断章6 孤軍奮闘

「これは……、そうだね、僕にとっても予想外だ……」

光の中を進み、その先にあった景色というものは、見事に僕の予想を裏切った。

「これじゃ、まるで、性質の悪いお伽噺じゃないか……」と自嘲気味に笑う。

それくらいに思えるほど、目の前に広がる今まで僕たちがいたあの場所とは異質で、慣れしたしんで、そこに多くの人――僕の目に移る限り――が行きかっていた。

安穏として、忙しなく、陰惨な空に、灰色のコンクリート、慣れ親しみのある街並みに、高層ビル、そしてどこかに不都合を抱えている、僕が知っているものとはおそらく少し違っているであろうその姿、僕たちがかつて存在していた東京と何ら変わりない景色が広がっていた。

たくさんの人が行きかう道中で、僕はただ不自然に立ちすくんでいる。

「どういうことかな、これ? 神話にもあったから薄々気づいてはいたけど、もしかしてここを行きかう人全部が神だなんて……」

これじゃ、僕等の世界をこんな風にした神様とやらを探し出すのは随分と骨が折れる。

そこに、何か意味があるのか。

東京が本物でここにいる人は神なのか。それとも、ここそのものがこの世界に作られた作り物とでも考えるのか。

「ふぅ、考えていてもしょうがないな、これは。まあ、まずは情報収集からだろうな。まったく、ただでさえ時間がないと言うのに――」

そうして、振り返り人ごみに紛れ、とりあえず自分のよく見知っている場所に向かおうとした矢先だった。

――どんっ

誰か、見知らぬ誰かが僕の肩に体をぶつけて、そのまま去っていった。人ごみだから別に珍しいといったわけでもないけれど、僕の体は不意に止まって直後激痛が体中を走った。

「チッ……そういうことね……」

腹を見ると、小さなナイフが僕の心臓を一突きしていた。即死だ、普通なら。

でも、実際は激痛が体中を苦しませるだけで、崩れ落ちることも、もがくこともないし、息もちゃんとできている。

「……ここでは世界が似てるからかな……。あの時、僕が発動した力がまだ効いてるみたいだ」

まったく、好都合だ。運よくここに来て力が効き始めたことも、僕を攻撃してくれたことも。胸からナイフを抜き道端に投げ捨てる。

耳をイラつかせるような、ゴムを激しく地面にこすり付けるような摩擦音が聞こえてきたのはその直後。

猛スピードで道路から僕のいる歩道に突進してくる乗用車が見えたのがその一瞬後。

「なにこの街は、この国は、そこまでして僕を消し去りたいのかな」

仕方ない、仕事のスイッチ入れるか。

身体から力を抜き自分から車道に躍り出る。こっちに向かってくる乗用車に向かって、ゆっくり歩きながら、ぶつかるその瞬間に体を少しずらし、車に手を添え、流れを変え、吹き飛ばす。背後では爆発音と熱風。

「あーあ、やっぱ、これやると腕が使いものにならなくなるな。ま、いっか……どうせ、すぐに治るから」

僕の読み通りに、赤あざだらけの使い物にならない腕はすぐに元の機能を取り戻す。

「それにしても、周りの人たちはそろいもそろって無視とはね、そんなに嫌いなのかな、外から来た人が……」

目の前からは大型のトラックが走って来ていて、気付くとあんなに行きかっていた人は一人もいなくなっていて、この道を通っていたであろうたくさんの車も消えていた。

「なんなのかな、ここには自己防衛システムとかいうものが存在していて、僕以外のすべてのここにいる人にはそれが通達されてどこかに逃げ帰ったとか、そんな感じかな」

大型トラックは僕を吹き飛ばそうと言うくらいのスピードでやってきて、そして結局それはそいつ――誰か知らないけど――の妄想に終わった。僕はさっきと同じような感覚でトラックを蹴りあげ、吹き飛ばし、同じように爆破して大破させた。

「無駄っていうことが分からないのかな。そんな程度のことしかできないんだったら、こんな場所すぐに壊れてしまうよ……。やるんだったら、ここのボスを出すくらいじゃないとね……」

まあ、それが目的だと分かっているからこそ、こんなにこそこそと僕を狙ってきているのかもね。

「まあ、いいさ。肩慣らしだ、本番に向けてのね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る