かわり

百草

第1話

「ごめんね。わたし」

悲喜ひきそれぞれのちょうど中間地点で迷っているような表情を浮かべながら

「上手に、できなくて」

彼女はひとつずつしぼり出すように音をこぼした。

「あぁ、でも……ええと」

それは何かを探しているようではあるが、未練なのか執着なのかよくわからない。

「また、会えたら」

開いて閉じた口の奥に、その言葉以外の何をかくしたのだろう。

崩れてしまいそうな小さな身体を自らの両腕で強く抱き留めてから、指先で魔法をかけるように優しく私の唇に触れて白く透き通った笑みを浮かべた。


――すぐに会えるさ。


つられてにじんだ笑いを含ませつつ、軽く手を挙げて店員に声をかけた。


「もう一杯ください」



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