第4話 帝王、宣戦布告される
『レディースエーンドジェントルメーン! 皆さんお待たせしましたぁ~! いくつかの前座を終え、遂に! 本日、最大の注目を集めているであろうこの試合!
〈三年Aランク五位〉柊 優奈選手対、〈三年Aランク七位〉
放送部の小うるさい実況が競技場中に響き、柊のファンたちが狂ったように歓声を上げ始めた。ま、ここにいる観客のほとんどが柊ファンだろうが。
それだけ柊の人気は凄まじいし、あいつの対戦相手である鬼城の奴は、その陰湿とも言える戦い方から、かなり嫌われているからな。
「鬼城ですか。これまた厄介な輩と当たりましたね、柊さんは」
「まぁな」
俺の隣に座っている美央も、鬼城の事を嫌う人間の一人だ。あからさまに嫌そうな顔をしてんのがその証拠だろう。
『実況はわたくし、放送部長の三年Cランク、
『あはは、よろしく。絢音ちゃんは今日も元気だねえ』
おや。解説は東堂の野郎か。
いつまでも俺に歯が立たないくせに、のんきに解説なんざしてる場合かよ。
「「キャー! 東堂くーん!!」」
女子生徒たちの黄色い声が、放送席に向けられている。
あーあー、うっせえなぁ。これだから鬱陶しいんだ、“東堂派”の奴らは。
『あっ、女子生徒たちがこちらに手を振っていますよ。相変わらずすごい人気ですね、東堂さん!』
『ありがたいね。でも、今日の主役は僕じゃなくて柊さんと鬼城くんだよ。君たちも、そっちを向いてほしいな』
かーっ、いつもいつもキザったらしい野郎だ。キメた声で戯けた事言ってんじゃねえぞエセ王子。とっととメッキが剥がれちまえばいいんだ。
ふとフィールドに立つ柊の様子を見ると、明らかにイラついているようだった。そりゃそうだ。あいつも、俺と同じで東堂の野郎が大嫌いだからな。
もちろん原因は東堂の野郎にある。一昨年、まだ生徒会長になる前の東堂が、勉強会と称して柊を拉致し、強引に押し倒そうとしやがったんだ。
学園中にアンテナを張ってある美央から連絡を受けた俺が駆けつけなければ、柊はあのエセ王子に汚されていただろう。
当然東堂の野郎は俺が試合で半殺しにしてやったが、取り巻きの女どもを連れ歩く姿が頻繁に目撃されている以上、懲りてはいないんだろうな。クズが。
そうこうしている内に、戦いの始まりを告げるゴングが鳴る。
同時に、VRによってフィールドが一変し、馬鹿でかい岩がごろごろと置いてある広場となった。
そして柊と鬼城が構え、高らかに叫ぶ。
「「フォルティス!」」
それは、俺たちブレイブの武器である超兵装、「グローリー」を呼び出す合言葉だ。
柊の手には、彼女の本質を表す、真っ直ぐで白く美しい剣が。
鬼城の手には、奴の本質を表す、歪な形をした禍々しい大鎌が。
今、それぞれに顕現した。
『双方グローリーを顕現させたところですが、今回のフィールドは山岳地帯Bですね! 身を隠すための障害物が多く存在しており、鬼城選手が得意とするマップでもあります!』
『そうだね。堂々と正面からぶつかるのを好む柊さんからしてみれば、随分とやりづらいだろう。これは、鬼城くんの下剋上も充分有り得るかもしれない』
なるほど、やっぱりそう来たか。
大方、お偉いさんに賄賂でも渡したんだろうな。ランダムに選んだにしては、あまりにも出来すぎてる。
ねっとりと気持ち悪く語る東堂の雰囲気から察するに、仕掛け人は東堂の野郎だろう。
「達人様。柊さん、大丈夫でしょうか……」
「さあてな。俺にリベンジするまで二度と負けないとまで言い切ったんだ。この程度の嫌がらせはとっくに承知してるだろうさ」
フィールドの面積は、縦横100m。サッカーグラウンドより気持ち広いかなーっていうぐらいか。
その中に無数の岩があるんだから、鬼城にしてみればこれ以上とない絶好のステージだろう。
『あっと、早速鬼城選手お得意の、〈
『先手必勝だね。彼にしてみれば、これほど有利なフィールドで先手を打たない理由が無い。柊さんが何かをする前に、すぐ勝負を決めにかかるんじゃないかな』
『なるほどー』
音も、形も、一切の痕跡を抹消する“ステルス能力”。おまけに、一定の範囲内に入ったモノは、生物だろうが物質だろうが感知できる。それが鬼城が持つ〈
ブレイブは皆、誰しも一つだけ、こういう超常的な特殊能力を持っているのさ。
柊もさすがに鬼城の場所がわからないようで、いつ攻撃を食らっても対処できるように辺りをキョロキョロと見回している。
『柊選手、何やらしきりに目を動かしていますが……』
『鬼城くんを探しているわけじゃないよ。だって、彼女にも今の彼は見えないんだからね』
『では……?』
『簡単な話さ。攻撃を貰った瞬間、即座に反撃できるようにしているんだ。当然、鬼城くんもそれがわかっている』
『なるほど、無傷での勝利はハナから捨てていると』
『うん。このマップで鬼城くんを相手に無傷で勝てる人なんて、ウチの学園にはそれこそあの“帝王”ぐらいしかいないと思うよ。僕だって無理だ』
嫌々ながらも東堂の解説を聞いていた美央が、俺に視線を向けてきた。
“東堂はああ言っていますが、達人様なら本当に無傷で勝てるのですか?”と聞きたいんだろう。
「第六感だ」
「え?」
「見るんじゃない。ニオイで探すわけでもない。ただ、感じればいい。それだけだ」
「考えるな、感じろ。そういう事ですか」
「だいたいそんな感じだな」
「柊さんは、どうでしょう?」
「俺に負けた時のあいつなら無理だろうが、今はどうだかわかんねえよ」
ま、ああしてキョロキョロしているわけだから、望み薄だがな。それとも、俺が大好きなサプライズを見せてくれるのか?
なぁ、柊ぃ……。
と、その瞬間。
まるで俺の問いに答えるかのように、柊が何もないはずの空間に向けて剣を振った。
『『!?』』
「なっ……何故……?」
血が飛び散り、ダメージによって〈
そう。柊は何も見えていなかったわけじゃない。そして、反撃のためにキョロキョロしていたわけでもない。
「……見えたわ。ううん、感じた」
「馬鹿……な……。この……俺、が……」
見えないはずだからと調子に乗って、忙しなく動き回る鬼城の姿を追い、隙を見せた瞬間に、渾身の一撃をお見舞した。
柊は、ただそれをやってのけただけの事。
ハッハッハ……!
「見事だ、柊」
「……柊さんは最初から、鬼城の存在を感じていたと?」
「そういうこったな。あいつ、俺が思った以上に強くなってやがる」
「……流石ですね」
「はっ、お前があいつを認めるなんて、珍しい事もあったもんだ」
「そ、そうですか?」
「おう」
俺にはちゃんと理解できたが、俺以外はそうでもないらしい。
あんなにうるさかった観客も、実況も、東堂も、嘘のように静まり返っている。
完全に気を失っている鬼城を他所に、客席の俺に向けて剣を突きつける柊。
そして、こんな事を言い放ってみせた。
「如月くん……ううん! 如月達人ッ!! 今度は、今度こそは、あなたに……勝つ!」
静まり返った会場にあって、それはよく響いた。相当な大声を出したんだろう。
きちんと俺に聞こえるように、ちゃんとこの宣戦布告が、俺に届くように。
周囲の視線が集まっているのを感じ、俺も腹から大声を出して応じる。
「いいぜ! 柊優奈!! 俺はいつでも、この“帝王”の座でお前を待つッ!! だから、とっとと東堂も他の野郎もぶっ倒して、ここまで昇ってこい!」
それを聞いた柊は、とても嬉しそうに笑い、大きく頷いた。
こりゃあ、学園中の話題になるぞ。
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