第0話

周囲はすっかり暗く、そのくせまだ眠れやしない空が街灯がいとうに照らされて不服そうな顔をしている。

思いつきで立ち寄った店は穏やかに品のいい音楽が流れていて、中にいる数人もそれぞれ静かな時間を堪能たんのうしている様子だった。

私はそれがとても気に入ったのだが、何だか少々場違いだったかも知れないと席に着いてから少し考えた。


「えっ、あぁええと……珈琲コーヒーを」


いつの間にか注文を聞きにきていた店員に、なんとかそれだけ言った。格好がつかないにも程があり、滲み出てくるような気恥ずかしさに何もない窓の外を眺める。

思っていたより緊張しているらしく、ほどなく出てきた珈琲コーヒーを何度もかき混ぜてからやっとのことで口まで運んだ。

どこか現実味がなく夢を見ているようで、重だるく疲れた目を閉じる。よく分からないまま加減を間違えたのだろうか、酷く甘いのにそれでも良い香りのする液体が咽喉のどを流れていく。

ゆっくりと目を開ければ、懐かしい声がする。

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かわり 百草 @byakusou

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