第12話 裏切り
ただ単に古い場所だな、と感じていた。
さっきまでの落ち着いた雰囲気の豪華な中央大臣室とは違って、そう言うなればそれはこの世界の私が住んでいたと思われるあの小屋に似ている。
王都宮殿内部にある頑丈に鍵をなされた扉の向こう側、そこにこの場所は広がっていた。
目の前に見えるのは階段。地下へと、より暗い場所へと続く階段。
すべてが暗い色をした石造りの壁、床、天井でで、炎が脇で淡く灯っている。ひんやりとした空気の中に、ろうそくの炎のほんのりとした温かさが入ってきて、何ともいえないような気分になる。
颯也が言うには、神々の国へ通じる扉のある場所。
そこがかつて何に使われていたのか、誰が使っていたのか、この世界で巫女とはどんな存在であったのか、疑問に思うことはたくさんあった。だけどそれは、今の私にとって道草に落ちている石ころみたいに、まったく関係のないことだ。
手段やそれについてくる疑問なんて掃いて捨てるほどある。
大事なのは目的に達すること。
私にとっては、ひかるとの再会、それだけが私の望むところ。
「着いたよ……ここが、この部屋が扉だ……」
そんなことを思っていると、この道のりは短かったのだと思う。
気づいたら、颯也に声をかけられていたら、もう私はそこに着いていた。いつの間に階は終わりを告げており、一つの部屋があった。
造りは今まで来たところと根本的には変わらない。
奥行・幅どちらも一〇㍍ほど。真正面には確かに壁に扉のようなものが彫られている。
その目の前には大きな杯があって、どこかかび臭いにおいが立ち込めている。
自然と、吸いつけられるように私は颯也の脇を抜けて、その扉だと思われる場所の所まで歩いて行った。
「それで…………ここで私は一体、何をすれ――」
――結局、そこが私の甘いところだったのだろう。
――私が勝手に思い込んで、信じ込んで、真実を見ないで。
――うまい話には毒がある、昔の人はよく言ったと思う。
「――ごめんね、決して君を騙すつもりはなかったんだよ。でも最終的に、僕が君に伝えたことはすべて嘘になってしまったんだ。残念なことに……」
初めは何が起きたのかが分からなかった。
頭が真っ白になって、視界がぼやけて、なんだか体が震えて、言葉を紡ごうとしているのに口が動かなかった。
颯也からそんな言葉を聞いて、そして少しの間を置いて私の胸を赤い何かが貫いているということだけが分かった。そして、もう次の瞬間にはほとんどの意識は飛び、目の前に倒れ込んでいた。
「いやさ、君をどうやって杯の前まで誘導しようか考えていたんだけど、ちょうどよかった」
徐々に周りが明るくなっていくのが分かる。
今、颯也がどんな表情をして私に話しかけているのか、私の視界はもうすでに真っ暗でなにも分からなかった。
「な…………ん、で……」
苦し紛れに出た、怖いくらいにかすれたその三文字の声は光に飲み込まれ、消された。
「心配しなくても、急所は外してあるよ。ただ大分大量出血になっているから、大抵の場合は死んでしまうけど、それでも運がよかったら、生きて僕とまた会うかもしれない。その時、僕は君に殺されてしまうのかな。もし、君が死んでしまっても、呪い殺されるって言う運命があるのか……」
「…………」
「まぁ、いいや。すべてが終われば、僕は大人しく君に殺されるよ。それに殺されなくても、結局は死ぬだろう……。じゃあ、また、いつか、どこかで」
ほとんどなにも聞こえなかった。
ただ自分の内か外か、どちらからかやってくるのかも分からないような雑音が身体の中を巡って、私をむしばんでゆく。
痛みなんてものは、なかった。
そして、静かに光が収束していくのが分かった。
そのころには私は生温かい川の中に身を委ねていた。
そして静かにその川の底へと沈んでいく、埋まっていく、おぼれていく。
――ごめんね
――もう……
――あなたには……
――あえないかもしれない
――ごめんね……
――ひかる…………
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