林間学校⑦
「渡辺くん!いや優斗くん!私は入学式で知り合って以来、ずっとあなたのことが大好きです!世界中の誰よりも愛しています!よかったら付き合ってください!」
私は平野先生に乗せられた形で渡辺くんに告白した。確かに私は渡辺くんに好意を抱いている。同郷で実家も数キロしか離れてないらしい。林間学校で同じ班になれて嬉しかった。少し不本意な形での告白だが、私が渡辺くんに告白したのは間違いない。
「ありがとう。でも相川、これ以上はやめろ!お前はアイドルだろ!しかも現在、第一線で活躍しているアイドル。アイドルといえば夢を売る職業だろ!仮に今、俺と付き合っているのがバレたらどうなるか。自分から身を滅ぼすつもりか?とりあえず今はダメだ!」
私はフラれたのだろうか?しかし今はダメだと言われただけだ。しかし、渡辺くんの言うことは一理ある。
アイドルといえば夢を売る職業だ。仮に今、私と渡辺くんが付き合っているのがバレたらどうなるのか。私、相川真奈は昨年紅白にも出た「赤坂ガールズ」のメンバーだ。それも中心メンバーに抜擢されるほどの位置で、3月には中学卒業記念の写真集を出した。水着デビューもした。そして5月発売の新曲ではセンターを務める。つまり、私は今それだけの位置にいる。
もし付き合っているのがバレたら炎上は必至、ワイドショーで袋叩きに遭うだろう。他のメンバーにも迷惑をかけてしまう。そして何よりもオーディションに合格した中1の夏から、3年近くの努力が無駄になってしまう。名古屋からわざわざ通っていた中学時代は何だったのか?何のために東京に来たのか?
渡辺くんはあの告白の返事をするためか、急に立ち上がった。渡辺くんは男湯に柵があったせいか顔しか見れなかったけど、この姿勢を取ったら女湯が丸見えだ。私の裸も見たのだろうか?さすがに見られたら恥ずかしい。しかしその後、のぼせたのか渡辺くんは気を失い、女湯に落ちてしまった。
渡辺くんは平野先生と山口先生がタイミングよくキャッチしたため幸い無傷だった。しかし故意ではないとはいえ、女湯に全裸の男が入ってしまった。生徒は半分パニック状態。私以外みんな内湯に行ったか部屋に戻ってしまった。幸い女湯には学校関係者しかいなかったので、平野先生がタオルで渡辺くんの身体を覆い、山口先生が渡辺くんの着替えを用意するために急いで男湯へ向かった。
約10分後、山口先生が男湯から露天風呂に戻ってきた。渡辺くんは平野先生と山口先生に抱えられて更衣室に運ばれた。これから着替えをさせて部屋に運ぶらしい。渡辺くんの着替えを済ませるまで生徒は大浴場から上がってはいけないと言われた。
15分後、平野先生と山口先生がやって来た。着替えが終わったらしい。
「相川さん、私と山口先生と一緒に渡辺くんを部屋まで運んで。あなたが責任者よ。女2人では力不足だから・・・」
私は平野先生にそう告げられると急いで着替えを行い、平野先生と山口先生とともに渡辺くんを部屋まで運んだ。
部屋に入ると、私と平野先生と山口先生は渡辺くんを布団まで運んだ。そして、
「今日の班長会議と点呼は中止だって渡辺くんに伝えて」
平野先生は私にこう告げて山口先生とともに自分の部屋に戻った。時刻はもう9時半だ。普通なら班長会議が始まる時間だ。ほどなくして裕奈からLINEが届いた。6班の他4人は着替えを済ませた後、直で土産物を買うらしい。部屋に戻るのは10時を過ぎるらしい。そして最後には、「優斗を大切にしてね!」と書かれていた。
ほどなくして渡辺くんは目を覚ました。
「・・・何で俺部屋にいるんだ?」
渡辺くんはこう私に話しかけた。
「そういえば風呂で、あっ・・・」
渡辺くんは赤面した。
「思い出さなくていいよ!」
私もうっかり見た渡辺くんの全裸を思い出し赤面する。
「・・・相川さんしかいないな。他の4人はどこにいるの?」
「裕奈たちなら今、土産物を買ってるって。あと30分は戻ってこないよ」
「そうか・・・で、班長会議はどうなった?」
「中止だって。点呼もないよ」
「すまない。俺、相川さんどころかクラス全員に迷惑をかけたみたいだな」
「いや、みんな迷惑をかけたなんて言ってないよ!」
「相川さん、本当に俺でいいのかな?お前のような人気アイドルに釣り合う人なんてそうそう・・・」
淡々と続く渡辺くんとの会話。そうだ、これは神様が30分間だ。今渡辺くんに話したいことを話したいだけ話すしかない!
「渡辺くん・・・いや優斗、これから大切な話があるの。2人にしか言えない話」
私は渡辺くんに顔を近づけ話しかけた。
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