第4話 この意味
世界の時間が止まったような気がした。
それは、本当に気のせいだったかもしれない。夢の中だったかもしれない。
だけど、僕はその時、その場所にいたんだ。
世界が灰色に染まっていた。
そして何もなかった。
音も、色も、人も、物も、息も、気配も、何もかも。
確かに、そこにはちゃんとした建物があって、車があって、ちゃんとした町にはなっているのだけど、だけどそこから生きとし生けるすべての世界の要素が抜き出されたみたいに、言ってしまえば時が止まったような感じのする場所だ。
ここは……?
そう、声を出そうとしたけど、僕の口から声は出ない。
多分、息もしていないんだろう。
これが臨死体験、というものなのだろうか。
僕の身に何が起こったのかぐらいは把握している。
僕の腕の中にいたこのみもこの場所にはいない。
彼女が生きていればいいのだけれど……。
彼女には、僕の判断でひどいことをしてしまった。
もう、どうしようもないことだけど。
それにしても、この状態も随分と長く続くな。
僕は、ここでどうすればいいんだろうか?
でも、とりあえず……そこらへんを――
歩き出そうとして、足を止めた。
なんだ……、あれは……?
僕が歩き出そうとしたとき、僕の丁度正面から何かが歩いてくるのが見えた。
発光……している……?
そう光っていたのだ、その得体のしれない人型の何かは。
身長は優に三メートルを超え、顔には青白く光る二つの眼球があり、その透明感のある体からは紫色の光がともっている。
まだ現実味のないこの世界だから、それを見てもただ不気味だと思う以外は何も思うことはない。
だけれど、もしこれが現実の世界で現れたなら僕は真っ先に逃げだすだろう。
ゆっくりと悠々と一歩ずつ、僕に近づいてくる。
僕は逃げなかった。
逃げられなかったわけでもなく、逃げなかった。
不気味だけど、怖くはなかった。
いや、言ってしまえば、そこにいてすべてを受け入れるのが自然のように思えた。
ゆっくりと近づいてきて、僕の目の前でそれは止まって、その大きな拳を持ち上げる。
僕はそれを静かに見つめる。
だんだんと心に波たつ波紋が静かに、鎮まっていく。
――君で最後だ……
そう聞こえた気がした。
そして、持ち上げられた拳が振り落とされた。
そして、再び僕の意識は途切れた。
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