第22話 別れの意味
王都の中へと遠ざかっていくひかるの背中を見ながら、あーあ行っちゃったと心の中で呟く。
本当は一緒に行きたかった。
一緒にいて、ひかるの傍にいて、待っているだけの辛さを感じずに、いつまでもどんな状況でも幸せを感じていたかった。
でも、大丈夫だよね。
私に結婚を申し込んでくれた時も大丈夫だった。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……絶対に大丈夫。ひかるは破るような約束は絶対にしない。
でも……、だけど、なんでだろう…………。
なんで、こんなにも……。
ちょっと前までははっきりと目に映っていた目の前の景色が、今は滲んで何一つとしてとらえることができない。
瞳に熱いものが走って、心がとてつもなく締め付けられる。
苦しい。
痛い。
辛い。
大丈夫、ひかるは大丈夫……それが分かっているはずなのに、口からどうしても嗚咽の声が漏れ出てしまう。
手で顔を覆って、涙が出ないように、声が出ないように、これ以上悲しい感情があふれ出てこないようにするけど、どうしてもできない。
「なんで……」
声を出して呟く。
気づくと視界がゆっくりと回転していくのが感じ取れた。
手に力が入らず、滲んだ視界に映るのは青一色の空。
ああ……そうか。
体はわかっていたんだ、ちゃんと。
「ちょっと……無理しすぎちゃったかな」
もう、ひかるの顔を見ることがないことを。
もう、ひかるから抱きしめられることはないことを。
もう、ひかるの声を聞くことはできないことを。
守られることも、傍にいることも、ふざけあったりすることも、温かみを分け合うことも、愛し合うことも、もう全部私には……。
「なん……で……っ」
とめどなく溢れ出してくる涙はこの世界を覆い尽くしてしまいそうだ。
やっとだっていうのに。これからだっていうのに、なんで…………。
やっとひかると結婚できて、ひかるも大事な仕事が終わって、これから二人で一緒にどこか行ったり、家でゆっくりしたり。ひかると私の子供が生まれて、二人で一緒にいろいろなことを教えたり、遊んだり、笑ったり、時には怒ったりして、幸せに一緒に年をとっていく、そういった未来が見えていたはずなのに、なんで…………どうして…………。
…………死にたくない、まだ死にたくないよ…………ひかる……。
気づくと私は真っ青な空と真っ黒な水面の上に立っていて、静かに闇に塗られた水が私の喉元へと、口元へと迫ってくる。
「おか…………さん……」
水に濁され、時間に風化された記憶がどこまでも怖いくらいに澄んだ水を吸って、私の意識の外で形を取り戻したように、自然とほとんどない意識のない中で言葉が出た。
もうそれがどんな記憶なのか、私にはわからない。
だけれど…………。
ありがとう……。
黒い水はそうして私の全部を呑みこんで、私からすべてを奪っていった。
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