第11話 嘘

王都、到着!

ちょっとした安堵と達成感が私のからだの中を巡って、心の中で少しテンション高めな声でつぶやいた。

でも、ここまで長かったな。

まっ、この王国内に入ってからは三日ぐらいでここまで来れちゃったから、大変だったのはその前の一週間かな。領外、空白地帯を足で歩くのにはさすがに骨が折れたよ。

でも比較的、何事もなく来れたからよかった。

あとは、ひかるを探しだすことができれば、万々歳ってなる。

私自身の勘と、あとは巫女の力。

一日に一回、神からのお告げが頭の中に響く。その声はうんざりするくらいに、あの人に似ているけれど、その部分については目を、いや耳を塞ごう。

私が来るまでは預言といったものらしかったけど、私がこの世界に来てからは助言に変わった。

私が生き残って、ひかるを見つけるための助言。

私はそれを信じたり、信じなかったりとしたけど、信じたときには何も起きなかった。

少なくとも、不幸といったものは起こらなかった。

私が今いる場所は、王宮へと続くメインストリートのうちの一つ。

馬車乗り場がたくさんあって人がにぎわい……

とその瞬間、今までよりも大きなざわめきがその場所に現れた。

なんか、人が集まっていくような気がする。

あんまり人ごみには近づきたくないけれど、そこで何が起こっているのかが気になったから、ちょっと様子を見る。

「見ろよ、あれが齢若きにして騎士の頂点に立った男だぜ」

そう、周りの人が言っているのが聞こえた。

人ごみであんまり詳しく姿とかは分からないけど、ちらりと騎士の制服の肩部分だけみえた。金色の三本線に、いくつもの星がちりばめられている。

ただ、その一部の姿が見えたのも一瞬で、すぐにその人は馬車に乗ってしまった。

すごいなぁ、って思った。

でも、多分あの人はひかるじゃないんだろうな、って思った。

ひかるはあんな目立つような行動をする人じゃないと思う。

だから、違うんじゃないかって思う。

ま、とりあえずはひかるを知っていそうな人に会うかな。

この世界と前の世界との関連性と、神の助言から、位が高い人が私のことを知っているということまでは分かっている。

なら、向かう場所は決まっているようなものだと思う。

この真っ直ぐな道を進めば会うことができるはず。

止まっていた歩を進め、その方向へと歩いていく。

側道には歴代の王と大臣の名と顔写真がならんでいる。

たいそうなものだなぁと気楽に思って、あくまで知っている人がいるのかもしれないとかいう、そんな観点で写真を見て、歩いた。

そして見つけた。

「やっぱり……そうなんだ」

そう私が小さく呟いたのはもうほとんど王宮の目の前だった。

私の見知っている名と顔とがそこにあった。

驚くほど白銀で、少し癖のある髪に、赤い瞳、柔和な笑みを湛えて、こちらをみている。

名前は颯也とだけ書かれていた。

三大臣の中央をつかさどる、中央大臣。実質、この国のトップ。

まあ、それもそうかなって感じはするけど。

私のいた世界でもあの人はみんなをまとめる場所に立っていたし、多分本質的にそう立場に立つよう仕組まれているんだ。

でも……いきなり大臣に会わせてほしいって頼んでも無理かな。

となると…………侵入になっちゃうのかな。

幸い、この王宮は私の持つ様な特別なもので守られているわけではなさそうだし、私の力を使えばできそうだし。

ま、彼に会わなくちゃどうしようもないから、別に誰に迷惑をかけるわけでもないし、大丈夫だと信じたい。

私はそう考えて、王宮の周りの裏道に入った。

目を瞑り、音にならない言葉を口にした。体の中から何かが抜きでていくようなちょっと気味の悪い感じがして、視界から色彩豊かな世界が消えた。

これで、この世界では他の人には私の姿は見えないはず。手品のようなものだ。

そのまま、王宮の入り口まで歩いて行って、入り口をふさいでいる二人の門番の脇を通り抜けて王宮内部へと進む。

それから、驚くくらいに広い王宮の中を歩いて三十分位、やっと中央大臣室という部屋に辿りついた。扉に耳をつけて、中で誰かが話していないかを確認。

今は誰もいないか、颯也だけがいるのかのどちらか。

だったら、堂々と入っても問題はない。

そっとドアノブに手をかけ、その部屋の中へと入っていく。

いた!

入った瞬間のちょっと変わった空気と、私の目の前にある銀色の特徴的な髪の毛が目に入ってきてすぐわかった。

「やぁ、もうすぐ来るころだと思っていたよ」

そして、変わることなくその異常な勘の良さも元の世界にいた颯也と全く同じだった。

まだ私の不可視結界を解いたわけでもないのに、そう私の目を見て話しかけてきた。

かなわないな。ちょっと驚かせようとしたのに……。

少し残念に思って、私は結界を解いた。

「無事だったんだね」

「そうだよ、なんとかって感じだけど。がっかりした?」

「なんで……?」

「なんとなくさ。君は僕のこと、あんまりよく思っていないだろ。散々、逃げられたし」

「そうかな、そんなことないと思うよ」

一応、ごはん食べさせてくれたし……。手荒には扱われなかった。まぁ、それ以外の点では、ひかるに余計なことを話そうとしたりとか、微妙な感じだけど。

「そうか。まぁ、どうせどうでもいい話だね。それで、君は何しにここに来たの?」

「分かってるんじゃないの?」

「さあ、どうだろうね。大体、君の立場は予想できるけれども、わざわざ僕の所に来る意味が分からなかっただけさ。君なら、真っ先にひかる君のところに行きそうなものだけれど……」

「そうだね、私もひかるのいる場所が分かるんだったら行っているんだろうけど、残念ながら分からないので、ひかるのこと知っていそうなあなたに会いに来たの」

「そうか、まあ確かに僕なら目立つ場所にいるし分かりやすい。だけど、君にとっては残念極まりないことだけれど、僕はひかる君の居場所はしらないんだ」

「そう…………」

それは、残念だな。颯也はなんか私の知らないことをたくさん知っているイメージがあったから、知っているような感じがしたんだけど。

「ま、とりあえずありがとうとは言っておくね。それじゃ、私の聞きたいことはこれだけだから」

颯也がひかるのことを知らないんじゃ、また別の手がかりを探さなくちゃいけない。

また、扉を開いて外に出ようとした時だった。

「え……?」

私のその行動は颯也に腕をつかまれると言う行動によって阻まれた。

そのまま、腕を引かれて颯也の方に引かれ、顔を近づけられる。

「なに……いきなり」

私は何が起こったのかをほとんど理解することができずに、混乱していた。

「残念ながら僕はひかるくんの居場所はしらない。だけれどもさ、もしひかる君を見つけることができる世界が存在するとしたら、もし君にしかその道を開けないのだとしたら、どうする?」

そう怖いくらいに妖艶な笑みを浮かべて彼は私に問いかけてきた。

「どういう……? というか、その前に、顔近い……」

「あぁ、ごめんごめん。つまりさ、君は巫女で、この世界には招かれるべき客がいる世界があるってことだよ」

私から顔を離しながら、またしてもよくわからないことを言った。

この際、颯也に私がこの世界で巫女と呼ばれる存在であるということが知られているは大体予想通りだけど、そのほかは違う。

「ごめん……全然分からない」

「そうか。まぁ、いいや、ちゃんと省略せずに言おう。君はさ、この場所がどんなところかどの程度まで知っているのかな?」

「……あの世界の並行世界というくらいの認識しか」

「そうだね、確かにここはあの世界と本質的に言えば同じ並行世界だ。だけれども、形式的には違う部分がいくつかある。それが、まあ、この世界には大きく分けて三つの部分しかないと言うことになるのだろう」

三つ……?

それはなんだか聞いたことがないような話かな。

「王国と領外の二つは私も知っているよ。だけど……」

「そう、この世界にいる人で、これを知っているのは多分僕とあとは領外にいるあいつ、そしてその場所に住む者しかいないんだろうね。王国と領外、もう一つ存在する場所は、神々の国だ」

「神……って、まさか」

「そう、そのまさかは合っていると思うよ。そこがどんな場所か、詳しいことは僕も分からないけれど。でもこの場合、この神々という者の中には確実に神の創りしゲームを始めたあいつは含まれているはずだ」

私の運命を激しく捻じ曲げられた、ふとそれに付随する感情が生まれすぐに沈んだ。

でも確かにそれは正しいのだろう。私の今持つ力は神の言葉ということになってるから、この世界にも神様がいてもおかしくない。

「そこでなら、ひかるを見つけられるの?」

「おそらくね。文献には神々の国には様々な、僕たち風に言うと魔法のようなものが存在するらしいんだ。それを利用すれば、もしかしたらってね。どうかな?」

「それだったら、やる。もしかしたら元の世界に戻る方法もわかるかもしれないし、ほかに手がかりはないから……」

「了解。……でもさ、僕自身提案しておいてこう聞くのもおかしな話かもしれないけれど、君がそこまでしてひかる君に会いたいわけっていうのはどうしてかな。そんなに強い思い入れがあるわけでもないんだろう?」

思い入れ、つまりひかるのことが好きかどうかっていうことになるのかな。

そう聞かれると答えにくいけれど、そもそも私は好きという感情がわからないし。

でも、それがなんとなく今の私の気持ちと違うことくらいは分かる。

「思い入れって言われると微妙だけど…………でも、きっと赦してほしいんだと思う」

私がひかるを一方的にこの状況に巻き込んでしまった。

こうなると分かっていた訳ではないけれど、結果として彼から元の世界での平穏な生活というものを奪ってしまった。彼自身が本当に望んでいた日常というものを。

だから、ひかるにすべてを話して赦してもらいたい。もしかしたら、それで赦してもらえないかもしれない、だけども私はそうせずにはいられない。

他のどんな行動よりもそれを優先しなくちゃ、本当にひかるに合わせる顔がなくなってしまう。

この気持ちをなんというのか、私は知らない。

自責の念か、贖罪を求めているのか、はたまた恋と言うものかもしれない。

ただ分かっているのは、私はどうしてもひかるに会わなくちゃいけないということ、それだけ。

「ほぉ、それはまた随分と……皮肉なものだね。ま、この世界では僕には全く関係のないことだから、これ以上は言わないけれど……。そろそろ、行くかい?」

「……どこに?」

「神々の国の……その場所に通ずる扉に、さ」

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