第13話 予感

――ひかる…………

そう、誰かに呼ばれた気がして、ふと振り返った。

当たり前だけど、そこにはこの馬車の壁とあと数名の見知らぬ同乗者しかいなかった。

すぐ横にある窓から少し顔を出して穏やかな陽気を顔に当てながら、馬車後方に目を向けるも、替り映えのしない砂利道があるだけ。前にも後にもあるのは、整備のあまりされていない田舎道とそのまわりの田んぼや畑などの田園風景だけ。

草が生い茂り、花が咲き、人なんて見渡してもいない。

気のせいか。

そう自分の中で納得してまた再びさっきと同じように目を閉じ静かに目的地へと着くのを待つ。

僕が馬車に乗ってからもう一時間半が経とうとしている。おそらく、ふゆかのいる場所までの道のりの半分を過ぎようとしているところだろう。

本当はそこでこれから先の未来のことについて考えをめぐらせるべきなのかもしれない。

だけど、このとき僕の頭の中にはふと、僕がもといた世界のことが浮かんできた。

気づけばこっちの世界に来てから二週間近くになる。ここまで思えば、ほとんど動揺もなく来てしまった。多分、普通の人ならこの世界で引きこもるか何かしてしまうのだろう。

僕の友達や家族はあっちの世界で今頃どうしているだろうか。

そもそもこの二つの並行にも思える世界は同時進行で動いているのか。

こっちの世界にも、僕がいて、颯也がいて、多分このみもいる。

それぞれの人がそれぞれきちんと当てはまるように存在する。

小説によくあるような並行世界というには、世界の根本――神話の成り立ちと領土のあり方――から違っているから、多分僕の世界でどんな分岐が起きても、こんな風にはならない。

分からないことだらけだ。

それに、僕にはふゆかのような女性の存在は知らない。

この世界とあっちの世界が同じような人物を表し、同じような人物の立ち位置を持っているなら、僕と結婚しているふゆかの存在も同じようにもとの世界の僕にも存在するようになる。あれかな、僕の家の古いしきたりかなんかで、実は許嫁がふゆかでした、みたいなオチでもあるのかな。

そう言えば、こっちの世界の僕の歳は僕自身の歳より少し上みたいな感じだし、元の世界に戻ってしばらくしてふゆかを親から紹介されたら…………正直言ってそれはあらかじめ知っていても知らなくても困った状況に変わりないな。

まぁ元の世界に戻ったとしても解決されていない問題はあるわけだし、変わらず僕は家に反抗するだろうから、何もすべてが終わったわけではないのだけれど……。

そう言えば、あの時このみに見せられた風景は結局何なのだったんだろう。颯也からそれらしい情報は聞けなかったし。

どこか、すごい小さいときに誰かに連れられてその場所に行ったような感じがする。

もやもやと泥水をかき混ぜたときのように頭の中は霞がかり、よく思い出すことができない。そしてそのまま、僕は結局そんな思考のまどろみにはまって、ちょうどいい暖かさの風に当てられて、いつの間にか自分でも気づかないうちに眠りについていた。

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