第6話 わたしの知らない世界

「ここは……?」

そう、気付くとのどから声が出ていた。

その声は、今までの少し幼い私の声とは違って少し大人びていた。

それにしても、ここは……どこ?

ゆっくりと体を回して、周りの様子を確認する。

まず、どこかの部屋にいるのは間違いないとは思う、うん。

灯りは壁に備え付けてあるランプのようなものは一応ある、少し前時代的な感じもするけど。部屋の中は、非常に簡素で灯り以外は私の目の前にある机と、壁に掛けられている大きな鏡以外は何もないみたい。机の上には一冊の厚いノートのようなものが置いてあって、ぺらぺらとその中身を見てみる。

ノートのページには日付と三人称の客観的な文章が書いてある。

ちらっと見てそれは日記のように見えるけど、多分違うんじゃないかと思う。

日記にしては文章が味気ない。

それに……と思って、私は不思議なことが書いてあるそのページで手を止めた。

その文章には、こう書かれていた。

『この神の言葉を書いている私は今日この日、その魂と、並行世界のその者の魂と入れ替わる』

そして、その先のページは全くの空白になってる。

ここに書いてあることを信じるなら、私は私がいた世界とは別の世界にいることになって、ここでの私は神の言葉を聞く事ができていた、と。

ふと、思い出したくもない人の顔が思い浮かぶ。まったく、ここまで来ても繋がっているとは、本当に嫌気がさす。

でも、だとすれば信じられない話でもない。

あの時、私の耳には確かに世界の歯車が外れていく音が聞こえていた。私がひかると最後に一緒にいたとき、あの人たち――神の創りしゲームの参加者――も少しあせっていたようにも見えたから、それは嘘ではないのだろう。

世界が崩れる前に私を手に入れて神になろうとした。私を殺してでも。

まあ私が生きていても死んでいても、私の力は私の中にあるし契約もできるから別に支障はないのだろうけど。

ただ今はその力はこの世界での基準に合わせて作り変えられているみたいで、もう私には宿っていないみたい。

だから、落ち着いていると言ったら落ち着いているつもり。

なんであの人たちが焦ったのか、予想もついている。

ただ心配なのは、今あっちの世界がどうなっているのか、だよ。

ひかるは大丈夫かな?

もうきっと、ひかるは完全に私たちと同じ舞台に立ってしまっている。私とともに行動して、デムリスに追われ、颯也に保護され、シンクに命を狙われた。もうほとんどの参加者と関係を持ってしまっている。たぶん、そこから抜け出すことはどう頑張っても無理。

もしひかるに会えたら今度はきちんと話さなくちゃいけない。

あのお願いは生き残るためじゃなくて私にとってのわがままでしかなくて、たとえその破片を知っていたとしても結果的には彼を私が巻きこんでしまったのだから。

自己中心的なことは分かってる。だから、あんなほんの胸のざわめきで、本能で、思いで動かなければとも思うけど、その過去はもう変えることはできないから。

それに私も無意識にひかるを求めてた。

今もそうかもしれない。

多分、彼の心に長く触れていてしまったから。

彼の気持ちを全部知ってしまって、それであますとこなく私は彼を知ってしまった。

今まで生きてきた中で私は彼の多分一番近くにいた。そう、あの人よりも。

それだけで私は、きっと……。

その後、私はこの部屋の中を見て旅に必要なものをそろえた。大丈夫、旅するのにはなれている。きっと、ひかるには会える。

そして、その場所の去り際に見た大きな鏡には気のせいかもしれないけれど、黒い影が一瞬ちらついているような気がした。

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