第2話~力の存在~


目を覚ますと、俺は見知らぬ天井をじっと見つめていた。


訳ではなく、自分の部屋のベッドで寝ていた。


先ほどのは夢だったのだろうか。


失われていく五感。俺の家族はこんな感覚の中、死んでいったのだろうか。 俺がかけた言葉も、伝わっていなかったのだろうか。

そう思うと、なんと孤独で空しいのだろうかと感じてしまう。



「はぁ... 」



溜息が漏れた。てっきり一人だと思ったのだが、俺の部屋には思わぬ人物がいた。


「気がついたか、勇者よ!  今世界は魔王が齎した大地の腐敗によって危機に晒されている! 魔王を倒して世界に平和を取り戻すのだ!」

「魔王なんていないよ。やめてくれ、まったく... 北斗、どうしてこんなところに?」

自分の部屋に不法侵入してきた友人にいう。

「不法侵入とはなんだ! 俺は玄関の先で倒れていたお前を介抱してやったのだ!」


玄関の先で倒れていた...? それはつまり、俺が先ほど体験した恐怖は夢ではないと言うことだ。頭が真っ白になった。言葉も出なかった。


「...なぁ、何かあったのか?」

呆けた顔をした俺を見かねて、北斗が声をかけた。頭が再起動する。


「あ、あぁ。俺が玄関の先で倒れていたということは、夢ではなかったのだろう。倒れる前、俺は奇妙な事象を体験した」

気絶する前起きたことを整理しながら北斗に話す。


つまりは、紫色の光の弾が腐敗した地面から出てきて、その一つに触ってしまった瞬間、触った主、つまり俺に一斉に集まってきたわけだ。それで、体に異変が生じた。まるで体が改造されるような痛みの後、五感が失われて行って最後には気絶すると言うわけの分からないことが起きたのだ。


「体に異変が生じた? 立ってみてくれ。 体に異常はあるか?」

「ううむ、心臓に違和感があるな。なんと言うか、血だけではなく別の物を吐き出している感じだ」

心臓に違和感。血ではない何かを心臓が吐き出す度に何故か、力が漲る。まるで新種の力のように。


中学生の頃、「気」があるとか言って必死に何かが体内にあると信じた時の感覚。結局、感じたその何かは、血液の循環だったわけだが。

今はそれがハッキリと体にあるのが感じられる。


「おお、勇者よ! ついに魔力を手に入れたか! では早速、メ◯の呪文を使ってみるがよい!」

ガッチリとした筋肉質な体格に、すらりとした細長い顔立ちの北斗がそういった。普通なら「ふざけるな!」というところだが、本当に出来るような気がした。試しにその力を掌に集め、掌に炎が出現する妄想をしてみた。”メ◯”と唱えてみる。

「”メ◯”!」


すると、掌に1㎝大の炎の玉が出現した。俺は驚き、慌てて手を振り炎を消した。何も燃やしていないはずなのだが、なぜか北斗が部屋の角で真っ白に燃え尽きていた。

「俺は... もうだめだ... 勇者よ、俺の屍を超えて行け!」

「超えねぇよ! ふはは! 魔法の力を得た俺には何でもできるのだ! ”ヒール”!」


北斗に近づき、北斗の大きな肩に手を当てる。今度は魔力を掌に寄せた。

魔力により細胞を活発化させ、栄養取得速度を大幅に上げる光を掌から出す妄想をしてみる。

すると、青かった北斗の顔がみるみる戻ってゆき、いきなり立ち上がったと思えば俺の肩をつかんだ。


「こんにゃろー!! これは夢か! 夢なのか! こんちくしょう! これでもくらえ!」

北斗が自分の顔にチョップを仕掛けてきた。慌てて手を交差させ頭を守ったが、北斗が馬鹿力を持っているのを失念していた。北斗のチョップは交差させた手をそのまま馬鹿力で折った。


「ぎえぇぇぇ! いってぇぇぇぇ!!!」

「あ、力入れすぎた... ごめん。でも、魔法あるから大丈夫だろ」


奇声が出た俺に、北斗は自分の手を見つめながら皮肉気に謝った。まったく反省してねぇ...…。魔法で治せるのは治せるのだが。

「うぅ...... ”ヒール”」


先ほどのヒールとは少し違う妄想をしながら魔法を唱えた。


「すげぇ! もう一回だ! もう一回おらせろ! 大丈夫! 優しくしてあげるから!」

折れた腕が見る見る内に正常に戻っていくのに興奮した北斗がそんな言葉を口走った。

「やめろ! やめて! やめてください!」

「大丈夫だ、受けてみろ! 必殺、パンチ!」

北斗の拳が眼前に迫る!

どうしよう、魔法があっても痛いものは痛いのだ。魔法.... その言葉にふと、あることが思いつく。


「”バリア”」


呪文を唱える。目の前まで迫った北斗の拳が弾かれた。

「いってぇぇぇ!」

俺が張ったバリアに、あの馬鹿力を誇る北斗の拳はなすすべもなかったのか。これは銃弾をも防げるのでは...…。


そう思った瞬間ドンッと音が鳴り部屋のドアが爆散した。

「北斗っ! ”バリア”!」

何事かと混乱する北斗を他所に俺はバリアの魔法を北斗に掛けた。


爆散したドアに舞っていた煙が止み、それは姿を現した。

テーザー銃を装備した人を筆頭に人の群れが一斉に部屋に雪崩かかり、こちらを撃ち始めた。

バリアが電撃を防ぐ。


「誰だ!」

「くっ、プランA失敗、プランBに移行する!」

テーザー銃を持った人以外が手に持っていた拳銃を俺目掛けて撃ち始める。

パン。と乾いた銃声が響き渡る。こんどは俺の張ったバリアが消え去った。


「ぐあぁっ!」

放たれた銃弾がバリアを破壊し、足に当たった。

足が流血し、意識が朦朧とし始める。

何とか逃げなければ! この前はなんの因果か、生き残ったが今度は死ぬこと間違いなしだ。

逃げなければ。魔法を使えばあるいは...…。無我夢中で魔法を唱えた。視界が紫に染まる。

この前と同じ現象だ。五感が失われていく。やばい! そう思ったのを最後に俺は意識を手放した。
















「ここは......?」


気づいたら俺は快晴の空を見上げていた。 曇り一つ無い瑠璃色の空は「平和」の二文字が具現化されたかのように美しかった。 美しかったのだが、ある物体がこの光景を異様にしていた。


異質な物質、それは太陽。紫色の太陽が毒々しく輝いていたのだ。


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