エピローグ

第12話 エピローグ 一 マイ

舞がプレゼントのひもを解くと、そこには大量の、印刷されたコピー用紙が入っていた。

『何これ?何かの原稿かな?』

そう思った舞は、とりあえず、その原稿のようなものを、読んでみることにした。


 ―舞へ

 プレゼント、開けてくれてありがとう。ちょっと、意外なものが入ってたんじゃないかな?

 実はこれ、僕が舞のために、初めて書いたラブストーリーなんだ。

僕は今まで、「怪盗ジョルジュ」シリーズしか書いたことがなかったから、うまく書けているかどうかは分かんないけど、とりあえず、最後まで読んでくれたら嬉しいな。

あと、評価は、お手柔らかにお願いします!

ちなみに、タイトルは、「マイ」にしました!―


『わあ、私の名前だ!』

舞はタイトルのくだりを読み、そう思った。


 ―ちなみに、僕、今回はペンネームを考えたんだ。

 そのペンネームは、「孝介」だよ!―


 『孝介、か。何か翔太っぽくないな。』

舞は1人で笑いながら、その小説を、読むことにした。


 ―マイ

 第一章 出会い

「ああ、楽しい時間も、もう終わりか…。また、2人で旅行に行きたいね、健吾!」

「そうだね、麻衣!」―


 『この小説は、いきなり台詞から入るパターンか。今までの『怪盗ジョルジュ』にはない感じだな。』

舞は少し批評家目線になりながら、心の中でそう呟いた。

『あと、主人公の名前は…健吾と、麻衣!?また、私とおんなじ名前だ!…漢字は違うけど。』

舞はそう思い、続きを読んだ。


 ―「ところで、健吾は今回の旅行、どこが1番良かった?」

「そうだな…。やっぱ、パリのエッフェル塔とルーブル美術館、それに、凱旋門かな?」

「え~やっぱりフランス?私は、ロンドンのビッグベンや、大英博物館の方が良かったよ~。」


 『なるほど。この2人は、フランスとイギリスに行ったのかな?それにしてもフランス旅行って、翔太らしいな。…あっ、今は、孝介先生か。』

 舞は、とりあえず翔太のことを、孝介先生と呼ぶことにした。


 ―麻衣は、背が高く、誰からも美人と思われるようなルックスであった。そして、大学に入ってからダークブラウンに染めた髪も綺麗で、すぐに、大学のマドンナ的存在となった。―


 『何か、麻衣ちゃんって私の憧れの、女の子っぽい…。背が高くて、美人で…。

 翔太、いや孝介先生は、そこまで考えて、書いたんだろうか?

 いや、きっとそうだ。』


 ―一方の健吾は、背もそんなに高くなく、見た目もそんなにかっこいいとは言えないが、優しそうな性格が見た目からにじみ出ており、その性格から、学内で健吾のことを慕う人も、すぐに増えた。―


『これは、孝介先生の雰囲気、そのまんまだな。』

舞は、そう思った。


 ―また、健吾は学内でもどちらかというと優秀な方で、特に英語のスキルは学内1番ではないか、と言われるほどのものであった。


 『でもこれは、どちらかというと、孝介先生の願望かな?だって孝介先生は、英語、全然ダメだもん。』

舞はそう心の中で呟いて、1人で笑った。

 そして舞は、翔太の小説を、読み進めた。『健吾くんの告白の仕方、まるで私と孝介先生みたい!』

『へえ~。小説の中では、健吾くんが麻衣ちゃんに、英語を教えているのか。私たちと逆だな。』

『麻衣ちゃんって、ピアノが得意なんだな。』

舞は読み進めていくうちに、様々な感想を持った。

 また、

『小説の中の麻衣ちゃんって、背が高くて美人、なだけじゃなくて、ピアノも得意だし、それに、話し方が私の理想っていうか、何ていうか…。

 とにかく私、麻衣ちゃんに憧れちゃう!

 私、生まれ変わったら、麻衣ちゃんのようになりたいな。』

という気持ちを、舞は持った。

 そして、麻衣の元に、差出人不明の手紙が届いた時、舞の方も、びっくりした。


 ―親愛なる舞へ

 今日は楽しく過ごせたかな?僕のプレゼントが、楽しいひと時の一助になれば、幸いです。

 今日は、このくらいにしておきます。

 あと、最近僕、詩を書き始めたんだ。

タイトルは

『鳩と平和』だよ!

またね!

 孝介より―


 『ちょっと、これはやりすぎじゃない?麻衣ちゃんも、いきなりの孝介先生からの手紙に、びっくりしてるし…。

 まあ、小説の中で私への手紙を書いてくれることは、嬉しいけど…。

 あと、孝介先生が、詩?

…何か、ピンと来ないな。』

 舞は、詩について疑問に思いながらも、次の章を読み始めた。


 ―第二章 相川グループ―

そこには、麻衣が新しいバイト先のレストランで、働き始めたことが、書かれてあった。

『私も、こんなレストランがあったら、行ってみたいなあ…。』

これが、舞の素直な感想であった。

 また、

『あの、相川孝、ってオーナーも、その息子の孝希も、最低の人間だな。自分勝手で、それに、勝手に麻衣ちゃんの番号を、聞きだそうとするなんて…。』

舞は、完全に小説の世界に、感情移入していた。

 そして、


 ―親愛なる舞へ

 今日の気分はどう?ちょっと、嫌な気分になっちゃったかな?

 まあ、今日もゆっくり休んでね。

 それで、新しい詩のタイトルも、考えたんだ。タイトルは、

『陽だまりの中で』

だよ!

 またね!

 孝介より―


 『また孝介先生からの、私宛の手紙だ。

 確かに、この章を読んだ後は、少し、嫌な気分になるな…。

 あと、この詩のタイトルって、小説と関係あるんだろうか?』

舞は詩のタイトルについて、不思議に思いながら、次の章を読み始めた。


 ―第三章 御曹司の暴走―

『やっぱり、相川孝希は最低だ。麻衣ちゃんがキレるの、よく分かる。私も、あんなことされたら、絶対にキレる。

 それに、孝も孝だし、チーフもチーフだ。特に、チーフが勝手に携帯の番号を教えるなんて、許せない。』

舞は、1人病室の中で、怒っていた。

 それに、

『孝希、健吾くんに嘘を吐いた!

 『麻衣ちゃんの家に、借金がある。』

なんて…。

 健吾くん、お願いだからそんな嘘に、騙されないで!』

舞は心の中で、そう祈った。

 さらに、


 ―親愛なる舞へ

 今日も、嫌な気分になっちゃったかな?ごめんね。

 また、2人でどこかへ、行けたらいいね!

 ちなみに、新しい詩のタイトル、また考えたんだ。

 タイトルは、

『静けさの中で』

だよ!

 またね!

 孝介より―


 ―『2人でどこかへ行くって、舞さんと孝介さんは、付き合ってるのかな?』―

『そうだよ麻衣ちゃん、私と孝介先生、いや翔太は、付き合ってるんだ。私たち、今すっごく、幸せ。

 だから、麻衣ちゃんと健吾くんも、幸せになってね。

 悪い奴に、負けないでね!』

気づけば舞の額には、少しだけ汗が滲んでいた。


 ―第四章 傷心―

『ごめんね、麻衣ちゃん、健吾くん。もう、孝介先生、いや翔太、何てことするの!?』

舞は、作者の翔太に、少し怒りを覚えていた。

 さらに、


 ―親愛なる舞へ

 今日はこのタイミングで失礼するよ。

 最近、嫌な気持ちにさせてばっかりだね…

ごめんね。

 とりあえず、また楽しい話も、しようね!

 あと、また新しい詩を、考えたんだ。タイ

トルは、

 『天に届く想い』

だよ!

 またね!

 孝介より―


 『このタイミングで失礼するって…。間、

悪過ぎない?』

舞は、こうも思った。

 そして、


 ―『それにしても、住所なしで、どうやっ

て手紙が届くんだろう?わざわざ私の郵便受

けの中に、直接入れている?

 …まさかね。

 あと、舞さんって、もしかして、このアパ

ートのこの部屋に、前に住んでいた人?』―


 『違うの麻衣ちゃん。孝介先生は、小説で

麻衣ちゃんたちのことを書いていて、それで

手紙も、麻衣ちゃんの元に届くように書いて

いて、だから…。』

舞はそう心の中で叫んだが、その声は、麻衣

に届くはずもない。

 舞は、とりあえず先を、読み進めた。


 ―第五章 mai―

『あれ、相川孝希の態度が、前と全然違う。

…どうしてかな?』

舞は、そのことを疑問に思った。

 『でも、相川孝希が心変わりしたおかげで、

麻衣ちゃんたちはまた、付き合い始めたんだ。…とりあえず良かった、良かった!』

舞は、心の中で安堵した。

 そして…、

『え、5月って、フランス語で『mai』っ

て書くのか。知らなかった。それで、エメラ

ルド…。何か、ロマンチック…。』

舞は、そう思った。

 そして、


 ―親愛なる舞へ

 やっと、いい気分になってくれたかな?

 これから、がんばってね。

 どんなにつらい時でも、舞は1人じゃないよ。

 僕が、側についてるからね。

 これで僕からの手紙も最後になるかな?最後に、新しい詩のタイトルを、書いておきます。

 タイトルは、

 『ルビーのネックレス』

 だよ!

 またね!

 孝介より―


 それは、小説をほぼ読み終えた、翔太からの、手術を控えた舞への、メッセージであった。

 『うん、いい気分になったよ、孝介先生、いや翔太!正直、翔太がこんな物語、書けるとは思わなかった。ホントに、ありがとね!』

舞は、心の中でそう、呟いた。

 また、


 ―PS

 鈴木麻衣さんへ

 初めまして。孝介と言います。今まで、手紙を勝手に送ってしまい、すみません。

 そして、鈴木麻衣さんに、折り入ってお願いがあります。

 つきましては、明日の正午に、○○公園まで、来て頂けないでしょうか?

 ちなみに、私は相川孝希のことも、よく知っている人間です。

 では、○○公園で、お待ちしています。

 孝介―


 ―『孝介さんは、私のことを知っている?

 今まで、知ってて、手紙を送っていたの?

 …じゃあ、舞って誰?それに、何で住所が書いてないの?』

麻衣は、混乱しそうになりながらも、必死で考えようとした。

 しかし、いくら考えても、答えは分からない。

 『とりあえず、明日の正午、○○公園に行けば、謎は解けるかもしれない。』

麻衣はそう思い、明日、孝介に会いに行くことに決めた。―


 『孝介先生から、麻衣ちゃんに手紙?』

舞は、少し不思議そうな表情をした。

 『それに、相川孝希が急に態度を変えたのも気になるし、例の詩のタイトルも、気になるなあ…。

 何か、この辺り、ミステリーっぽい…。まあ、『怪盗ジョルジュ』の作者だもんね!』

 翔太が舞のために書いた小説も、残す所あと一章となっていた。そして、舞は残りの一章を、読み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る