度が高まってきている。
東堂のバカは余裕ぶっていたが、俺は恐らく東堂よりレイナの方が圧倒的に強いだろうと予想している。何せ、覚悟が違うからな。
ん、こりゃ使えるか?
「何よ、達人くん。悪人じみた笑みを浮かべちゃって」
「クックックッ……思いついたぜ、東堂の野郎を引き摺り下ろす策をよ!」
「えっ?」
「なるほど、それを考えていたのですね」
「生徒会長を引き摺り下ろす策? タツト、それって何?」
まず東堂の性格を考えるに、奴は勝てない戦いからはすぐに降りるが、勝てる戦いだと奴が思い込んじまえば絶対に降りない。
そして、Aランクである自分に必要以上に自信を持っているから、口では綺麗事を言っていても内心では下のランクの奴らを見下している。
つまり。
「いいか? レイナはまだ最底辺のEランクだが、東堂のバカは頂点であるAランク。それも二位だ。なら、もしレイナがダービー戦を仕掛けた場合、逃げると思うか?」
「……あ、なるほど」
「それって……」
何故あんなねじ曲がった性格のクソ野郎が、“東堂派”なんつー派閥を持ち、生徒会長なんつー地位に居るのかっつーと、一重に奴が“強くてとても敵わない相手”だと、大半の生徒に思われているからだ。もっと強い奴がいないわけでもねえがな。
それが、最弱のはずのEランクに負けたとありゃあ、どうだ? 当然東堂の支持率なんかは地に落ちるだろう。その上、今は優奈が同じAランクの鬼城を相手に完勝した事から、「東堂より柊の方が強いのでは?」という疑念が校内に渦巻いている。
そんな事を分かりやすく説明していった。
「つまり……」
「アタシが生徒会長にダービー戦を仕掛けて勝つことで、まずは生徒会長の支持率を急落させる。そして空いたポストにユウナがおさまれば……」
「東堂は転げ落ちるというわけですね。さすがは達人様です」
生徒会長の首を、東堂から優奈にすげ替える。そこから俺の改革は始まるのさ。これはそんなに難しい事じゃない。レイナは強いし、優奈は元々人気があるからな。
「でも……そうなると、その、達人くんとの時間が……」
「安心しろ。俺も生徒会に入る。レイナと美央、そして黒ヶ崎もな」
「えっ!? 達人くんが、生徒会に!?」
「おう。お前が推薦してくれりゃ簡単に済む話だろ? そうすりゃむしろ今より一緒にいる時間も増えるんじゃねえか」
「今日も柊さんは素直ですね。レイナさんの存在がききましたか」
俺も生徒会に入った方が、何かとやりやすいからな。当然文句は出るだろうが、言わせねえ。
座して待つだけが“帝王”じゃねえんだぜ。
「アタシたちも生徒会に入るって事は……」
「そうだ。ウチの学園の学生どもの腐った性根を叩き直し、すぐそこにグゥルが迫ってきているという事実に向き合わせてやる。いいか、これは俺達のためだけじゃねえ。もうレイナのような思いをする人達を無くすための、人類全体のために必要な、大改革なんだ」
プロでも敵わない実力を持つこの俺が改革をすりゃ、その影響は世界中に及んでいく。それなりのコネは持ってるし、いざとなりゃ実家の力も利用してやるさ。
「……うん、わかった。やりましょ」
「賛成! タツト、ずっとついていくから!」
「それは私も同じですよ。達人様には、この生涯をかけてお仕えいたします」
「決まりだな。そうとなりゃ、まずはさっさと東堂のゴミクズ野郎にご退出願おうじゃねえか。万が一あいつが逃げそうなら、俺が煽ってやるから心配すんな。レイナ、まずは任せたぜ」
「うんっ! よーし、
ヤツは俺を何かと敵視してやがるからな。煽ればあっさりと乗っかってくれるだろう。ま、
しばらくして解散した俺たちだったが、優奈と美央が帰ってからも、レイナがひょこひょこと俺の後についてくる。
「なんだ、まだ何かあんのか?」
「タツトの部屋に行っちゃダメ?」
「……あ?」
「一緒に、居たいの。なんだか、昨日は全然眠れなくってさ。一人だと、怖くて……」
「……わぁったよ」
「やった! ありがとう!」
ま、バレなけりゃいい話だ。
万が一バレても、どうにでもならぁ。
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