第9話~決闘~


盗賊の大群と俺がぶつかる。勢力はこちらが1で、対するは50の敵。

しかも北斗は戦闘不能なので周りにバリアを張って放置してはいるものの、少数がバリアの元で各々武器を振っているため、バリアが破られるまでは時間の問題。


制限時間は、そう。

3分だと想定される。

それまでにこの大群を倒さなければならないわけだ。


敵は多いものの、数を生かして戦えば勝てない戦闘ではない。

幸いにして現在地はフォルテッド盗賊団のアジトらしき洞窟の中で、決まったスペースはあるものの場所は広大。現在の人数+100人を足してもまだまだ人が入りそうだ。


目の前に居る敵の顔面を発勁で強打。気絶したそいつの体を盾にし、敵の攻撃を防ぐ。

これでしばらくはまともな攻撃が出来ないと思ったら、気絶した敵の体ごと剣を突き刺してきた。


自分の味方を盾に使われてなお、盾を貫通してそのまま俺を殺そうということか!?

味方のことをどうも思わない薄情、いや、イカれた者達だ!


敵を盾にして各個撃破は出来なさそうだ。

仕方がない。転移で誰もいない場所まで離れる。


集中。


己の感覚を極限まで研ぎ澄ませる。


「”ロックオン”」


敵一人ひとりの頭部をターゲット。

10人はロックオンできた。


10人をロックオンしようが結局は頭で処理する。すっかり忘れ去られているが俺の脳は半分機械で構成されている。そのため、並列思考ができるのだ。まともに状況を把握、同時に作戦を組み立てることが出来るのもこの並列思考の成せる技と言えよう。


「”雷撃”!」


一人ひとりに雷を浴びせる。

ゴオォォォッと音が鳴り響いた。


手が尋常じゃないほど痛む。

だがこれで俺は終われない。


続けてロックオン。


「”ロックオン”、”雷撃”」


容赦なく雷を浴びせた。

轟音。

耳が聞こえない。

もう一度。


「”ロックオン”」


頭を弓矢が掠める。


その後、一斉に矢が自分めがけて飛翔。


「”バリア”」


結界を張って難を逃れたものの、遠距離攻撃まで用いて来たか。


作戦変更だ。

雷に打たれた敵の骸に走り寄る。

手頃な剣を手にし、敵の群れに突撃した。


「うぉぉぉぉぉっ!」


一人ひとりを確実に仕留めていった。

だが敵も生半可には死んでくれないらしい。


剣を胸に突き刺した者は突き刺された剣を手で抑えられ、切り裂いて殺した者には死ぬ間際に反撃をされた。  

右足はまともに機能しなくなり、左腕には矢が突き刺さっている。

ヒールをしようにも集中しなければならなく、1秒たりとも逃せないこの近接戦では魔法を使うことは許されない。並列思考も、四方八方の状況判断で頭がいっぱいだ。


傷ついた自分を励ますため、雄たけびを挙げた。


「俺は死なないぞぉっ!」





ーーー



ーーーーー



ーーーーーーー



「はぁっ......はぁっ......」


気が付くと、周りに立つものはもういなかった。


もう、終わったのか?

そう思った俺は、血に濡れた靴を重々しく持ち上げ北斗のもとへ踵を運んだ。


その瞬間だった。


パチ、パチ、パチ......

パチ、パチ、パチ、パチ......

手を叩く音がこの広大な洞窟に反響した。


手に持つ剣を構え、音のする方向を振り向いた。


「素晴らしい。さすがは魔法使い、と言うべきかな?」


「ッチ、まだお前らがいたか」


眼前のポトフ一行を見て舌を打つ。


腕に刺さった矢を引き抜き、ボロボロになった体”ヒール”をかける。


「何が目的だ!」


「何が、目的??? は、アヒャヒャッ、お前。なーんにも知らないんだな?」


何が可笑しい、と地面に落ちている武器を投げつけた。それも空しくポトフの持つタワーシールドにはじかれる。反撃とばかりに矢が飛んできたが、剣で打ち落とした。それを見てビアンカが弓の構えを解き、言った。


「魔法使いはね、体に膨大な魔力を蓄えているのよ............ねぇ......この魔道具の原動力って何だと思う?」


「魔法を発動するわけだから、魔力だろ」


「原点を言い当てれば、そうね。正解はこれ。魔石よ」


そう言ったのを見てポトフは紫色の石を突き出し、話に続いた。


「魔石は主に魔物からとれるが、お前の倒した角をもった狼のフォーガルは中々強い魔物だ。それなのにとれる魔石はこの魔道具『アイテムボックス』から物を一回取り出す事しかできない。あぁ、面倒だな。だが、もう一つ。”簡単”に魔石を”作る”事が出来る方法がある」


「魔法使いの魔力を石に込めるってことか?」


「その通り!!! 魔石は石に魔力を込めることでも作れる。常人の俺らにはそんな大層な魔力なんてないんだ。そこで、魔法使いを見つけた」


「だが、俺が来ることは予期されていなかった」


「あぁ、それはな。お前が来る事前情報があったからだ。このフェルト王国の王宮占い師がこの地に、別の惑星から転移してきた魔法使いが来ると言う占いがあった。あの女の占いは当たるからな。本当は王国の兵隊が迎えに来るはずだったんだが、俺たちが......」


そこまで話されたところでビアンカがポトフの肩を叩く。


「長話もここまでね。さて、残念だけど魔法使い様には死んでもらうわ。魔力は死体からも接種できるしね、一度きりだけど」


「あぁ、そうだな。ジュン!バガス!優菜! 行け!」


それにジュンが反応。異議を申し立てた。


「し、しかし、相手は魔法使い......」


「お前らが死んでも替えはいくらでもいるんだよ!いいから行け」


バガスが腰に装備したナイフを抜き、ジュンに向ける。


今度は優菜が身を乗り出し、反論した。


「嫌です! 私、戦いたくありません!」


「お前、自分の立場が分かってんのか!? 仕方がない......”命令”だ、行け!」


「......分かりました」


”命令”と言う言葉が放たれた瞬間、三人の体は青紫色に薄く発光。それまで反抗していた事が無かったかの様に武器を構え、こちらを見据えた。


仲間、と言う訳ではなさそうだ。無理やり従わされているような......


三人が前に出る。ポトフは棒立ちで高みの見物。三人は捨て駒か?

つまり、こいつ等で俺を捕獲又は殺害できれば自分は何もせずに済むし、三人が失敗してもさらに疲労した俺を安全に確保出来るという作戦らしい。


なんて薄情なんだ。いや、フォルテッド盗賊団に襲われた時、容赦なく仲間を惨殺してたな。そこまで行くと自己中心をも超えてサイコパスだな。


俺はこちらに向かって走って来るジュン、バガス、優菜の三人の方向を見る。敵はもう眼前まで迫っていた。


ジュンが剣を振りかぶる。持前の剣で横に受け流した。

その隙にバガスが後ろから槍を突き出す。

爪先を上げ、槍を弾く。


後ろで気配。優菜が刀に手を添えていた。

体を回転させ、振り上げられた足で優菜の顔を蹴る。

回転を生かして手の剣でジュンの脚を切り裂いた。


「ジュンッ!」


バガスが叫ぶ。

顔には動揺が見られる。


「安心しろ、殺しはしない」


そう言い剣の腹でバガスの顔を強打、気絶。


ジュンは切り裂かれたことをものともせず剣を振りかぶる。

俺は肘でジュンの顔を叩き足をかけ、転ばす。


そのまま前に走る。狙うはポトフ。ジュン達三人は戦おうとはしなかったた。だがポトフが”命令”した時、三人の体が発光したのを切っ掛けにこちらに向かってきた。魔法の類と考えられる。


ポトフを倒せば魔法も解け、ジュン達を含めた四人を無力化できるとの作戦の為、俺は走った。


ポトフが反応、タワーシールドを構えた。それは予想済み、魔力を掌に集め、集中。タワーシールドを手で触れ魔法を発動。


「”分解”」


タワーシールドは隅々まで分解される。だがポトフもそれは想定内らしく、左手に持ったナイフをこちらに突き立てようと振り上げた。


ポトフに近づく勢いを緩めると、ナイフは目の前を空しく通過、宙を切った。

再度走り、俺は剣を持つ腕を振りかぶった。


「死ねぇぇぇぇぇっ!」



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