第10話~暴走~
「ジュン......バガス......ひぐっ......」
俺の瞳にはしゃがみ込んで泣く、優菜の姿が写っていた。
彼女の手の先には、かつて幼馴染のジュンとバガスだったであろう灰が散らばっていて、泣き崩れている事から深い悲しみを得たことがわかる。
「な、なぁ......」
「......は、話しかけないでっ......」
何とか慰めようとしたが、拒絶されてしまった。それもそうか。今回の件を企てたのはポトフで、目的は俺に眠る魔力だった。つまり、元を辿れば俺が来たせいでこんな悲劇が起きてしまったからだ。
何故ジュンとバガスは死ななければならなかったのか?
前話では俺がポトフを殺しそうになった所までいったが、そこから始めよう。
結論からいうと、俺はポトフを殺した。
ポトフがナイフを振り上げ、その隙に俺は胸を切り裂こうと腕を振る。
ポトフを切り裂くことには成功した。奴は地面に崩れ落ち、勝利は確定したかと思われた。
だがすっかり安堵してしまった俺はビアンカと言う弓使いがもう一人ポトフの一味に居たのを失念してしまっていた。
ビアンカは、ポトフを愛して止まない乙女だった。つまり、ポトフが殺されたことにビアンカは憤怒したのだ。
俺が安堵し、優菜達に北斗の拘束を外すのを手伝おうともらって話しかけた頃。ビアンカはこっそりと忍び寄り俺のことを背後から刺そうとしたのだ。
事はジュンの言葉から始まる。
「っ! 魔法使い様!」
そういってジュンは俺の後ろに走った。
悲鳴がこの広い洞窟に響き渡る。
後ろを振り向くと、ビアンカが緑色の刀身をしたナイフをジュンの胸に突き立てていた。
一瞬、理解出来なかった。どうやらジュンは俺のことをかばったようだ。
「ま、魔法使い様......だ、大丈夫......ゴホッ......です、か......?」
「ジュン! お前!」
「へ、へへへ......貴方が悪いのよ............」
ジュンは口から血を出してまで俺のことを庇ってくれた。それは強制的とはいえ、ポトフに従えさせられ俺を殺そうとした罪悪感からなのか、単純に愚直な正義感からなのか。
俺はビアンカを突飛ばし、ジュンを横に倒す。
「ジュン! ナイフを抜くぞ! 回復魔法だ!」
「む、無駄よ......! それには魔法が効かない毒が入ってるの! 傷口を回復させたところでもう毒は体に浸透している。あと1分もすれば死に至るわ!」
「ビアンカ、お前ぇ!!」
「ジュン! 貴方、何て馬鹿な事を!」
優菜がジュンの前に駆けつけて言った。横にはバガスも居る。
「優菜......バガス......ごめ、ん......」
「もう喋らないほうが......」
「魔法使い様......の、魔法、でも......ゴホッ......治らない毒らしいです。せめて、最後っゴホッゴホッ......の、お別れを......させ、て、くだ、さい......」
「ジュン......」
「優、菜......一緒に、旅に出てくれて、俺を......ゴホッ......引っ張って、くれて、ありがとう......こんな時、言うのは迷惑か......ゴホッ......もしれないけど......い、今しかないんだ......俺、実は............ゴホッ......優菜、のことが......好き、だった......」
「ジュンっ! 私も好きよ......!だから、死なないで!お願いだからっ......死なないでぇ......私を置いてかないでぇ......」
俺は、ジュンをそっと横たえ、その場を離れた。俺の横にはバガスもいた。彼は無言でビアンカを見ている。目には涙が詰まっている。しばらく、沈黙が続いた。
「バガス......優菜達の元にいなくて、いいのか......?」
「今は、二人だけの世界を、作らせてあげたいです」
「そうか。じゃあ俺らは、こいつをしめるぞ」
「はい」
そう言い、俺たちはビアンカの元へ走っていった。ビアンカの目は血走っていて、今にも何かをやらかしそうだ。地面に座っている。だが、俺たちが近づくといきなり立ちだした。
「へへへ......貴方たちが悪いのよっ!ポトフを!殺すから!貴方たち全員悪よ!みんな、みんな、死んでしまえ!!! うわぁぁぁぁ!!!!!!」
ビアンカの体が発光する。徐々に、体がボコボコと膨らみだした。
「みんな、みんな死んでしまえ!!!!」
紫色転生~光が導くその先へ~ @Tamaki553
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