最高位貴族

 ミーリ・ウートガルド。

 ユキナ・イス・リースフィルト。

 対神学園の中でも、二人は少し異質な存在だ。

 ラグナロクにて最強を誇る七人の生徒達――通称七騎しちきに数えられていることは、二人を単なる実力者として印象付ける。

 二人が学園の中でも群を抜いて強いのは、他の七つの学園でも周知の事実だ。

 だが異質なのはそこではない。異質なのは、二人の持つ経歴だ。

 東の大陸に存在する、騎士王国。名をグスリカ。

 歴史としては実に古いが、近年に王城の召喚士によって数多くの神霊武装ティア・フォリマを召喚し、それを軍に配備することで巨大化していった国だ。

 二人の両親は、その国で五つしかない最高位貴族の名家だ。

 読んで字のごとく、貴族の中でも最高位に位置する階級。その権力は王族の次とされ、時と場合によっては、王族のそれをも覆すことがある。

 そんな名家の生まれである二人が、何故貴族としての生活を捨てて一学生として暮らしているのかは、一般の人間からしてみれば深い謎だ。

 貴族として生きていれば、戦争に出ることはない。戦争に関わるとしても、対策本部や司令塔など、戦場には出ない職務に就くだろう。

 実に安泰。戦争さえ起きなければ、多少の派閥争いや権力争いなど、権力者特有のドロドロとした闘争くらいしか存在しない。

 精神的には参るかもしれないが、肉体的には実に楽だ。戦死、などとむごい死に方をしなくていい人種である。

 その薔薇色人生を蹴ってまで、二人が卒業後には軍への入隊が九割を占める対神学園に入学したのかは、本当に謎なのである。

 命を賭してまで神々を討ち滅ぼし、人類の存続を願うだなんて崇高な考えは、おそらく抱いていないのだろう基本的なネジが緩い二人。その性格を思えば、ますます謎は深まるばかりだ。

 だがそれを本人らに問うたところで、意味はない。

 答えてくれないからだ。適当な答えだけを出して煙に巻き、真相を掴ませない。そうして二人は学園に来た真の理由を、親にも隠して入学した。

 無論親は――とくに父親はそれを許さなかったが、とある条件を卒業までにクリアすることを約束させて、渋々ながら入学を認めてくれた。

 その条件をクリアすべく、今日もミーリとユキナはベッドに沈む。ミーリの手が優しくユキナの頭を愛撫すると、ミーリはユキナの上に馬乗りになった。

 彼女の横髪を掻き上げて、前髪を少しだけどけて、頬をなぞり、指先は柔い唇へ。そしてユキナが目を閉じると、ミーリはおもむろに口づけした。

 唇と唇が合わさり、感触を確かめる。柔らかな感触を実感すると一度離れ、親指で口をほんの少しだけ開けさせる。

 そこに再び唇を這わせるのだが、今度は開けた口の中に、おもむろに舌を挿入した。そこにあった彼女の舌と絡まり、舐め回す。

 粘液と粘液が絡まり、交わり、粘着質が高まってほのかな甘みを感じ始め、クチュクチュとほんの少しの気色悪さと変態的な要素が大部分を占める音を鳴らし始めた頃、ユキナの感度は高まり快感をより感じやすくなる。

 それを知っているミーリの手は彼女の体を少しだけ持ち上げ、背中についているドレスワンピースの紐を引っ張ってほどく。

 その背中から徐々にはだけられた彼女の白雪のような素肌が、愛する人の手に触れられて高揚し、溶けるように熱を帯びていく。少しずつ露になっていく白肌が、徐々に赤みをまとっていった。

 背中から始まり、肩、そして胸より少し上まで脱がされる。だがそれ以上、ミーリは脱がそうとはしない。彼女が嫌がるのを、知っているからだ。

 故に唯一露にされることを許された肩をなぞり、未だ隠れている服の下へと手を潜らせる。

 ほんの少し膨らんでいる小さな胸を、まるで猫の頭を撫でるように愛撫し、優しく指先で抱擁する。

 熱の籠った息を吐くユキナの耳を甘噛みし、さらにゆっくり優しく揉みしだくと、彼女はゆっくりと背筋を反り、快感の中へと片脚を突っ込んだ。

 恍惚の表情を見せるユキナの全身が、徐々に性感帯へとなりつつある。

 それを知っているミーリは強く、しかして優しく彼女の全身に指を滑らせ、彼女の弱点ウィークポイントに刺激を与え、彼女の感覚すべてをこの一時のみ、快楽の渦へと叩き落とした。

 そうなれば、後はもう時間が過ぎるだけだ。

 ユキナの方から熱い抱擁と口づけが交わされ、そこから先はR18指定の激しい愛の営みが交わされる。

 お互いの服を汗で濡らし、体力と霊力を削り、何時間もの間営みを繰り返す。

 お互いの性器が熱で溶けてしまうかというくらいに愛し合い、戦い以外で初めて、性と生を実感する。

 そうして何時間もの時間をかけて生まれた愛の結晶は、ユキナの中を充足感で満たしていた。

「ミーリ・・・・・・ちょ、今日・・・・・・頑張りすぎ、じゃない?」

「いや、でも・・・・・・これくらいしないと、目標達成・・・・・・できないし・・・・・・」

 そう、これが双方の父親に出されている条件だ。

 ようは対神学園に入ろうが入るまいが、軍に入らなければ問題はない。貴族として、自分達の家を守ってくれれば文句はないのだ。

 そして、対神学園に入学した生徒が軍に入らない条件は主に三つ。

 学生生活中に軍としての活動が不可であるほどの大怪我や病気を患い、戦闘不能になること。

 対神軍とは別の対神組織に入門するか、神と戦う誰かに弟子入りすること。

 そして、学生生活中に子供を産み、戦線を離脱する状況になること。

 ミーリとユキナはこの最後の条件で戦線を離脱し、貴族に戻るよう言われているのだ。他の二つでは、貴族に戻ることなど叶わない。

 故に二人は学園の三年生――一八歳になってから、こうして生殖行為をするようになった。無論妊娠して産むのが目的なので、避妊などしていない。

 学園は別に子供を持つことを認めていないわけではないが、世間体的に酒とタバコが解禁したばかりの成人になったばかりの子供が、自分達の子供を持つだなんてことは許されない。

 だが二人には、他に道がなかった。

 基本七年制の対神学園でもう三年生。動かないと親に言われるし、早めに産んでおかないと家に帰ったときに自分達の子供が邪魔者扱いされてしまう。

 公務を含む仕事が忙しい最高位貴族の生活に、まだ言葉もろくに話せない赤ん坊の世話など組み込まれない。そういう、冷たい世界だ。

 故にミーリの両親もユキナの両親も、自分達の子供を育てるときは自分達の親に追い出され、子供達が言葉を覚えて泣かなくなるくらいになってようやく戻ることを許されたという。

 最高位貴族の生活は、決して人が夢見るような華やかな生活ではない。国務に人生の九割を捧げなければならない、苦行だ。

 華やかに生きられるのは、位のついていない平民貴族か隠居した王族だろう。最高位貴族に隠居はない。死ぬまで働くことを命じられるのだから。

 そんな運命を背負った若き時期頭首二人に命じられたのは、子供を作ること。そうしなければ、やがて軍に入隊させられてしまう。

 一度入隊してしまうと、それこそ戦闘不能かつ生活不可能な大怪我をしないといけない。無論、国務など不可能なほどの大怪我だ。それでは両親にとっては意味がないし、本人らも報われない。

 ――のだが、生憎と二人のいわゆる妊活は困難を極めていた。

 今まで交わった数は、ユキナが一八になってから現在までおよそ百回を超えた。週に三度はしている計算だ。いわゆる危険日にも、当然やった。

 だができなかった。

 どれだけ生殖行為を繰り返しても、どれだけ愛の結晶を注ぎ込んでも、危険日にやったって一度たりともできなかった。今でも排卵誘発剤などを飲んでいるが、まったくもって効果がない。

 もしかして二人の体に異常があるのかとも思ったが、医者に相談したところで、妊娠はまだ早すぎると言われるのがオチだろう。だから相談できなかった。

 この日も翌朝、ユキナは妊娠を確認する。だが結局妊娠はできておらず、朝から落胆する結果となった。

 昨晩の営みで濡れたシャツを脱ぎ捨て、ミーリは新しい白いシャツに着替える。そしていつも羽織っている青い上着を、肩に羽織った。

「それ、たまには洗濯した方がいいんじゃない?」

「でもこれないと、外出るとき落ち着けないんだよねぇ」

 ミーリが普段から羽織っている青い上着は、ウートガルド家の頭首と次期頭首のみが着ることを許された――だなんてそんなかしこまったものではない。

 ミーリの父が羽織っていたのをミーリが気に入り、欲しいと言ったらくれたものである。真似をして肩から羽織っているのは、特別父に憧れているからではないのだが。

「明日休みだし、外出ないでしょう? 洗ってあげる」

「そう? じゃ、そうしよっかな」

 二人は現在、学園の寮に住んでいる。

 人間と神霊武装ティア・フォリマのコンビで一人として、最大二人まで一部屋で住めるのだが、そこまで大部屋というわけでもない。部屋がいくつか分かれているくらいだ。それでも充分だが。

 ミーリとユキナが使っているのは寮の中でも一番大きく、また部屋の多い場所だ。2LDK、といえばわかるか。

 その中でも私室は二つあり、一つはミーリとユキナ、二人の部屋。そしてもう一つはロンゴミアントの部屋だ。

 普通は神霊武装とそのパートナーが同じ部屋を使うものだが、許婚いいなずけと一緒だとこうなる。

 故にミーリのパートナーであるロンゴミアントは、一人寂しく――だが同じ神霊武装らから見れば実に羨ましく、一人部屋を堪能させてもらっていた。

「ロン? 起きてる?」

 ミーリが扉をノックする。するととても眠たそうにあくびをするロンゴミアントが出てきて、ミーリの額を指先で軽く押した。

「起きてるも何も、隣であんなに喘いでちゃ寝れないわよ。お陰で再来週提出のレポートがまとまったわ。お盛んなのはいいけど、寮の壁薄いんだから、気をつけてよね?」

「あぁぁ・・・・・・やっぱり? いや、聞こえてるかなぁとか思ったんだけどね? やめるのもできないからさぁ」

 ロンゴミアントは二人の事情を知っている。

 パートナーになったばかりのときに、ミーリが話したのだ。故に二人の気苦労もわかっているのだが、言ったとおり最低でも週三で喘いでいるので、少々寝不足が続いている。

 睡眠時間なら二人も同じだが、本人らは行為終了と共に力尽きるので、グッスリと深い眠りに誘われ、それに甘んじて沈んでいた。故によく寝れている。

 故に寝不足なのはロンゴミアントだけなのだが、事情を知っているが故に文句を言わず、まぁそうねとだけ告げてその話題を終了した。

「それよりミーリ、今朝メールが来てたわ」

「メール? なんだかヤな予感するなぁ・・・・・・」

 そう言って、メールや電話、他多数のアプリやゲームも入れられる携帯生徒証を手渡される。

 そこには二通のメールがあって、一つは生徒会長から、もう一つは友達からのものだった。だが内容は、ほとんど同じである。

「七騎集会、今日やるって」

「また? 先週もやらなかった? まぁあなたはサボったけど・・・・・・集会の内容は?」

「先々月から出てた通り魔について、だって。何かわかったのかな・・・・・・警察もまだ何もわかってないはずだけどね」

「神の類かしら」

「かもしれない。だったらヤだなぁ・・・・・・伝説の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーの相手だなんて」

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