第8話 誰も言わない
私は頭が悪いので、相手がバカだと思うと「バカ」と言ってしまいます。
頭のいい人はうまくかわし、距離を置き、自分の品位をおとさない。
そうなりたいと常々思っているのですが、なかなかうまくはいかないもので。
それでも、そんな私でさえも、相手に直に言わないこともあります。
それは年をとって丸くなったからとかでなくて、二度と近づきたくないからです。
例)その1
即売会で、ある人があなたの同人誌を買ったとする。
感想をくれたりする。
あなたはお礼を言う。
次にその人がやってきて、スペースの前を無言でウロウロしている。
どうしたのかと思っていると、「みんな素敵な本で迷ってしまいますが、今日はお金がなくて」という。
私ならこの時、なんと返事をするかというと、
「それではまた、余裕のある時にいらしてください」
あげないよ。
あなたが友達で、しょっちゅう自作の本を交換してるとかいうならともかく、あなた、私のなんでもないんだからさ。
それからね、私、あなたのスペースに、二度と買い物に行かないよ。
……という台詞は、さすがの私でも言いません。面と向かってはね。
例)その2
知っている人が即売会で本を出すよと声をかけてくれたので、そこにいく人にお使いを頼んで、買ってきてもらいました。
小説は不慣れらしく、本文はワードの注釈機能が残ったまま、誤字脱字だらけ。それはともかく、詩集・歌集でもないのに、ページあたり5行ぐらいしかありません。そしてその本には、原価の4倍以上と思われる値段がついてました。自分で手にとっていたら、絶対に買わなかったでしょう。
その時、私は相手に何も言いません。
でも、二度とその人の本を買わないでしょう。
というか、知人としてももう、近づかない。
例)その3
即売会で本を買っていった人が名刺をおいていったので、後でその人のスペースにいき、何か買おうと思いました。
おすすめの本には1000円の値段がついていたので、「これをください」といったら「三冊セットで3000円です」といわれました。その脇に、500円と600円の値札がついた本があります。「これは?」といったら「1100円です」といわれます。「続き物なんですか?」「いいえ」「バラで買えないんですか」「買えます」「じゃあ500円の本をください」
その後、相手は、薄笑いながら「値札がわかりにくくてすみません」。
その笑顔、常習的にこういう展示をしていて、人のいい人に3000円を払わせているということがまるわかりです。
500円の本を買っていった人は、あなたの本を読まないでしょう。
こんな売り方をするような人の話が、おもしろいわけがない。
二度とあなたに近寄らないどころか、陰で、知人たちに「あの人は要注意だよ」とひろめることでしょう。
私も面と向かって「それってぼったくりっていうんだよ」とはいわないですからね。
もし本が売りたい、本が読みたいというなら、努力の方向が間違っていると思うのです。損をするばかりです。しかし、たぶん、こういう人たちは、自分が人から明らかに嫌われることをしているとわかっていないのでしょう。もしかしたら、仕事場でもそうなのかもしれない。
その場合、何か言っても、完全にむだですよね。
そういう生き方なんだから。
何か言ったら攻撃してくるかもしれませんし。
誰からも何も言われないって、ある意味ラクなのかもしれませんが。
あなたはなんのために、そこでスペースを借りて、自分の書いたものを売ってるんですか?
って、誰も、言わないんだろうな……。
即売会に限ったことではないけれども。
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