第10話 目指せランクE

【5月24日 / 3月8日(水) 21:35】


 目覚めて早々、布団の中で賢者モードに移行。


 人の欲望とはなんぞや。


 食欲・睡眠欲・性欲という人間の三大欲求という単語が有名だが、そんなのは日本人だけが提示している浮気正当化理論に過ぎない。

 かつてフロイト先生が汎性欲論の中で仰られた“様々な欲求や衝動の根源は性的エネルギーである”との説は、愛弟子にすら受け入れられていない。欲求は段階的に整理され、根源的欲求とされる生存にかかわる食欲や呼吸・睡眠・排泄などの方に重きを置くのが主流である。


 だが、俺の考え方は少し違う。


 自己の充足よりも、他者の欲求充足、及びその結果としての自己の充足を追求してしまう。例えば、自分自身が強くなりたいとか、裕福になりたいとか、有名になりたいとか、ハーレム王になりたいとか……そんな願望はない。そんなのは面倒臭いだけだ。何だろう、既に惰性で人生を送っているからだろうか。

 断食しろ、呼吸するなと言われると酷だが、そもそもそれらを欲求とは定義していない。ただ、去勢するぞというのは待ってくれ。



 いつの間にか布団の中でもぞもぞ動き始めた4人……昨晩、何が起きたのか思い出そうとすると朝の勢いも手伝って、意識が一点に集中してしまう。

 旅の恥は掻き捨てなんて言い訳はしたくもないが、記憶がぶっ飛んでいて定かではないが……寝る前に飲んだ水に何かを盛られたんじゃないかと思うぞ。 



『ハルキさん、おはようございます……』

「おはよう……」


 フリーダさん、服は着てくださいよ……。それと、顔を赤くして内股で走り去るリリィとマリーさん、俺の腕にしがみ付いて離れないフー。シーツに残る赤い染み……もうこれは言い訳すら出来ない状況だな。青少年保護条例なるものがこの世界にあるなら、俺の人生は完全に詰んでいるわ。まさか異世界で魔法使いの資格を失うことになるとは……。


 よし、覚悟を決めたぞ!




 ★☆★




「俺は君たち4人を、責任を持って養う。君たちが望むなら結婚してもいい」


 確か、結婚しちゃえば罪に問われない場合があるらしいからな。それにしても、俺の鉄壁の理性はどこに逝ったんだ。


 朝食の場で高らかに宣言した俺。


 しばらく流れる沈黙の時間……。


 自意識過剰による勘違いだったら、それこそギャグで済ませよう、そう思っていたけど……。



『はい! 幸せにしてください!』

『嬉しい! 子どもたくさん欲しい!』

『やったぁ! 結婚式はいつ?』

『うん、養われる……』


 歓喜に泣き崩れるマリーさん、大胆発言するフリーダさん、ちびっ子たちも笑顔で抱き合っているけど、君たちはさすがに結婚出来る年齢じゃないだろ。


「結婚式か……Dランク昇格と同時に盛大に行うか」

『『はいっ!』』


 うわぁ、激流に流されていく俺。こうなったらトコトン育成してやる!


「俺たちはもう運命共同体だ。Dランクを目指す為にも、クエスト以外にやるべきことがある!」


 熱い眼差しで見つめてくる女性陣に、俺は今後の育成プランを付きつけた。


 6:00 起床

 6:00~7:30 修行

 8:00 朝食

 9:00~17:00 クエスト

 18:00 夕食

 19:00~21:00 学習

 22:00~24:00 自由

 24:00~6:00 睡眠


 この世界は1日26時間だ。いざスケジュールを組んでみると、地球との2時間差がかなり大きいことに気付いた。6~24時までがっつり組んでも、8時間も寝ることが出来るなんて凄いことだと思う。


 因みに、“修行”というのは、Dランクの討伐クエ対策を念頭に置いている。ジョギングや剣の素振り、簡単な模擬戦なんかを想定している。そのうち剣術の講師を雇う予定だ。“学習”は、交代制で講師をしながらの座学で、俺が算術、リリィが地理・歴史、フーが魔法担当の予定だ。そのうち外国語の講師を探してこよう。“自由”というのは……まぁ、あれだ。各自やりたいことをする時間だ。俺は魔道具を作ったりしたいんだが……。




 ★☆★




 朝食後、俺たちはギルドに向かった。

 昨日の貴族絡みのゴタゴタについても、ギルドがうまく処理をしてくれたようで問題なさそうだ。今後は極力目立たないようにしよう……。


 体力作りも兼ねて、朝は薬草採集、昼は荷物運び、午後は庭掃除という地味なFクエを3つ受理し、無難に終わらせた。


 今日の学習時間は、俺の算術だ。目標は、全5回で四則計算をマスターさせること。勿論、分数や小数も含める。その第1回として、整数の四則計算の基礎と、足し算と引き算の筆算、掛け算九九を教えた。掛け算九九は、次回(3日後の27日)までの宿題にしておく。


 自由時間は、自由にならず、歳の順ということで、マリーさんの相手をすることになった。昨晩はいろいろ謎過ぎるんだ。俺の心は今でもチェリーボーイさ。鉄壁の理性を発揮し、添い寝だけに留めた。とても柔らかくて気持ち良かった。




【5月25日 / 3月8日(水) 21:35】


 修行初日ということで、体操とストレッチ、ジョギングを30分して、また体操とストレッチ。まずは基礎体力作りだ。

 クエストは、昨日同様にFクエを3つ。毒草除去と薬草採集、引越手伝いの荷物運びを行った。

 学習時間は、リリィ先生の地理の授業だった。“周辺国家の現況と有力な貴族について”……中世ヨーロッパ史より難しい。

 自由時間は、魔道具で婚約指輪を5つ作成した。皆の要望を聞き、銀と宝石を組み合わせてそれぞれに“治癒魔法/初級”と“食物超吸収”の魔法を組み込んだ。因みに、治癒魔法はなぜか1回使うごとにクールタイムが10分間あった。連続使用が出来ないのは不安が残る。でも、骨折未満を瞬間的に治癒出来るのは大きいかも。

 宝石は、それぞれの髪色に合わせてセレクトし、マリーさんには赤いルビー、フリーダさんには水色のアクアマリン、リリィには金色のタイガーズ・アイ、フーには銀色のダイヤモンドを使用。自分用には安いブラックダイヤモンド……。

 その後、フリーダさんと朝まで添い寝。凄く良い匂いがした。




【5月26日 / 3月8日(水) 21:35】


 今日は天気が良かったので、いつもより30分早く起床し、昨日と同じルーティーンを行う。その後、30分ほど木刀で素振り。こんなので腕力が付くのか分からないけど。

 クエストは、F12薬草採集とF8害虫駆除、E5ギルド食堂の店員をした。この害虫駆除が意外と厄介だった。果樹園に巣食う芋虫や蜂の退治が主だけど、クモが一杯いて最悪だった。俺はクモだけは苦手なんだよ……。絶対に二度と受けない。

 今日の学習時間は、フー先生の魔法講座だ。彼女なりに調べて勉強して来たらしい。火と水、風と土、雷と金属、光と闇の4対立8属性魔法理論の概要を説明してくれた。地図の八方位に当て嵌めると、北の光から時計回りに、北東が土、東が水、南東が金属、南が闇、南西が風、西が火、北西が雷となっているらしい。簡単に言うと、点対称の位置にある属性は互いに効果抜群で、隣り合う属性は効果がイマイチらしい。手のひらに書いて覚えておかないと。

 自由時間は、フーと一緒にお風呂に入った。エルフっていろいろとヤバイ。幸せすぎて今すぐ死んでもいいかもなんて思ってしまった。




【5月27日 / 3月8日(水) 21:35】


 大雨の為、ジョギングとクエストを休む。折角なので、雨具を装備して朝からヘルゼの町を散策した。


 雨天の為か、店が過疎っていた。食材の購入や、魔道具の素材になりそうな物を探し、第2外壁の外、平民街を練り歩く。雨の中わざわざ足を運んでくれたからと、値引きまでしてくれる親切さ……日本でも雨の日割引ってあったな、と思い出す。


 4人が俺を引っ張るように進むその先、目に入ったのが……奴隷市場。入口から見る限り、テントを張った広場の中に、複数の奴隷商人が店を出しているようだ。嫌な思い出があるので早く立ち去りたいのかと思ったが、逆だった。自分たちと同じように辛い思いをしている人がいたら助けたいと思ったらしい。

 チームを作るなら、野球かサッカーが出来るくらいがちょうど良いかもしれないと思うが、正直、お金が足りそうもない。ちょこちょこ使っているので、残金は金貨45枚とちょっとしかない。皆で相談した結果、取り敢えず中に入ることになった。


 徐(おもむろ)に足を踏み入れたそこは、地獄絵図だった。

 鉄の牢獄内に閉じ込められた奴隷、柱に裸で縛られた奴隷、手足が欠けて思うように身動きが取れない奴隷……それを、鞭を持った奴隷商人が大安売りと叫びながら売り捌いていく。聞いた話によると、この奴隷市場で売られるのは戦争奴隷や元盗賊などの犯罪奴隷らしい。確かに、10代後半から40代までの男性が目立つ。


 フリーダさんに引っ張られていく先、牢獄の中に、服を着せられた金髪の青年が居た。20歳くらいだろうか、凛々しいイケメン。場違い感を猛烈に出している。


『そこの可愛い女の子! 僕を買ってくれないか? きっと満足させられる!』

『ハルキさん、お願いします』

 フリーダさんに猛烈に言い寄るイケメンに近づき、フリーダさんが懇願する。いや、フリーダさんだけではなかった。全員が相談して俺にお願いしてきたようだ。嫉妬というか、少し寂しい気分になる。古今東西問わず、やはり“顔は剣よりもペンよりも強し”だ。


「分かった。店主、この人を……」

『いえ、その隣の子です! 白髪の子』


 よく見ると、同じ牢獄の中、金髪イケメンの横にちょこんと体育座りをした白髪の少年が居た。中学生……いや、もっと若いか。俯いていてよく見えないが、この少年もイケメンだ。


「店主、その白髪の少年を買います」


 汚物の匂いだけでなく、憎悪や邪気で澱んだ空気に嫌悪感を抱く。契約書に目を通すことすらせず、その少年を金貨1枚と銀貨2枚で買い、すぐに奴隷市場を出た。その後、豪雨の中を走って帰宅した。


 少年は終始無言だった。


 彼がマリーさんに引き摺られるようにしてお風呂場に連れ去られたとき、俺のピュアハートに再び嫉妬の感情が沸き立つ。結婚宣言をした数日後、イケメンと一緒にお風呂に入るとか……この世界の性事情ってのは、こんなにも軽いのか。


 しかし、それが勘違いだと思い知らされたのは、白髪の少年がスカートを穿かされて脱衣所から出て来たときだ。


「えっ……」

『やっぱりハルキさん気付いてなかったんですね』

『ヤキモチ妬いてくれた?』


 だって……奴隷とは言え、男女を一緒の牢には入れないでしょ。それに、髪が短くて……あれ? よく見ると、耳が……あと、尻尾がある?


『ごあいさつ、遅れてすみません。ボクは、ぎんこ人族のポワンと言います。ご主人様、よろしくお願いします』

「え、あ……ポワン君? ちゃん? ハルキです。こちらこそ宜しくね」


 忠犬ゲーリックとは全然違った。両耳を垂らしていたら、間近で見ても何ら人間と区別が付かない。それに、ボクっ娘やボーイッシュな髪に騙されていたけど、あまりにも可愛い顔に見惚れて凄く緊張してしまった。美少女なんてレベルじゃない。超絶級だ……。


 その後、昼食を食べながら徐々に打ち解けてきたポワンちゃんから、奴隷になった経緯を聞くことが出来た。

 それによると、彼女の出身地は日本で言う東北地方の小村らしく、戦争奴隷として北東のゴリアス王国に連れて来られる途中、盗賊の襲撃に遭い、ヘルゼの奴隷商人に売られたという。短い髪と未発達な胸のお陰で疑いもなく男性扱いされたらしい。


「ポワンちゃん、故郷に帰りたい?」

『……もう戦争はイヤです。村はもうありませんし。パンナ王国は平和だと聞きました。ここに居させてください……』


 俺の脳裏には中東での戦禍の映像が映っていた。故郷を飛び出してきた戦争難民の気持ちかもしれない。求めるのはひたすらの平和なのだろう。俺がしばらく黙っていると、拒否されたと思ったのか、ポワンちゃんが自己アピールを始めた……。


『さっきマリー様から、ご主人様が冒険者だと聞きました。ボクは兵士ではありませんが、多少の心得はあります!』


 槍術と体術か。華奢な身体を精一杯動かしながら、舞うような演舞を見せてくれた。スカートがチラチラ捲れて心臓に悪い。そして、女性陣の視線が怖い。


「わ、分かったから。今から冒険者登録をしに行こう」



 俺はポワンと2人で冒険者ギルドに走り、早速登録をした。


【name:ポワン・ヒメネス】

 14歳/女性/銀孤人族/148-37

 筋肉力:33

 生命力:36

 瞬発力:72

 技術力:68

 知識力:45

 精神力:60

 魅惑力:90

 包容力:82

 適応力:77

 魔才能:76


 14歳か……ちょっと念願の前衛っぽい。平均が63.9もある。それに魔才能が76だ。下級魔法まで使えるのは凄い。

 それに、元貴族のリリィは置いといて、フーもそうだけどセカンドネームがあるのはどうしてだろう。由緒正しい血統なのかな。

 本人と相談した結果、Eランクに昇格したら奴隷から解放することに決まった。報酬は均等割するけど、それまではごめん。


 因みに、俺のステータスも測定してもらった。


【name:チバ・ハルキ】

 25歳/男性/人間族/176-61

 筋肉力:38

 生命力:44

 瞬発力:37

 技術力:45

 知識力:93

 精神力:70

 魅惑力:92

 包容力:75

 適応力:82

 魔才能:99


 この歳になって身長が1cm伸びたよ。運動しているせいで体重も2kg軽くなったし。そして、肝心のステータスも変化していた!

 筋力+1、生命力+2、瞬発力+2、魅惑力+1、包容力-2

 って、包容力が下がってるし。包容力って“心の優しさや正義感”だったはず。悪者をやっつけたのに下がるとか、意味が分からないぞ。

 でも、鍛えれば成長するということが分かったのは大きい! これは鍛え甲斐があるな、俺自身じゃなくてハルキノヨメたちを!


 帰宅後、空き部屋をポワンちゃん用にし、マリーさんたちに屋敷の説明や毎日のルーティーン、目標やらを説明してもらった。女性4人も元奴隷ということで、短時間で仲良くなれたようだ。女子会が大いに盛り上がり、今日の学習時間がカットになった……。


 俺はと言うと、1人寂しくポワンちゃん用の指輪作りだ。婚約指輪じゃないけど、1人だけ持っていないのは可哀想だからね。髪の色に合わせて白いムーンストーンを使う。“治癒魔法/初級”と“食物超吸収”の魔法を組み込んで、よし完成だ。


 そして、今日の添い寝はリリィ様かと思いきや、何故かポワンちゃんが来た……いつの間に嫁枠なんだよ?

 まぁ、折角だから耳と尻尾をたっぷりとモフモフさせてもらった。何だろう、このとてつもない背徳感は……。




【5月28日 / 3月8日(水) 21:35】


 ジョギングで身体を温めた後、ポワン先生を相手に稽古をした。正直言って、強かった……。同じ木刀なのに、俺の剣筋は全て読まれて受け流される。2人掛かりでも勝てず、3人掛かりでやっと互角。大人の男として、ガツンと心にダメージを受けた。

 クエストは、お決まりの薬草採集を消化し、E5の食堂クエだ。案の定、凄い繁盛振りだった。俺たちが食堂クエを受けた日は決まって客足が2倍くらいになるらしいが、今日は3倍にまで増えていた。原因がポワンちゃんなのか、昨日の雨なのかは不明だ……。

 今日は掛け算九九のテストをした。予告してあったにもかかわらず、全員が不合格。マリーさん54点/81点、フリーダさん65点/81点、リリィ58点/81点、フー37点/81点、可哀想だけどポワンちゃん3点/81点。焦らず、足し算と引き算を絡めながら何度も音読させて、再度宿題に出した。あまり言いたくないけど、「掛け算九九は8歳児でも分かるんだ。次回のテストで満点取れなかった場合は、婚約を解消するしかない……お馬鹿さんとは結婚したくないからね!」と言い切っておいた。3日後の6月1日に何かが起きるかも……。

 自由時間になると、リリィが水着を着て俺の部屋にやってきた。一緒にお風呂に入ったことをフーに聞いたのか……でも、まさか裸とは思ってなかったらしい。俺も水着を着て一緒にお風呂に入り、朝まで添い寝をした。よし、とっても健全だ!




【5月29日 / 3月8日(水) 21:35】


 今日は朝から大雨が降り続いている。

 ポワンちゃんは、皆よりFクエ20回分も遅れている為、1人でもクエストを受けたいと言い張ったが、却下した。食事、お風呂、服が彼女の魅力を蘇らせてしまったらしい……もう二度と男の子と間違えられることはないだろうな。

 今日は室内で一日中、ポワン師範に剣術を型から教わることになった。魔法と同じように、各武術にも初級・中級・上級がそれぞれがさらに3段階に分かれていて、その上に超級があるらしい(全10段階)。例えば、初級1から2、3と上がり、その上が中級1だそうだ。因みに、その区分は公式道場での過酷な認定試験を通じて決められるそうだ。中級が一人前、上級が達人の域らしい。

 ポワンちゃんの村には槍術中級3、剣術と体術が中級2の元冒険者がいて、毎日希望者を鍛えてくれたんだとか。ポワンちゃんは、槍術が推定中級1、剣術が推定初級3、体術は推定初級2と言われているそうだ。強い訳だ。よし、ポワンちゃんを何とか上級に育てよう……。

 夕食後はリリィ先生の地理の時間だ。今日は主要な街道や都市を学んだ。千葉県西部から東京都、埼玉県、神奈川県を含めたギリアス帝国の帝都から、江戸時代の五街道のような感じで整備されているようだ。ただし、国境は厳重に警備されているらしい。

 今夜は一周回ってマリーさんの登場だ。猛烈に誘惑されたが、お互いに全身筋肉痛の為、気付いたら熟睡していた……。




【5月30日 / 3月8日(水) 21:35】


 朝の修行が充実してきた気がする。受けの型、攻めの型、コンビネーション……身体が最短距離で勝手に反応するようになってきた。でも……今は木刀だから良いが、真剣を振るのはさすがに怖い。盗賊相手でも本気で斬りかかるのは精神的に無理だろう。俺作の護身棒を増産する必要がありそうだ。

 クエは毎度お馴染みの毒草・薬草・食堂のコンボだ。フーが居るから何気に効率が良い。

 学習時間はフー先生の魔法授業だ。マジックリングや習熟度、魔法陣についての説明をしてもらった。半分は俺が教えたことなんだけど、フーが調べてきたことで興味深い情報が1つあった。それは、マジックリングは僅か3年前に生まれた魔道具だということ。それまでは、古代の魔道具や難解な魔法陣でのみ魔法が使えたそうだ。新たなマジックリングを自作することが出来れば便利なんだけどな。

 自由時間はフリーダさんがやって来た。最近習ったばかりの体術試合で盛り上がっていくうちに、勢い余って押し倒した瞬間、唇が重なってしまった。完全に事故なんだけど、フリーダさんのやる気スイッチが入ってしまい、大変だった……。




【6月1日 / 3月8日(水) 21:35】


 ギルド登録から今日で10日目。

 朝の修行を終えた後、今日は、いつもと違うクエを受けてみようということで、F10鉱物発掘とE8地下道調査を受理した。鉱物と言っても、川底にある砂金の収集だ。全員で真面目に頑張って3時間で終えた。もう1つの地下道調査は、ヘルゼの地下にある上下水道の定期調査だった。ここもクモだらけだったので二度とやらない。その2つをクリアして、通算で33クエになった(Fクエ15回、Eクエ6回)。あと17クエでEランク昇格だ。

 そして恐怖の掛け算九九テストの瞬間が来た。あれだけ脅したのが功を奏したようで、ポワンちゃんも含めて全員が満点だった。ご褒美コールが鳴り止まなかったが、小学1年生でも出来る掛け算九九程度でご褒美は上げられない。その後、足し算と引き算の筆算を見事に忘れていた全員にお灸を据えた後、掛け算の筆算を教えておいた。次回は2桁×2桁までの掛け算の筆算テストだ。

 今夜はポワンちゃんが来た。尻尾でたくさん遊ばせてもらった。狐の尻尾って、どうしてこんなにふわふわと上品なんだろう。50cmくらいの長さで、ちょうど両手で包み込めるくらいの太さがある。頬をビンタされるととても快感だ。何度か掴むのに失敗してお尻を触ってしまったけど、明らかな事故だ。結局、あまりにも気持ち良すぎて首に巻いて寝たけど、頭の下にお尻があったのも事故だと思う。




【6月2日 / 3月8日(水) 21:35】


 今日もいつも通りに朝の修行を終えて冒険者ギルドに向かった。

 受付のお兄さんから、E5の食堂クエを3回分受けてほしいと懇願された。このクエ、1人だと10時間、5人だと2時間、6人だと1時間40分だ。それを3回分だから、1人5時間労働……それでEクエ3回分の、つまりEクエはFクエ3回分だから、9クエ換算というのは大きい。俺たちは二つ返事で了承した。


 たかが5時間労働だと甘く見すぎていた自分がいた。この5時間で、通常運転の1日分の5倍にも及ぶ客が訪れるとは思ってもみなかったよ。お陰で1人銅貨5枚の報酬が貰えたんだけど。

 凡人の俺は置いておいて、平均90に迫る魅惑力女子……まさかここまでとは。でも、セクハラトラブルが起きなくて安心した。恐らく、ギルド側が相当強く釘を刺していたんだと思う。


 そして、食堂で夕食を食べ終えて帰宅する途中、俺たちは路上で倒れている少年と遭遇した……。

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