第21話 別れ

「状況はどうなっている?」

全速力で馬を走らせ王都に着くなり、現在王都で起こっていることの対策本部として建てられたテントの中に入り込み素早く状況を聞く。

「おぉ、大騎士か……。今まで、どこをほっつき歩いていた?」

その場にいたのは左・右大臣と騎士の面々。

「それは誠に申し訳ないと思っていますが……。とにかく、現状は?」

一言、社交辞令的に大臣たちに言葉を告げ、そして騎士たちに現状を聞く。

「はっ、二日前に突如現れたモンスターによる王都襲撃を受け、王都民の避難とモンスター討伐を騎士により行うも、そのほとんどが戦闘不能の状態に。王都民の死傷者も多大。ただいま、モンスターが王都外に出ないよう残りの騎士により対応を行っている、という状況です。今、王都はさながら領外のようになっています」

ただ簡潔になんの感情にも惑わされず、そう騎士は現在の状況を僕に伝えた。

それにしても思ったよりも悪い状況のようだ。

「未だ王都内に人々が取り残されていますが、こちらの人員にも限りがあり救出にいけない状況になっています」

「そうか……」

さて、どうするか。

とにかくモンスターを討伐しないことには王都の平和は訪れない。

だけど、それよりも重要なことがある。

と、そこで領外の巫女の家でこのみから譲り受けた剣にそっと手を当てる。

僕は無知だ。

何も知らずこんな状況に巻き込まれ、何が起こっているのか全く分かっていない。

だけど、このみに会って、颯也と会って少しだけ自分の状況を推し量ることができた。

でも、それだけじゃ足りない。

そして今、僕はこのみから譲り受けたこの剣に教えてもらった。

あの時、あの場所、僕はどんな立ち位置に立って、この世界はどんな状況になっていたのか。今、この世界はどんな世界で、この譲り受けた力は一体どんなものなのか。

それを、ほんの些細な部分でしかないのかもしれないけど知ることができた。

だから、モンスターをまとめているのが、あの時僕とこのみに巨大な砲弾を向けてきたシンク・ボンクレイであることも大体の予想がつく。

突然モンスターが現れたのもあいつのせいだろう。何を企んでいるのかわからないけれど、あいつを倒さないことにはこの状況はどうにもならない。

「それで、我々は何をすれば……」

僕の考えがまとまったところで痺れを切らしたのか、騎士が僕の命令を仰ぐ。

まったく、柄にもない役を引き受けちゃったな。

心の中で嘆息し、それでも今やることに真摯に向き合う。

「お前たちは今のままの状況を保ってくれればいい。余裕があるならば取り残されている王都民の避難と安全の確保を。王都内のモンスターは僕が引き受ける」

「は、はいっ! ですが、それでは大騎士様の……」

「モンスターの相手は僕一人で十分さ……。それじゃ、頼んだぞ」

「了解しました!」

伝えることは伝え、テントの中を出る。

「ひかるっ!」

テントから出るなり外にいたふゆかに声をかけられる。

「ふゆか……」

領外でふゆかに助けられてから僕はふゆかを家に帰そうとしたのだけれど、言うことをきかず僕も急いでいたし結局ここまでついてきてしまったのだ。

だけど、いくらなんでもこれより先、ふゆかと一緒に行動を共にするわけにはいかない。

「それで……どうなったの?」

「王都の中でモンスターと戦うことになった」

「それじゃっ――」

「――ダメだ」

「どうして? 領外でだって十分やっていけた、だったら」

「ふゆか……今度は君を守れる余裕がないからだよ。今、王都は領外よりも危険な場所になってる」

「大丈夫だよ。ひかるは忘れているかもしれないけれど、私は結構強いし。それに……言ったでしょ、大事な人が危険な場所にいるのにそれをただ待つだけなんて――」

ふゆかが大体どう言葉を返すのかわかってる。ふゆかが僕のことをどれだけ大事に思っているかも。僕にしたらこの関係は偽りなのかもしれないけれど、まだほんの少しの時間しかともに過ごしていないけれど、それでもきっとどっちの僕もこうすると思うし、こう言うと思う。

僕はそっとふゆかに寄り添って、静かに抱きしめた。

「僕も君が大事なんだ……。君を守れる自信のない場所に、君を行かせることなんてできない」

そう耳元でそっと呟いた。

「でもっ……だって、ひかるは……」

僕にふゆかの顔は見えない。けれどふゆかの発す声はいつもより震えて、途切れ途切れで湿っていた。

「大丈夫だよ……。確かに君を連れてはいけない場所だけれど、それでも絶対に帰ってくる自信はあるんだ……。無事ここに戻ってきて、それでまた……こういう風に君を抱きしめるよ」

「…………」

「それじゃ……行ってくる」

抱きしめていた手をそっとほどき、ふゆかの方を見て言葉を伝える。まだふゆかの顔は俯いたままで、だけど

「…………見送るときくらい、笑顔でいなきゃね」

自分を奮起させるように小さな声で自らを言い聞かせ、

「行ってらっしゃい!」

涙に滲みながらも、最上の笑顔で僕に見送る言葉をくれた、その時のふゆかの表情は僕の心の奥底に刺さって、きっとこれから先これが抜けることはないんだろう。

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